ハロウィンで騒いでいたはずなのに気が付いたら異世界です。カフェの隣の席で婚約破棄をしていたので見てました。
さらっと読んでいただけると嬉しいです
今日はハロウィン。
街中には仮装した人が溢れ、すれ違う人は人気のアニメのキャラクターの仮装やホラー映画の仮装などをしていた。
中には乙女ゲームのヒロインや攻略対象の仮装をしている人もいる。
居酒屋に入れば仮装した人がビール片手に談笑している。
私はと言うと…私も友人と共にメイドの仮装をしていた。去年はセクシーナースの仮装をしたっけ?
仮装の服は、手作りをしている。
お上品なメイド服をみんなで作った。
そして顔はホラーっぽくペイントした。
私の名前は花崎アリサ、服飾の学校に通う20歳。将来はデザイナー志望。
だから、メイド服は自分の体型に合わせて自分で作った。
居酒屋では隣に座っている知らない大学生グループと盛り上がり…ってここで気づいた。
やばい!
終電に遅れる!田舎に住む私の終電は11時。
まずい!着替える時間がない。駅のトイレで着替えようと思ってたのに…。
酔っ払っているせいか足がもつれて…
とここで意識が途切れた。
嫌。寝落ちしてしまった。
目が覚めると明るくなっていて知らない雑木林のところで寝落ちしていた。
鞄を枕にして。
自分の格好を見るとハロウィンの仮装のまま。
ちょっと酒臭い…。
服をはたき、鞄を持って立ち上がった。
鞄の中の鏡を探して顔を見ると、ペイントもそのままだった。
鞄からメイク落としを出して顔を拭く。
流石にこの顔と服でハロウィンの翌日の朝、フラフラしているのを人に見られるのは嫌だった。
服の匂いも気になったので消臭スプレーをする。
それから歩き出した。
歩きながら、メイドのエプロンは外した。
これでワンピースに見える。
電車でどこに降りたんだろう…
終電は早いが、自分の地元はこんなに田舎ではない。
間違えた電車に乗って知らない田舎町に来たのかな…。
さっきから建物がない。
人もいない。
携帯は圏外。
道はアスファルトではない…
どんな田舎だ…もしや間違えておばあちゃん家に行く電車に乗ったのかな?
確かに祖母の家はど田舎で、駅からしばらく歩くと畑が広がり、畑の真ん中の舗装されていない畦道を40分ほど歩くと祖母の家に着く。
祖母の家の辺りは家が数軒しかなく山間だから電波も弱い。
でも景色は全く違う。
今は雑木林を抜けて小さな池のほとりを歩いている。
やっぱり誰にも会わない。
どこの田舎に迷い込んだのだろうか…
池のほとりを過ぎると、小さな建物が見えてきた。
ヨーロッパ風の本当に小さな。
近づくとカフェのようだった。
本日はオープン日のようで、入り口で軽食を配っていた。
建物の横にはテラス席があり、そちらに通された。
この田舎町でヨーロッパ風の建物。
そして店主は日本語を話すにこやかな外国人。
ここで携帯を確認したがやはり圏外。
お隣に人が来た。
昨日見たような、ヨーロッパ貴族の仮装をした男女。
外国人に中世ヨーロッパの服装は似合う!
見惚れる!
あー、◯◯英雄伝とか、あと、それを模した舞台とか流行っているから、そういう仮装の人も昨日いっぱいいたなー。
この人たちも朝帰りな上に、仮装のままだ。
「ルドルフ殿下、本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
お話したかったのは、先日、殿下はあの男爵令嬢と隣国に旅行に行かれたようですわね。そこでサファイアの夜会用のティアラを買われたとか…。
昨日、宰相様からおねだりもほどほどにと釘を刺されましたわ。
なんでも旅行は私と行って、私にねだられたとお答えになったそうね。」
なんだろう…。
お隣のカップルは劇団員?
ハロウィン終わっても…嫌…そんなの関係なく役になりきっている。
これは高位貴族のお嬢様と王族の設定かな?
