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「アーク」
すっかり日課となった森への遠征をこなそうとしたところ、ディゼルに呼び止められた。
「今日は遠征をしなくていい。話があるんだ」
家の中へ促すようにしたディゼルは、アークが従って入ろうとしたところを確認し家に入った。
中に入ると、一通の手紙が机の上に置かれていた。
「座れ」
対面になるように腰掛け手紙を差し出した。
「これは、俺の師匠からの手紙だ。」
「師匠って...アレスさん?」
ああ、と返すのを聞きながら手紙の封を切った。
手紙はアークに宛てた手紙だった。
アーク殿
突然のことで驚いておられるだろう。
私はアレスという。父君から私の話は聞いたことがあるだろう。
君は知らなかっただろうが、父君とは君が子供のころから文を交わしていた。
君には自分以上に剣の才があると聞いている。最近では父に一太刀当てることもできるようになったというではないか。
君の父ほどの実力者に一太刀を浴びせられる若者ならば、私もぜひその腕前を見たいと思ってこの手紙をしたためている。
近いうちに君の住むクロマージュ王国王都へ寄る機会があり、そこで長期滞在する予定だ。
君がよければ、そこでいくらか稽古をつけてやることもできるが、興味がないだろうか?
もし興味があるのであれば、王都ヴァレンシアにある《金竜の雄叫び》亭のアレスを訪ねてほしい。
君の剣技を見ることができるのを楽しみにしている。
アレス
P.S.
もしも君が望むなら冒険者登録も手伝うことができるだろう。もっとも、君の技量を見てからの話ではあるが。
「...これって...もしかして、王都に行けってこと?」
「ああ、そうだ。」
アークたちの住む村は一応領地の端ではあるがクロマージュ王国という国に属する村である。
農作物は王都に向けて運び、そこで売ったお金で村を回している。
税金もあるにはあるが、ディゼルの蛮族狩りなどで一定の報酬を王国の冒険者ギルドから得ているために税金はほとんど払っていない。
ゆえに小さい村にもかかわらず一定の平和が維持されているのだ。
だが、村はそれなりの問題を抱えている。
やはり、村は小さいがゆえに王都や商業都市ラクトーロなどの都会に行きたがり村に残る若者が少ないのだ。
これはどの村でも起こる問題ではあるがディセルがくる以前よりも状況はマシにはなった。
その王都があるのはここから馬車でも最低7日はかかる距離にあり徒歩で行こうとすると10日はかかるだろう。
「近いうちに王都に向けて作物を運ぶための馬車が出る。その馬車の護衛としてついてもらおうと思ってな。」
「でも、普段は冒険者の人が来るよね?僕一人で大丈夫かな?」
「さすがに馬車の護衛をしろってわけじゃない。俺から追加報酬を払ってお前も同行させてもらうってだけだ。」
それは許されるのだろうか?
冒険者にとって想定外の自体というのは日常茶飯事と聞いてはいるが、こういったことも受け入れてくれるのか?
そう感じたのは、父の言葉からなのだ。
「じゃあ、どうして『護衛として付く』なの?」
「お前の訓練も兼ねて、だ。護衛の時にどんなことを気にするのかなど、冒険者としての基本知識を教えてもらえるように依頼する予定だ。いつも来るギアースは人のいいやつだからな」
「ギアースさんか!それなら楽しい道になりそうだな」
ギアースは話が面白い。村について一泊してから帰るまでの間にギアースから多くの話を聞いたことがあるから彼とはかなりの顔なじみだ。
「あいつには前回の時に話を通してある。次回にはアークを王都に向かわせて冒険者登録してもらうってな」
「そうなんだ。そしたら納得かも」
ギアースの人となりやパーティのことは何度も世話になったため、アークからの信用も信頼もある。
それはディゼルも同じようで、だからこそ彼らに王都での冒険者ギルドまでの護衛を依頼しているのだろう。
「まずは、冒険者登録をしてこい。そのあとはお前の好きに動け。死ななければどんなに借金を背負おうが何だろうが構わん。」
残念ながらアークにはうんうん、とうなずくしかない。
「死なずに帰ってこい。そして、世界を自由に見てくるんだ。俺が見て回れたのは大陸の6割にも満たないが、それでも得るものは大きかったんだ」
父は、遠い目をしながら語る。
「お前ならもっと先、混沌海の先にあるアルディオン大陸まで進めるだろう。そこで何を得て来るのか...それが俺の楽しみだ。」
「父さん...」
「よし、それじゃあ今日はもう休もう。王都へ行くための支度を整えないといけないからな」
そういって、アークは一日ゆっくりと休んだ。
そのあとは激動の日々が続いた。
近隣の村人たちにもあいさつ回りをしていった。
挨拶自体は1日で終わったが、そのあとの送別会で2、3日ほど時間を掛けられていた。
そして、1週間後。ついにアークが旅立つ日がやってきた。
次回から新章に突入です。