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ギャルだった子が留学して変わってから彼氏作る話

作者: デイロー

ギャルにも種類があるけど、大体集まって遊ぶことを好むことからリア充なんて言われるのは間違いないと思う。


私もギャルだった。集まるのは当然で、今どきの言葉を話して、物事なんて変に深くとらえることもなく時間の流れにゆらゆらと揺れる。それには安心感もあったけど、それ以上のことを望まないとそうなるだけだから。


息をすることにお金を支払うこともないでしょう、じゃあ息をしているからと誰かにお金をもらうの?どっちでもいい。今が楽しいのに未来のことは考えない。色んな化粧を試して、いろんな服を着て、いろんなファッションを試して。ただそこまで冒険はできない。みんなやってることの中でも、これがいいって思ったらそれに走る。


勉強はそこそこできていた。勉強が好きだからやっていたわけではなくて、頭の中に入るんだから要領よくついていくと何となく感覚がつかめる。ただそれもあくまでそこそこ。別に天才じゃないし。秀才でもないし。


ただギャルだからと舐められると腹が立つ。別に馬鹿がやりたいからギャルしているわけじゃないし。そもそもこっちはただ人生楽しんでいるだけというのに勝手にギャル呼ばわりとか何様だし。


それでもやめるときはやめるものである。


私はギャル、だった。


過去形なのはギャルの生き方をやめたからで。


特にきっかけがあったとかじゃなくて、うちはそこまで裕福な家庭でもないのにママもパパも娘に期待していたのか何なのか、夏休みに語学留学に行くことになった。


たったの二か月だからと甘く見ていたことは否めないけど。


それまでただゆらゆらと楽しみながら過ごせばいいと思っていた景色がどこか遠くの出来事のように思えてきて。


別に特別な何かを経験したわけではない。普通に入って、基礎から学んで、授業を聞いて、休日にはそこで作った友達と出かけて。


いや、出かけても安全ではなかったから、やばい雰囲気をかぎ分ける能力なんてなかった私は何回も助けられた。


あまり悠長に話せないし、ただの小娘だし。10代なんてみんなそんなものだし。


それでもパーティとかもあったし、それなりに楽しかったんだと思う。


いろいろあったけど、まあ。


ただゆらゆらと揺らされながら生きるのはやめた方がいい気がした。


何を感じたなんて、聞いたことのない音楽とか言葉とか話とか関係とか。


色んな国の人たちが発表している時間に語る夢とか、案外聞いてしまうものだから。


英語で話しても聞いてしまうものだから。私って、何も考えてないし。幸せになろうとしたらなれるものだと、今の自分が楽しいんだからそれでいいと。


ただ漠然とそう思っていただけだし。


帰ってきたら急に眼も悪くなって、眼鏡までするようになった。


お化粧もやめて、染めた髪は元通りに。


知ってる?日本人だろうが中国人だろうが、アメリカ人からしたらただのアジア人でしかない。見た目でわからないから。


一つの文化圏として強制的に位置づけられて、評価されて、受け入れられて、思われて。


長い留学にならなくてよかったかも。


自分が自分でなくなるような錯覚を覚えた。人種差別とか、差別をする意図がなくとも知らない人たちとひとくくりにされるだけで、こっちは痛いって、話せない。痛くてもそれが現実だから歯を食いしばって生きているだけでしょうけど。


私にそこまでする勇気も度胸もなければここに永住したいわけでもないと。


悪い人とかいい人とかそういうレベルの話じゃない。ただ自分が自分以外の何かに位置づけられて、自分がそうじゃないイメージを作ろうとどうあがいても滑稽になってしまう感覚。


悲しい?怒ってる?苦しい?やめたい?


そういうものでもない。手を伸ばしても届かない。自分が生きていた現実なんて、ただ揺れるだけでよかった現実なんて、とても軽いものだったんだと、軽くて、同時に重苦しいものの上に立っているものだったんだと自覚する。


国という枠組みが思ったより多くのことを含んでいたことで心がざわめく。


だから帰ってきた私の雰囲気が変わったことにパパもママも満足していたんだから、はては英語なんて二の次で、本当に狙っていたのは私が人として成長することだったなと。


別に恨み言を言うつもりはない。ギャル友達とは軽く挨拶する程度の関係にまで変わってしまった。


未来に夢はまだなくて、そもそも今決めたいと思っているわけでもない。別にそれでいい。揺らされないよう、自分をしっかり持つようにする。それが今の私の目標となった。


読まなかった本を読んで、見てなかった吹き替えもしていない英語圏で作られた映画やドラマを見て。


私の世界はそうやってゆっくりと、しかし確かな手ごたえを持って広がり始めていた。


私の顔は、化粧をしなかったらまあまあだと思う。昔はあたしってブスかな?ちょっと鼻低すぎない?とか、顎のラインがもっとシャープだったらよかったのに、とか思っていたけど。