「セーラ。君に何を言われても私は決めたことがある。君との婚約を解消する!」
男性は冷たく言い放った。
「なぜですの?殿下。これは政略結婚なのです。殿下のお気持ちでどうにかなるものではございません!」
「私は疲れたのだよ。君のその嘘くさい笑顔や、私の腕に絡めてくるいかにもか弱そうに装う手。そしてその香水…それからその流行は関係ない面白みのない服装。全く可愛げがない。…もう我慢ならんのだ」
「ではあの男爵令嬢が絡めてくる手は!それは良いのですか?」
「あれは義務からくる手ではない。私を頼る細く儚い手だ」
「な…!」
女性はブルブル震えている。
目に涙まで溜めて。
演技派だなぁ。
どんな舞台なんだろう。ネットで…チェック今はできないんだ。圏外だった。私はがっかりしながら横のカップルの演技練習を盗み見る。
とうとう、男性は婚約破棄は決定事項だ!と怒りながら去っていった。
え?演技の練習、続きしないの?
そこで終わるって、演技の最終確認なのかな?
女性は綺麗な顔を歪ませてハラハラと泣いていた。
どっちも演技派!
そして美男美女!
とここで女性が話しかけてきた。
「お見苦しいところをお見せしてしまい…。この事はまだ誰にも話さないでいただきたいのです」
まだ発表されてない舞台なのかな?
「わかりました。」
私は笑顔で答えた。
「殿下はほら…庶民にも人気があるから驚かれたでしょ?」
ここでまだ演技は続いているのか。
「そもそも、どうして内緒に?もっと大々的に…宣伝すれば。…私が知らないだけであなた達は有名な方なんですか?…もうリークされているとか?
最近忙しくてネット見てないから…」
こんなに面白そうな舞台、大々的に宣伝すればいいじゃない!まだ発表は内緒なんてもったいない。
わざとリークさせて話題性を持たせるとか…?
と考える私の顔をまじまじとセーラは見ている。
少し間があった。
「…あなたは、外国の方だから、私や殿下をご存知ないのですか?」
女性は少しびっくりして言う。
「すいません。私、あまりテレビは見ないので…。どこかの有名な方なのですか?…ハリウッド?」
「ハリーウッド伯爵様とは関係ありませんよ。それに呼び捨てはいけません。
テレビってなんでしょう?確かにあなたは、お顔を見る限り異国の方のようだけど…異国の物かしら?」
なんだろう微妙に会話が成り立たない。
「ここどこなんでしょうか?起きたらここにいて。携帯も圏外なんです」
思い切って聞いてみた。
「ここはフィラデルフ王国ですわ。携帯って?」
なんか変。
この人、ちょっと危ないのかも…。
携帯を見せて壊されたらどうしよう。
そう思って逃げようとした時、メイド服の女性が入ってきた。
紺色の滑らかな生地ですごく仕立てがいい服を着ている。
私が着ているポリエステルの生地とは違う。
「セーラ様。馬車の準備ができました。」
メイド服の女性は頭を下げた。
「あなたもきてくださらない?私の家に招待するわ。異国の話を聞かせて頂戴」
そう言われて手を掴まれた。
手を払って豹変したらどうしよう…。
ここは従うしかない。
女性についていくと、先程入ったカフェの入り口とは違うカフェ裏の森の方の出口に向かった。
こちらが本当の入り口だったようでお洒落な看板がかかっていた。
森側には馬車があって、ちょうど後ろから違う馬車がやっていていた。
馬車から降りた人は皆中世の服装で、店主に案内され二階へ上がっていく。
女性に手を引かれ、馬車に乗る。
ここまで来ると、完全に自分の夢だと思った。
夢を楽しもう。
ついたのは大きなお屋敷で、中世の街並みが広がっていた。
すごい夢だわ。
私の夢、リアル!
