ひとつ、ふたつ。
幼い少年は降り注ぐ花弁を数え、目で追いかける。
ひとつ、ふたつ。
伸ばした手の中に花びらが掴まれる。
齢5にも満たない少年は一つずつ舞い落ちるものをつかむのに夢中になる。
掴み損ねても、返す手で拾い上げる。
二つ掴めばこぼれてしまうほど小さな手に、薄桃色の花弁が収まっていく。
少年は、まるで星を集めているかのように丁寧につかんではあふれる前に手からポケットへとしまい込む。
彼の気分はお宝集めだろう。ポケットの中身が増えることを大いに喜び夢中で手を突っ込んでは出すときに零れ落ちることに気が付かないでいた。
ふと、気まぐれに落ちている枝先を拾い上げる。
ひとふり、ふたふり。
軽く振るだけでもこの年頃の少年には非常に面白いものだ。
まだ意味も解っていないおとぎ話に出てくる騎士の真似事でもしているつもりか、くるくると回ったり体を踊らせるようにして小枝を振り回す。
たまたまだろう、振り下ろした枝によって花弁が裂かれ二つに分かれて少年の目の前で空に踊った。
先ほどまで落ちてくるものを宝物のように拾い集めていた少年は、その光景に目を輝かせた。
ひとふり、ふたふり。
初めはうまくいかずに頬を膨らませていたが、要領がわかってきたのか次第に花弁に枝が当たる数も増え、だんだんと無意識に振るっても花弁を切り裂けるようになった。
夢中になって枝を振り、彼にとっての宝物を空へと増やしていく。
やがて、花弁はその大きさを半分から四分に、八分にと小さくしていく。
細かくなる花弁が光できらきらと輝くように見えるさまは、彼にとって夢のような光景だった。
夢中で小枝を振り回してきらきらを産み出すことに集中し始めたからか、もう頭の中に花弁を集めようという考えは消え去っていた。
それは、母が自分を呼ぶ声が聞こえるまで続いた。
母の呼ぶ声に、小枝を放り投げて駆け出していく。
走り去る少年の後ろで、舞い降りる花弁はゆっくりと空にきらめいていた。