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33話「燃え盛る脱出!」

「誰を助けるですか?」

「地下の牢屋に捕まってるコルックって奴だ」


 あの後色々散策して、どうやらここが地下だという事がわかった。

 俺たちは衛兵を避けながらようやく、コルックが捕らわれてる牢屋を目の前にしている。


「ほら、多分アイツだ」


 体中、傷だらけのコルックが鉄格子の中にひっそりと座り込んでいた。

 それを見たルルは呟く。


「知り合いですか」

「んいや、相手は俺の事を知らない」

「じゃあ何で助けるですか」


 そうか……ルルは知らない。あの時起こった事も、バルディア族の事も。

 俺は一息置くと、濁すように呟く。


「んー、まぁ色々あってな」


 説明するのが面倒ってわけじゃない。

 ここでルルと呑気に話していたら、衛兵に気づかれそうだから口を閉じたんだ。


「あの衛兵、動きそうにないな……」


 小さく呟く。


 コルックが捕らわれている牢屋の目の前には衛兵が二人いる。そしてその牢屋がある通路の入口にはまたもや衛兵が。

 牢屋の周りは他の衛兵が交代で巡回しているようだ。どうやら警備が厳重すぎて、近付けそうにない。


「アレをどうにかすればいいですか」


 おもむろにルルがそう口走る。


「あぁ……っておい!?」


 ルルは口を開くとほぼ同時に、衛兵の方へ歩いてゆく。


「大丈夫です。ルルは一人で練習したです」

「練習ってなんの……」


 俺の言葉を無視するように、衛兵の元に駆け出す。


「おい待ッ――ルル!!」


 ルルは入口の衛兵に近付くと、勢いに任せ手のひらを前に突き出し衛兵に向けた。


「お嬢ちゃんどうしたんだ? ここはお嬢ちゃんが来るような所じゃ――」

「――ファイヤーボム」


 ルルはそのまま手に魔力を集める。するとその魔力が徐々に膨れ上がり、手から大きな赤橙色の玉が放たれる。


 目の前の衛兵に直撃。

 声を出す暇もない。


 瞬間、放たれた炎が衛兵を包み込む。


 衛兵は、牢屋がある通路を行ったり来たり。逃げ惑うが、衛兵を包む炎は消える事はない。


「うわっ!? なんだ!?」


 牢屋の前にいた二人の衛兵を巻き込み、通路全体を炎の軌跡が走る。

 そのまま炎は衛兵を喰うように燃え盛り、時期に炎が鎮火すると丸焦げになった衛兵が倒れていた。


「た、たすけ、て!!」

「熱い熱い熱い!!」


 そして巻き添えを食らった二人の衛兵も、炎から逃れる事は出来ず、時期に丸焦げになりその場に倒れた。


「おい……ルル!!」


 圧巻された俺はその様子を見ているしか出来なかったが、事が終わると正気を取り戻し、慌ててルルに駆け寄る。


「練習の成果、出てるです」


 ルルは満足そうに目を輝かせていた。


「いや、やりすぎだから」


 起こった出来事を見渡して、冷静になった俺はルルの肩に手を当てて、溜息混じりにそう言った。


「でも、これで邪魔者はいなくなったです」


 俺は、地面に転がる衛兵に目をやりながら、衛兵を避けるようにゆっくりと牢屋に近付いた。


「な、なに!?」


 コルックは怯えていた。

 急に燃えて丸焦げになり倒れた衛兵を見つめながら、牢屋の奥の隅で縮こまっている。その表情は恐怖に包まれていた。涙ぐみ、震えながら恐る恐るこちらを見つめるコルック。

 俺はゆっくりと歩み寄ると、諭すように優しく語りかけた。


「大丈夫だ。怖がる事はない。あんたを助けに来たんだ」

「……ほ、本当?」


 コルックの震えが止まったような気がした。

 更に俺は、安心させるように語りかける。


「あぁ、本当だ。あの長の所に連れてってやるよ」


 俺は倒れている衛兵の腰に付いている鍵の束を剥ぎ取った。そして、合う鍵を探し牢屋に差し込み開けた。


「本当に、本当にミィは助かるの?」


 コルックは恐る恐る、俺たちに歩み寄る。


「あぁ本当だよ」

「このままあの拷問室に連れて行くんじゃ……」

「そんな事はしない。信じてくれ。早くしないと衛兵が騒ぎを聞きつけてくるかもしれない!」


 だいぶ怯えているようだった。

 コルックは恐る恐る、牢屋から出る。そしてフラフラと覚束無い足取りで俺の後をついてきた。


「これ、食べるか?」


 魔物の肉、ないよりはマシだろう。コルックは、もう何日も食べていないかのように、肉にむしゃぶりついた。


「早く行くです」

「あぁ、見つかるのも時間の問題だな」

「騒ぎを起こしたです。すぐに別の衛兵が来る予感がするです」


 いや、騒ぎを起こしたのはルルのせいだけどな。

 だがその気持ちは心にしまい、俺たちはそそくさと牢屋を後にしようとした。


 すると――


「今のはなんだ!?」

「こっちから聞こえたぞ!」

「すぐに確かめるんだ」


 やばい。

 衛兵が来る。


 咄嗟に通路から顔を出すが、衛兵はもうすぐそこまで来ている。今出たら確実に見つかる。

 かと言ってここにいたら……終わりだ。


 思考を巡らせる。


「リョウ、衛兵が来るです」

「あぁわかってる!!」


 焦りから強い口調で当たってしまう。


「どうするですか」

「今考えてる」


 あと少し。

 もう戻る事は出来ない。

 衛兵の足音が近付いてくる。一人じゃない。

 戦ったとしても、さっきのように上手くいくとは限らない。


「ルルがまた――」

「――待て」


 通路から顔を出そうとするルルの腕を引っ張る。

 焦った俺は、ルルとコルックの腕を強引に引っ張ると、コルックが捕らわれていたあの牢屋の中に入った。


 苦渋の選択だ。


 仕方ない。このまま衛兵がこっちに向かって来ても見つかる可能性しかないが……。でも少しの猶予くらいは出来たはずだ。


 辺りを見渡す。

 しかし窓はあるものの、かなり上で小さくしかも鉄格子に覆われている。


 ――ダメだ、詰んだ。


 もう見つかる未来しか見えない。


「おいどうした!? しっかりしろ!!」


 やってきた衛兵が、倒れている衛兵を見つけたようだ。

 もうすぐそこに衛兵が……。


「おい、あれを見ろ」

「なっ!? どういう事だ? 誰がこんな……」

「し、侵入者だ!!」


 衛兵はどうやら三人いるようだ。

 しかしこの調子だと、援軍を呼ばれかねない。

 どうする? 牢屋の目の前に転がる衛兵に、近付く足音が聞こえる。


「まさか……逃げたのか!?」

「無理だ。あいつは隊長のせいで傷だらけだったんだぞ……」


 コルックの事を言っているのか?


「か、確認してこい!!」

「わ、わかった」


 やばい。こっちに来る!


 足音が――

 一歩一歩近寄る音が――

 歩く度に聞こえる甲冑の音が――


 俺の鼓動を大きくする。

 脈打つような鼓動が体中を伝い体を熱くする。


 ダメだ。もう何も考えられない。

 緊張で吐きそうだ。

 ここで黙って捕まるしかないのか。

 せっかくコルックを助け出せたのに。何も関係ないルルまで巻き込んで……。


 ――最悪だ、俺は。

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