床はフカフカの絨毯で、贅を尽くしたお屋敷は、テレビで見たヨーロッパの宮殿のようだった。
セーラ嬢は、いいとこの貴族。
すごい夢だわ。
それから夢と割り切った私は、服飾関係の仕事につきたいことや、自分の書いているデザイン画を鞄から出して見せた。
セーラは私の着ている服や鞄の素材を珍しいと眺めていた。
ポリエステルという見たことのない光沢のある薄手の生地と、機械織りの複雑なレースはセーラを虜にしていた。
「この服装で異国の高位貴族だと思ったのよ」
とセーラは言った。
違うと伝えるとこの家に客人として滞在して良いと言われた。
お茶もご飯も美味しいし、お腹も膨れるし、夢なのにトイレにも行きたくなる。
普段は服を作ってセーラと過ごした。デザイン画を書いてはセーラの為に服を縫った。
セーラはそれを着て社交界にたまに出かけるようになった。
夢から覚めたらこの新しいデザイン、忘れないようにしないと!
この夢が覚めないまま三ヶ月が過ぎた。
流石におかしい!
私、もしかしたら重病で寝ていて、その間に見ている夢なのかしら?
そしたらセーラのパパである公爵様と2人お城に呼ばれていった。
セーラのパパは、大事なセーラが殿下に酷い目に遭わされて塞ぎ込んでいたけど、私と三ヶ月過ごして元気になったから感謝している。
あの服のおかげでセーラは婚約破棄の後も、後ろ指さされずに皆の憧れの的になっている。
だから、後ろ盾になる。
そのお礼だと、言ってくれた。
セーラのパパは今から起きることや、心配事を話してくれた。
大丈夫!とセーラのパパに伝えて、今に至る。
「ようやっと聖女様が見つかったか!聖女様を呼ぶ儀式をしたのに現れないし、国中捜索していたのに!
なんと!
フォールニア公爵家で保護していたとは」
どうも私は聖女だったらしい。
魔法で異世界から呼ばれた聖女様。
やっぱり夢かしら…
そして、セーラ嬢と一緒にいた殿下が現れて私の婚約者になると言って来た。
私は最初にこいつの性格悪いところを見て知っている。
「お断りします。この人に仕えたくない。もっと言うとセーラを蔑ろにするこの国のことなんてどうだっていい。
結婚も嫌!絶対無理!この男はセーラに酷いことを言って泣かせて捨てたじゃない。
男爵令嬢と結婚すれば?」
私の言葉に雲行きが怪しくなった。
「婚約破棄はセーラが嫌がったからと。セーラからの申し出だったと言ったではないか!」
陛下は怒って、ルドルフ殿下を見る。
「私、その現場に居ましたから知ってます。セーラに酷いことを言って泣かせて去っていったのを。私、隣の席で見てました」
ルドルフ殿下の顔色が悪くなる。
セーラは淑女の鑑だから、全部自分のせいだと言われても黙っていたようだ。
「もらっていないサファイアのティアラの事で宰相様に嫌味を言われたとか…」
と私は聞いた会話を陛下に伝えた。
「婚約破棄の前のサファイアのティアラか。
では、婚約破棄の話の時にダイヤモンドのネックレスを渡したけど、手切金にとセーラに取られたと言っていたが…」
と陛下。
「私が見ていた限り、殿下は何もセーラ嬢にくれなかったし、カフェ代すら払いませんでした」
と私は言った。
「アリサ嬢、すまなかった。本日は帰ってよい」
陛下にそう言われて退席させられた。
そのあと、これまでのルドルフ殿下とセーラの旅行や出費は全部嘘で、セーラは何ももらっていないし、どこにも行っていない事が証明された。
ルドルフ殿下は国庫の不正利用と他国への不誠実な対応、諸々のことで投獄。
そそのかした男爵令嬢や、そのことを知っていたのに黙っていた殿下の取り巻きは色々な形で処分された。
セーラはずっと励ましてくれていた幼馴染みの子爵家の次男を婿養子に迎え幸せに暮らしている。
私はこの世界では有名なデザイナーとしてブランドを展開している。
聖女様としてたまに働いているけど、服飾中心で生きている。
この世界に来てから20年経つけど、未だに夢なのではないかと疑っている。
結婚して子供もいるのに、もしも夢ならそれはそれで問題だ。
ここまで来たら覚めないでほしい。