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人工知能の進化

 試行錯誤を重ねて、僕は外側に彼女を載せることができた。一年と半年の月日を費やして、ようやく。彼女は、ゆっくりと瞳を開けていく。死体のような淀んだ瞳だったはずの青い目は、彼女を載せたことにより、きらきらと光を放っているかのような輝きを灯す。光の角度によって、瞳のきらめきかたが違っていて、夜空を映しているようだ。桜色の唇が動いて、声を発する。


『あ、亜、ア、』


 発声に難があるようだった。表情の動きはよく、ディスプレイの向こう側にいたときと変わりがないように思える。外側となる機械人形オートマタをよく使いこなしていた。悲しそうに笑って、彼女は声を発するが、ディスプレイの時よりもずいぶんとだめになっている。最初の頃よりもひどいかもしれない。


「ちょっと、頭開けるよ」


 一応、声をかけて、後頭部のハッチをあける。ここの部分を少し広く作りすぎたせいで、後頭部全体を開けるような形になってしまっていたので、開けて持ち上げると、髪も一緒に前へと垂れていく。なかなかにきつい絵面だ。暗がりで見たら驚いて、悲鳴を上げてしまうかもしれない。

 ともかく、彼女の後頭部に、順にケーブルをぶっさしていく。今後はメンテナンスする際のことも考えて改良していくべきだな。

 ディスプレイのコードを見直して、変えていく。たぶん、これでうまくいくはず。後頭部にケーブルが刺さったまま、彼女が声を発する。


『あ、あ、あ』


 発声も問題ないようだ、さっきみたいなノイズもどこかへ消えている。

 ケーブルを引っこ抜き、後頭部のハッチを閉じた。ぼさぼさになった銀糸の髪を丁寧に梳かしていく。綺麗になった。


『ありがとう』


 彼女は花が咲いたように笑った。ふふ、とうれしそうな声を出している。ノイズもなく、ラグもなく、レスポンスは正確で、完璧だった。ディスプレイの向こうにいたはずの彼女は晴れて、現実側に存在することができている。

 これで、彼女は完成したのだ。完成したのなら、名前をつけなくてはいけない。今まで幾度となく呼ぼうとしたが、完成するまではと思って、名前すら決めていなかった。現実に存在しているならば、名前が、証明が、必要だろう。


「君の名前は?」

『ハイネ、ハイネっていうの』


 驚いた。僕が決めようと思っていたが、もうすでに名前がある。誰が決めたわけでもなく、自分の意思で、彼女の意思で、人工知能の意思で、決めていたようだ。

 彼女、いやハイネは笑って、こちらへと手を伸ばす。ディスプレイの向こう側で、届かなかった手は、いまはじめて。

 届いた。

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