実際に外国に住んでる白人とかヒスパニックとか黒人とか近くで見ながら生活しているとどうでもいいって思ってしまう。


結局、彼らが言うように私はただのasianでしかないのである。ジャパニーズと言っても、ジャパニーズなんてアメリカのテレビで英語をしているジャパニーズは出ない、英語をしているAsianが出るだけ。


化粧は日焼け止めとグロースを塗るだけになった。勉強も積極的にするようになったけど、学校の勉強ではない。


生きる勉強である。経済の本を読んだり、法律とか社会とか、歴史とか、人権とか、そういうのを読んでいる間に学校での成績は右肩上がりになったのは予期せぬ結果だった。


頭を毎日使っているから充実してて、寝る時間も早くなってて、自分からジョギングするようになって。


たかが一回の留学で人がここまで変わるものだと自分でもどうかしている気がしたけど、目を閉じるとたどたどしい英語で馬鹿なことを話していた小娘の顔が思い浮かぶ。何を隠そう、自分である。


何も知らなかった自分が。


その年の学年が終わって、進級して、クラス替えが行われた。


ギャルの子たちを今では微笑ましく見る自分がいる。あいつらも留学に行かせたら私のようになってしまうのかな。どうだろう。私は自分が馬鹿な小娘だったことを自覚できたけど、誰もがそう都合よく変わるものかな。


最近悩みができた。知識を習得することは、頭を使うことは、私だけじゃないと思う、性欲も強くする。


じゃあどうする。付き合う?この年の男の子は、何となく気難しい印象がある。


気難しいというか、かかわったら結局喧嘩別れする気がする。期待していたのに、期待したことと違っていたとか。


映画でたくさん見たのでわかる。10代が他人に期待して、支えあうとか、妥協するとか、そんな難しいことを考えるわけがない。私だってそうだった。男の子でもみんな似たようなものでしょう、自分が思っていることしか思えない。その範囲を超えた出来事を受け入れては柔軟に対処ができるなんて、普通にあり得ない話な気がする。


みんな自分のことで精いっぱいなのに、他人のことなんて、好きになったとかが先に来てしまったとしても気にする余裕なんてあるわけがない。他人と付き合ってない自分が理想だけ高いと自分で思い込むことにしてから壁を作ることも少なくないでしょうし。


少女漫画とかそうでしょう、そんな都合よく赤の他人に好かれるわけがない。望んでいるファンタジーを満足させてくるなんて虫のいい話があるわけがない。あるならあるだけ疑うでしょう、結婚詐欺か何か。それともあれか。


男性は自分がやった女の数を増やすことを何かステータスのように思ってしまうでしょう、その考え方は女性だけではなく他人と心から繋がれない自分自身の心すらも深く傷つけることを知らないんだろうか。


ああ、昔はこんなことは考えなかったんだけど。


私も二年生くらいになったら彼氏作って、えっちして、とか。


相手はイケメンではなくても、後腐れない人がいいな、とか。


クラスにカーストみたいなのあるから、リア充仲間でやることはやってしまおうとか。


そんな単純な感覚だったのに。


今は文学を読んでから涙を流すことすらある自分が不思議でならない。人間って、こんなに不思議にできているんだなとつくづく実感する。


だけど、まあ。性欲があるのは否定しようがない事実である。外に出てみると何となくわかることもあるけど、内側を満足させてくれそうな相手こそが本当に必要なのである。



誰がいい?誰にする?私が選ぶ側?そもそも誰かに好かれる自信なんてないのに。じゃあ年上から探す?


