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アークの初撃は痛手を与えはしたが、死に至らしめる程度ではなかった。
敵の胸元に突き刺さった剣の感触は初めてで、それが致命傷となったか判断がつかなかったのである。
全力を賭して心臓を狙った突きはその状況ではアークにとって体勢を崩すきっかけとなった。
剣を引き抜き距離を取ろうとするが、そこに無傷のダガーフッドが迫る。
だが、アークが剣を引く抜くとは思っていなかったのか狙いは大きく外れただアークの前を横切るように飛んだだけに終わった。
傷ついたダガーフッドも反撃に転じるが、父との訓練で培った動きは初めての鎧付き戦闘とは思えない動きでその切っ先を払いのけた。
アークは、もう一度傷ついたダガーフッドへと剣先を向け、必殺の構えを以て狙いすました。
ダガーフッドが迫り来るであろう攻撃に身構えた時に一瞬だけした瞬きの間にアークの剣は彼の喉を深く貫いていた。
そのまま剣を払いのけ、血しぶきが飛ぶが首が落ちることなくその場に崩れ落ちた。
無傷のダガーフッドは残心の隙を突き背後から襲い掛かるが、アークは間一髪その攻撃を回避した。
回避するときに皮鎧に刃が付き立った気がしたが、鎧に目立った傷はついていなかった。
鎧を気にする動きをしたアークを見て、隙と取ったダガーフッドがにやりと口を開いた。
前に踏み出そうとしたとき目の前を光る何かが横切った気がした。
なんだと思った時には、自分の喉は二つに割れ出そうとした言葉はただの空気の塊となって喉に開いた二つ目の口から零れ落ちた。
そして、彼はそのまま自らが踏み出した足に引かれるように地面へと倒れた。
初陣は、アークの無傷での勝利で決着した。
残念ながら、戦利品になりそうなものは何も得ることができなかった。
「ふう...緊張した...」
周囲の警戒をしながらの戦利品確認はかなり集中力をかき乱されたが何とか無事に終わったことに安堵する。
「(父さんは、これをずっとやってきたんだな...戦利品捜索とかの知識ももらったけど、実際に蛮族が出る環境でやるとかなり違うんだね...)」
すると、少し離れた場所から、何かがこちらに近寄ってくる音が聞こえた。
何やら嫌な予感がしたので、とっさにすぐ近くの茂みに身を隠した。
奥から現れたのは、大柄な毛むくじゃらの人型蛮族だった。
白っぽい毛の色と青みがかった肌を持つそれは、のしのしと歩いてくる。
アークは初めて見るそれに圧倒される。
大きい。
父と同じか、もしかしたらそれ以上かもしれない。
かなりの大柄な存在で威圧感もあり先ほどまで戦ったダガーフッドとは比べようもない強さであることは明らかだった。
獲物の剣もその丈に合わせ大きいが、切れ味は悪そうだ。切れ味での切断よりも威力での切断を目的に打たれたような剣は、ひどく邪悪な代物に映った。
「(あれが森のヌシか...?)」
彼はその状況によって相手がボルグという存在であり一般的にはフッド族を使役する傾向のある蛮族であることに気が付いていなかった。
「(...まずいな...いきなり強そうな蛮族と遭遇か...ここはさっさと逃げたほうが賢明か...)」
そう考えて茂みから反対側に出ようとしたとき、大きめの枯れ枝を踏み抜いてしまった。
「(やばっ)」
身を隠そうとしたが、すでに蛮族はこちらの存在に気が付いているようだ。
「(ここから逃げるのは無理...か)」
観念したアークは、覚悟を決めて蛮族の前に剣を抜きながら姿を現した。
「(さて、腕試し...といくか...!)」
両者の距離は、すでにお互いの間合いの中だった。
そして、戦いが始まる...