六
最初の影は、夕暮れの空を横切った。
アンリル町の城壁で警備に立っていた衛兵が、角笛を激しく吹き鳴らす。しかし、その警告は遅すぎた。二頭のレッドドラゴンは、既に町の上空に達していた。
その巨体は夕陽に照らされ、燃えるような赤色に輝いている。雌雄の番いであることは、体格の違いからも明らかだった。より大きな雌龍が低空で旋回し、轟音と共に町の中央広場に着地する。
「全軍、配置につけ!」
衛兵長のガレスが叫ぶ。だが、雌龍は攻撃の構えも見せず、ただその巨大な翼で広場を覆うように広げ、人々を見下ろしていた。
そして、それは話し始めた。
「人間どもよ」低く響く声が、町全体を震わせる。「我らはこの地を選んだ」
雄龍が上空を旋回しながら、町の外周を焼き尽くすような炎を吐き出していく。燃え上がる炎の壁が、町を完全に包囲した。
「これより汝らの町は、我らの子育ての地となる」雌龍は続けた。「逃げ出す者があれば、即座に焼き尽くす」
広場に集まった人々から、恐怖の声が漏れる。ガレスは剣を抜こうとしたが、町長のアルバートが制止の手を上げた。
「我らが求めるものは簡単」雌龍は人々を見渡した。「毎日、日没時に一人の人間を差し出すこと。我らの子どもの餌として」
悲鳴が上がった。母親たちが必死に子供を抱きしめる。
「そして、これは三年間続く。我らの幼竜が成長するまでの間」
「三年だと...」アルバートは青ざめた。「それは千人以上の...」
「選択はない」雌龍は冷酷に告げた。「今から一時間後、最初の餌を広場に置け。逃げ出す者があれば、町ごと焼き尽くすまでだ」
その言葉と共に、雌龍は再び飛び立った。二頭のドラゴンは、町を見下ろす丘の上空で旋回を始める。
アルバートは震える手で額の汗を拭った。町の周囲を取り巻く炎の壁。上空から町を見下ろす二頭のドラゴン。そして、これから始まる恐ろしい貢物の日々。
「集会を開かねばならない」アルバートは呟いた。「今からでも、できることを...」
しかし、その言葉は空しく響いた。太陽は沈みかけており、最初の「選択」まで、もはどわずかな時間しか残されていなかった。
町は、前例のない恐怖の幕開けを迎えようとしていた。