それは嫌だった。そんな多くを求めることもないでしょう、性欲を満足するために必要な条件が何なのか、10代の青臭い恋愛で喧嘩別れとか自然消滅とかにならないようにする方法って何があるのか。


できれば付き合ってから、それで所詮は子供なんだから、別れることなんて必然だから、変に引きずることも傷つくこともなく、そう、最後は友達になって終わるとかいいと思う。


そうするためには目立っている連中はむしろ男性としてのプライドとかで面倒になるに違いない。別にプライドがない人間が欲しいわけでもないんだけれど。


そういえば、私も去年からよく言うようになったことがある。陽キャとか陰キャとか。今考えてみると本当に馬鹿馬鹿しい言葉で、キャラなんて作ってる時点でみんな似たようなものでしょう、押し付けているだけの連中とか押し付けられているだけの連中とか、いなくもないけど。


私が通っている学校はそこその進学校で、偏差値はみんなしてそこそこ高くて、みんなして平凡な家庭出身だ。


そういえばこういうの、階層というか、社会にできた隔たりというか、そういうのを自覚するようになったのもつい最近のことである。


わからなかった。ギャルやってると、いろんな学校の色んな家庭の子と割と簡単に打ち解けて、みんなして似たようなことをして過ごすから。やばそうな子はちょっと無理とか、そういうのはあったけど。


薬やってるとか、言葉の使い方がおかしいとか。


今の私は、どうしたものか、ボッチになっていた。別に困ってないけどね。好きでやってることだし。だけど、高校生の時の友人とか一生ものとかよく聞くから、そこで安心していられない自分もいる。


じゃあ今から開き直って話題についていこうと頑張るとか、いやいや、もうできそうにないし。ギャル語というか、みんなで使ってた言葉も全部抜けてしまった。


もはや今の私は、どっからどう見てもただのボッチでしかない。困ってないんだって。


そうじゃなくて。


彼氏である。


けどあれだよね、男の子って、友人とつるんでいる時間とか多いでしょう、やってたらやってただけでやった内容とか話題になっちゃうわけじゃん。


偏見かな。


少しは偏見が入っていた気がしなくもない。そう思ったのはクラスの片隅で私と同じくいじめはされないけどボッチ枠の男の子と話した時。


偶然というか、ボッチ同士だから押し付けられているのか、二人でクラスの雑用を押し付けられることがある。


ああ、これが陰キャかと、私は今更ながら実感した。クラスカーストの最上位まではいかなくとも、かなり上位にいたギャルから急転直下して陰キャの仲間入りですよ。


その男の子はというと、ずっと本を読んでいる感じの、読書好きなおとなしい少年、といった印象を持っていた。


私も本を読むときが多い。逆に本以外に休み時間を友達との交流に使うには何もかも勿体ないと思ってしまう。この時代にスマホがあったなら映画を見たかもしれないけど、残念ながらまだガラ携しかなかったのだ。


アプリじゃなくメール。メール、メール。昔の馴染みは、付き合い悪くなってない?とかすごまれたこともある。


なんで変わったのって。何が不満なのって。


別に不満なんてないから。私は笑った。笑顔で見つめた。可愛いなと思った。馬鹿な小娘は可愛いものだと思った。ちっぽけな世界で、例えるなら国と階級、平和と社会という名のプールの中で泳いでいるだけの、小さな小さなおさかなさん。大海も知らないのね。私も知らなかった。


彼女は私の、何か遠くを見ているような雰囲気と笑顔を見てから何も言えずに距離をとった。そこで終わりである。


終わったら私の時間だ。一人の時間を大事にしないといけないんですよ、人間は一人の時でしかわからないことがたくさんあるし、人生は結局一人で向かい合わないといけないものですからね。




───────




僕の家は厳格だった父とゆったりとした雰囲気の母、妹と僕で四人家族である。


別に古い家とかそういうものでもないのに、それなりにお金を持っていて、明治時代からのビジネス関係とかもあるらしいが、家を継ぎたいと思ったことは一度もない。


いろいろ習い事もさせられて、塾にも通わされた。そのビジネスというのも何十億のお金を動かせる企業ではなく、ただの店。ちょっと大きいだけのお店である。


僕はそれより公務員にでもなって、毎月決まった給料をもらいながら好きなことをして生きたかった。父は僕に仕事の段取りとかいろいろ教えようとしたけど、僕には無理な話である。


一人称も人前ではみんなと同じく俺なんて言ってるけど、僕は心の安寧が欲しいだけの小物だ。いろいろさせられて、勝手にできることが増えただけの。


見た目は、母が結構美人なこともあって悪くないと思う。別に息子からの自慢ではない。母は昔雑誌でファッションモデルをやったこともある。


父が厳格だったというのは、まあ。病気になったから。胃がんだった。抗がん治療と何回かの手術を受けてからはすっかりと仕事に対してのやる気をなくして、弟に全部任せて自分は一人で遊びまわっている。遊ぶといっても登山とか釣りとか、スポーツとか、そんな感じだけど。


