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6.緊急着陸

 トロントを発ってからまだ一時間位しか経っていなかった。


 ミネアポリスまでは二時間ニ十分かかると行程表にあった。それなのに、なぜこのタイミングで着陸するんだろう。


 エンジン故障か何かのトラブルが発生したのか?


「里美、起きて」と声をかけるが、反応がない。本当にこの人は起こしてすぐ起きたためしがない。


 里美の隣の通路側の人も寝ていた。振り返ると後ろの座席の三人も寝ていた。前は空席だった。みんな眠り薬でも盛られたのかと訝る程ぐっすりと眠っている。


 客室乗務員に状況をたずねようと思い、コールボタンを押した。だけど何度押しても、誰も来なかった。


 まさかエンジンが燃え上がっていたりしないよね? 


 自分の想像にゾッとしながら小さい窓に張り付くが、煙も何も見えてこない。


 もしかしたら、普通にミネアポリスに到着するのかもしれない。コーヒーを飲んだ後、知らないうちに一時間眠ってしまったとか? 


 いやいや、そんなことは有り得ない。私は飛行機では眠れないのだ。



 ……もしかしたらワープでもしたのだろうか? そんな突飛な考えが頭に浮かんだ。


 ワームホールに入ってショートカットでもしない限り、一時間でトロントからミネアポリスまで飛ぶのは無理だ。


 そういえば、と思い返す。さっき機長がアナウンスで言っていた空港名がミネアポリスじゃなかったんだよな。聞き取れなかったけど、やけに長い名前だった。


 一体どこに着陸するんだろう。


 急な着陸をすること、また客室乗務員が姿を見せないことを考えたら、さらなる胸騒ぎがしてきた。



 まさか、「ハイジャック」されたのではないだろうか? 



「里美、起きて!」


 肩を叩いたが、里美は死んだみたいに動かなかった。そこで肩をつかんで一回強めに揺すったところ、ゆっくりと頭をあげた。


「ねえ、起きて。なんかおかしいの。……起きろ!」


 里美は目と口を薄く開けたまま動かなかった。まだ寝ぼけているのだろう。


 私は首を伸ばして前方を見てみたが、コックピットは遥か先で様子も何もまったく分からない。他の乗客はみんな静かに座っているようだ。


「ハイジャックじゃないのかな……」と思わず独り言を言った。


「えっ?」と里美が反応した。


「ハイジャックぅ?」


 里美が素っ頓狂な声を出すので、慌てて「シーッ」と口を押えた。


「いや、分かんない。でも急に着陸するなんておかしくない? 何かトラブルがあったのは間違いないよ」と私。


「ねえ、全然分からない。トラブルって何? 何があったの?」と里美が当惑したように言った。とりあえず目は覚めたようだ。


 二列後ろの男性が大声で文句を言っているのが耳に入った。


『誰も来ないよ! 客室乗務員は何をやっているんだ?』


 相変わらず客室乗務員の姿はどこにもなかった。


 やはりハイジャックされているのだろうか…? 


 もしそうであれば、遅かれ早かれ凶器を持った犯人たちが私たちの前に姿を現すだろう。


 後ろの男性もあきらめたのか大人しくなった。他の乗客はみんなぐっすりと眠っているのだろうか? 相変わらずエンジン音だけが鼓膜を揺らしていた。



「湖が見える」



と里美が機窓の外を指さした。


 外を見ると、高度がずいぶんと下がっていた。


 晴れ渡った空に浮かぶ太陽が地球に強烈な日差しを投げかけていた。色鮮やかな森林がどこまでも広がっていて、その緑の中に様々な形の湖が点在していた。もはや、「景色が斜めに見えていやだ」とか、「高い所がこわい」とか、そんなことは何も感じなくなっていた。たぶん不測の事態に備えて、脳が緊急モードに切り替わったのだろう。


 湖の鏡面には空の澄んだ紺青色が反映していて、気味が悪いくらいに美しかった。まるで知らない惑星に不時着でもするような気がした。


「ここはどこなんだろう?」


 場所の見当はまったくつかなかった。


 しばらくすると、飛行機はとても静かに、そして滑らかに着陸した。


 ミネアポリスでもラスベガスでもない、どこか知らない場所に。



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