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森の中は、初めて見るアークの目には平和そのものに見えた。聞き覚えのある小鳥のさえずり、わずかに吹く風が揺らす木々のこすれる音...
この森に初めて踏み入ったのにアークは不思議と安心感を感じていた。
しばらく散策しながら、自分が歩いて来た道を忘れないように小さな目印を木につけていく。
自分だけがわかる痕跡としてつけていくその行為は母から教わった知識である。
しかし、それは知識で行動する存在のいないあの平和な森だからこそ成立することであったが、今の彼はまだ知ることはない。
森に入り30分ほどあたりを散策していると、目の端に気になるものが映った気がした。
よくよく見ると、人に似た二足歩行の何かの足跡だった。
アークの持つ知識からは、それがフッド族、それも近接攻撃を得意としたダガーフッドであると判る。
さらに、その足跡が比較的最近この近くを通ったことと、森の外であろう方向に向かって動いていることがわかった。
どうやら森の中で野生動物でも探していたのだろう、踏み荒らされた足跡の中に鹿か何かの足跡も混じっていた。
数は少ない、一人でもなんとかなるだろう。
アークは、初陣の相手を求め、足跡を追った。
しばらく時間が空き、森の奥から奇妙な鳴き声のようなものが聞こえてきた。
目標に追いついたようである。
ダガーフッドの獲物はやはり鹿だったようだ。
上機嫌に持ち帰ろうと二人で持ち上げるために重さを確かめていた。
絶好のタイミングだ。奇襲とまではいかないが少なくとも有利は取れるはず。
そう思い、ダガーフッドたちのもとへと飛び出しながら剣を引き抜いた。
ダガーフッドたちは突然の闖入者に対応が遅れてしまい、慌てたように体勢を立て直している。
この差は戦士にとっては有利な差となった。
これが、アークにとっての正真正銘最初の戦闘である。