僕はそれで急に息苦しかった人生から自由になって、同時に父が死ぬかもしれないという恐怖からも解放されたわけだから、じゃあ今から好きに生きようとなるのかというとそうはならない。


僕の趣味は、まあ、あれだ。ただのオタクである。漫画とかアニメとかラノベとか好きで、学校でもラノベを読んでいる。ただ僕は、なんというか。こんなオタクをやってはいるけど、世の中の冷たさというか、父から仕事のいろはを学びながら僕だっていろいろ考えたさ、そりゃ。


世の中は信頼とお金で動くものなんだな、とか。


学校でいろいろやってるけど、実際は何も役に立たないんだな、とか。


まともな大人ならみんな自分なりに考えを持っているんだな、とか。


僕も自分の考えというのを持つためにいろいろ本を読んだ。ラノベと漫画だけ読む系のオタクたちは、クラスにも数人はいる。数人と言っても三人くらいだけど。


別に自分が彼らより優れているからえらいとか、そういうことじゃなくて、単純に話が嚙み合わなあい。


中二病が言っている哲学がただの格好いい言葉を並べているだけだというのなら、僕は普通にデカルトとカントを読んで、なんてことを考えて生きていたんだこの人たちは、とか思っているから。


だから僕には友達がいない。このクラスにも読書をしている理知的な子が僕以外にもいるっちゃいるんだけど、彼女はなんというか、美少女過ぎて近寄れない雰囲気がある。


鼻が少し低いだけで、ロり顔というか…、いや、それはちょっとやばいか。事実だけどロり顔と本人に言える気がしないので心の中でも呼ばないようにする、とにかくかなり可愛い顔立ちをしていると僕は思っているし、クラスメイトたちも彼女がいないところで、あんなに可愛いのになんであんなに変わっちゃったんだろうとか言っているから。


変わった、そう。変わったのだ。僕は一年の時彼女とは別々のクラスだったので、何回かすれ違ったことがあるんだけど、彼女は、この学校が進学校にしてはちょっと校則がゆるゆるなこともあって、一目でわかるギャルだったのである。


プリクラとか、携帯にアクセサリーの数がすごいことになっているとか。


その時から少しは見ていた。絶対彼氏いるんだろうな、僕なんか相手にしないんだろうな、とか思っていたんだけど。


クラスが変わってどうしたものか、クラスの陰キャはいろいろ雑用を押し付けられるが、僕もあまり人と話そうとしないこともあって陰キャ認定されてからそれが始まったのだ。


軽いいじめだと思うが、別にそんなひどく迷惑だとか、そういうものでもないからと淡々と押し付けられる雑用をやるようになったが、彼女も同じく押し付けられたことにびっくりした。


見た目ではない、やはり子供は子供なんだろう、大人の世界ではこうはいかない、とかじゃないことはわかっている。


舐められる人は舐められ始めたら押し付けられるまで時間はかからないし、条件だって必要としない。


僕だって見た目は悪くない…、ことはないから。前髪が長いので多分、あれだ。少女漫画とかで出てくる、前髪を上げたら美少年…、いや自分で自分のことを美少年とか恥ずかしすぎる。


それで彼女と雑談をすることも増えた。最初は何も話さないままでいようと思ったんだけど、彼女からいろいろ聞いてきた。なんともないように。やはりコミュニケーションを頻繁にとっているのだろう、言葉遣いも普通で、自分から僕に気になることを聞いたり、話題を探して意見を聞いたりして、僕もそれにこたえているうちにだんだんと彼女に自分から話しかけるようにもなった。


彼女は、なんというか。なんとも言えない不思議な感じがする人だった。


例えばこんな会話をしたことがある。


「人が禁忌に魅力を感じるのって、実は自分たちが住んでいる環境が異質だからなんじゃないかって思うんだけど。例えばアメリカの首都に住む住人は選挙権がないんだけど、アメリカ内で一番近親相姦が行われているんだって。」


