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先手を取ったのは蛮族のほうだった。
大振りな一撃は軌道が読みやすく回避するのは容易かった。
そのひと振りを見てアークは余計に警戒を強めた。
あの一撃をまともに受けたら、軽傷では済まないだろうと感じたからだ。
回避したその流れのまま、アークは蛮族の首めがけて必殺の一撃を振るった。
その攻撃は身長差のせいか喉を切り裂くには至らず、胸元に深い傷を与えた。
蛮族は痛みにうめくが、その瞳は闘志を失わず体は次の一撃を与えるために動き出していた。
至近距離を薙ぎ払うように振るわれた蛮族の剣を振るうために伸びた腕を利用して空中で回転しその一撃から体をそらす。
そのまま空中で体をひねる。
「(剣神ヒューレよ、わが剣に鋭さと力を!!)」
心の中で神に祈り渾身の一撃を振る。
すると、空中という不利な状況にもかかわらずその剣は彼の人生において一番の一撃をもたらした。
「死を覚悟しなければ、見いだせない道もある」
父から教わった剣神ヒューレの教えを、今になってその身に感じたのだ。
一瞬、アークは自分の剣が空を切ったのではと錯覚した。
それほどに手ごたえのないひと振りであった。
しかし、蛮族は違った。
アークが着地してもその場から微動だにしない。
不審に思って近づこうとすると突然蛮族の体がぐらりと揺らぎその場に胴が倒れた。
彼の振るった剣によって切断された頭部をアークの足元に転がしながらその命を終えたのだ。
安堵したアークは、蛮族の武器を戦利品に選びその場を後にしようとした。
すると、いつの間にか人影が立っていた。
驚いて剣を抜こうとするが、寸前でやめた。
身にまとっているのが森に入るときの父の姿だったからだ。
「時間だ。森を出るぞ。」
肯定を示したあと、父の背中を追いかけるようにして森を出た。
アークは、なにか小さな成長を遂げられたと感じていた。
その日の訓練は父にとって大成功だったようだ。
今後は一人で森を探索することを許されたが、一日3時間までを上限とされた。
森に潜り何度か蛮族と戦いわずかではあるが成長を遂げる日々を過ごした。
3年後、彼は成人し森の敵などすでに相手にならなくなるほどまで成長を遂げた。