「へ、へぇ…、それはすごいね…。」


「何か意見はない?」


「ま、まあ。日本もあれだよね。従妹同士の結婚が昔から許されていたこともあって、血が混ざりすぎて奇形児出産がそれなりにあるんだと。」


彼女はそれを聞いてニコニコと笑顔でこっちを見ていた。ゴミ箱にたまったごみを捨てて戻る途中にする会話じゃない気がしなくもない。


「私にも男の人の親戚はいるんだけど、みんな年が離れてて。そういう機会がないのは残念かな。」


「ざ、残念なんだね…。」


いやいや、何を言ってるんですかこの人は。頭にチョップでもしたくなるが、さすがにそこまでする勇気が出なかった。


「冗談だって。別に近親相姦にあこがれているわけじゃないからね?」


「ま、まあ。そうだね。僕もそれが普通だと思うよ。」


「宮木君はどうなの?女の子の親戚、いるの?」


「いや、小学生の子はいるけどさすがに。妹がいるだけで。」


「妹ちゃんいるんだね。名前は何というの?可愛い?」


「まあ、うん。中学生だけど、結構家では喋ってる。」


「どんな話するの?」


「雑談。兄妹ってみんなそうでしょう。」


この時まで僕は何というか、自分が狙われているんだとか、そんな彼女のような可愛い女の子が僕なんかと付き合うのはあり得ないと思っていた。



何回か勝手に妄想をしたことはある。


僕だって年頃の男の子なので、なんだ、彼女は結構僕の肩とかさりげなく触ってきたりするので。


この間は彼女が何もない廊下でこけて、あの、パンツを見たことがある。その日はちょっともやもやして、彼女を考えながらまあ、なんだ。ティッシュで出したことはあるが。


だけど別にどうこうする気持ちはなかった。


しかし彼女は違ったようで。


「あの映画のブルーレイ持ってるって言ったよね。」


「ああ、あれね。持ってるよ。」


「見に行っていい?」


ここで僕はたくさんのことを考えた。


それはもう一瞬で様々なことを考えた。


そして最終的に、僕の家で僕の妹と会ってみたいのかなという、頓珍漢な結論にたどり着いた。


「いいよ。」


それでそう答えて、その日のうちに童貞を捨てるなんて考えもしなかったのである。



──────



彼氏ができた。


私が押して押して押しまくった結果だから、別に後悔はしない。


ただ、なんというか、想像していたのと違った。


もっとフィギュアとか多いオタクというか、アメリカでいうnerdの部屋を想像したんだけど、そうでもなかった。普通に本棚があって、部屋に液晶テレビもあって。それなりにお金持ちなのかな、家自体もうちのより大きかったし、夜には高いお寿司を食べて。


話もよく通じるし、私が求めたら答えてくれるのは結構うれしい。彼が自分から求めてくる時もあって、それもそれなりに楽しかった。


刹那的な快感なのに、長く続く時間の流れの中に確実に刻まれているような感じがした。


他人と体が繋がるだけで生活の充実感が段違いで、勉強とか、読書とか、前より進むようになった。


私だけ楽しんでいるだけでもないようで、彼もイメチェンをしていた。私にふさわしい男になりたいんだとか。


いや、そんな別に。


私が選んだのがその結果だし、そこから自分を変えるとか、確かに彼は体に筋肉とかついてなくて、髪型とかちょっとダサいというか、なんでそんな前髪長いの?みたいな髪型なんだけど。


そんなに気になることでもなかったのに、ジムに通い始めてイメチェンをして、私が歌がうまいからと一人で歌の練習とかして、カラオケで結構難しい曲をデュエットで歌えるようになったんだけど。


それで、えっと。


モテそうじゃん。


そりゃモテるよね、と。


私も告白されたことは何回かある。


全部断った。女の子同士で遊びに行ったり来たりするのが楽しかったから。


いや、まあ。興味はあったけど、多分ママとパパからいろいろ聞かれそうで怖かったのだ。うちは家族の距離が近くて、今でもママとはお風呂一緒に入ってるし、パパと一緒にお料理したりするし。


だから初めて彼氏ができるなら、せめて私が自分で決めたの、私が決めたんだから口出ししないで、って言えるようになってからにしたかったのだ。


だけど彼は、ちょっと、予想外にママとパパからの評価が高くて。


こんな娘でいいの?とか聞いてるし。


いや、なんで。私普通だよ?


彼も普通…、よりはちょっとまあ、格好いいかもしれないけど?


けど主導してここまでの関係にしたのは私だし?


彼は赤面していた。いや、別に生々しい話じゃないから、ただの主導権の問題で…。それ以上墓穴は掘らないでくれって、なんで?


ま、まあ、なんだかんだあったけど。


結局性欲に負けた時点で私も大したことがなかったのかもしれない。



おしまい

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼氏くんの頑張って垢抜けしようとする姿がなんかすごく好きです。 [気になる点] この後どうなるか気になる。 [一言] スパルタとロンドンでデイローさんのことを知って、この作品を知りました。…
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