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かつてクラスメイトを強制異世界転移させた結果  作者: 小柳和也
一章 かつてクラスメイトを異世界漂流させた件について

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2003年 7月3日 異世界3

「まただ」

 禁忌の森に迷い込んでから、幾度となく発見し、無視していた奇妙な館とまた遭遇した。

 これで幾度目だろうか。

 森に入ってしばらく歩くと、魔女の館と言われればすぐに納得してしそうな、奇妙な館が、街道沿いに現れた。

 先を急ぐ旅であり、説明した通り特級手配犯である禁忌の魔女の館であることに間違いはなかったので、タカハシらはスルーした。

 そして一本道の街道をまっすぐ歩いているのに、だ。

 数分絶たずに全く同じ奇妙な館と遭遇するのだ。ループしている。


 森に入るまではテンション高かったミキがスカートが汚れるのもいとわずへたりこみ、カヨコはほとんど泣いており、ヨシダがぶつぶつと「だからこんなところ行くことは反対だった」などつぶやいているぐらい絶望感が、タカハシらを包んでいた。

 禁忌の魔女の腹の中を歩いていたことを、タカハシは実感していた。


 特に違和感のない、森の中へ続く旧街道を進行していた。余計な会話もなく、ただひたすらに街道を進んだ。

 魔物も出てこず、盗賊もおらず、平和な進行だったはずだ。

 太陽の照り付けも、緑々とした枝木に遮られ、どこか空気は澄んでいる。肌寒いぐらいだった。

 どこか普通の森林公園の中を散策しているかのようですらあった。

 異物は唐突に出現した。

 先頭のリクトが足を止めたのは、奇妙な館を発見したときだった。

 百年前からそこにあるような、周囲の枝木が軽くまきつくようにうなっている、どこか高級な形式美を感じさせる洋館だった。

「あれが禁忌の魔女の住処かな」

「ついでに討伐していきますか」

「やめておこう。それにそんな時間はない」

 全会一致で魔女の館を無視して、タカハシらは進行を再開した。

 そして数分経たずに、再び、奇妙な館の目の前を通り過ぎることになった。

「瓜二つの家を建てているのかな」

「嘘だといってくれ」

「前に歩むしかない」

 タカハシは言った。何か具体的な行動を示さないと皆がその場に座りこんでしまいそうだったのだ。

 何度も何度も、街道をひたすら前へ進んだ。

 そして数分間隔で、まったく同じな奇妙な館の目の前を通り過ぎることになった。

 ここが特級手配犯である禁忌の魔女の腹の中であることを実感させられることになった。


 タカハシが館を指さす。

「あきらめよう。あそこにいるであろう、魔女が呼んでいるんだ」

「殺されるよ」

「この館の目の前を延々ループし続けても、発狂するか餓死するだけだ」

 タカハシの言葉に、クラスメイトらは動こうとしない。リクトをチラ見する。自分の言葉で動かないのなら、動いてくれる者の言葉を引き出すだけだった。

 額に汗を浮かべているリクトは少し困った顔のまま、うなづいた。

「招待されているようだ。少し歩き疲れたし、あそこで休憩でもしていこうか」

「冗談だよね」と、ミキ。しかし顔からは諦めのそれも浮かんでいる。

「歩き疲れたのは本当だ。そして延々とこの状況から抜け出せそうもない。そうであるなら、いい加減状況に素直になるべきときではないかな」

「目の前に何度も現れる、禁忌の魔女が住んでいそうな奇妙な館に行く、と」

 悲壮なヨシダが解説する。

「このまま何度も目の前に現れる館ループから脱出する方法があるなら、喜んで時間を割くよ」

 リクトが全員を見回す。返事なし挙手もなし。

「では。乗り込もう。魔女の拠点へ」


 八人全員が着席できる横長テーブル。

 タカハシらの前に置かれる八個の陶器のカップ。良い香りと温かい飲み物。

 テーブルの上座の位置に、禁忌の魔女が着席している。どことなく異様だ。

「ゆっくりしなさい。そしてどういう状況か説明しなさい。そして座りなさい」

 優しさと命令系。逆らえない空気。

 事前に用意されていた湯気の香り飲み物。人数分の椅子。

 すべてを知っているようで、あえて説明を促す精神性。

 タカハシは、攻撃することの無意味さに気づいた。レベルをあげてスキルを覚えて攻略法を確立すればなんとか倒せる相手、ではない。

 製作者であり、神であり、天災などの超常的な存在と、目の前にいる禁忌の魔女は同格といっていい。

 全員がその認識に辿り着いている事を、タカハシは切に願った。


 リクトが魔女の言葉を引き取り、異世界転移していた事情、帰れなくなった現状、港へ向っていること、禁忌の魔女の館の目の前をループしていることを説明した。

 タカハシが素直に着席した流れで、皆素直に席へつく。

 飲み物は旨かった。神と同格であるなら今更人間らしい毒殺などはありえない、と踏んで素直に頂いた。タカハシが飲みはじめたのをみて、ミキらも飲みはじめた。

 説明を終えると、禁忌の魔女は微笑んだ。

「嘘をついたら、嘘をついた回数分、罰を与えるつもりだったけど、正直で結構」

「は、何様よ」

 魔女の上から目線に、ミキがさっそくかみつく。タカハシは制止したくなったが、ミキに対してそういうことをいう関係性でもなく、なんと注意すべきか分からなかった。なので例のごとく、リクトに振った。

「ミキ。僕らは客として、この方のご自宅へあがらせてもらっている立場だ。その態度は駄目だ。謝罪して」

 ミキの返事は無視だった。

 魔女はおおらかに、大げさに、演技めいた笑みを浮かべる。

「気にしてないよ。それでこれからどうするんだね。繰り返しの迷宮なら、解除しておいたからもう出られるよ。なにぶん敵が多い身分だからね。用心しているってことさ」

 どうやらもうこの館にいる必要性は皆無のようだ。敵が多いくせに、自らの拠点をループさせてしまうあたり、相当の自信家であることがうかがえる。

 タカハシはカップの中身を飲みほした。

「大変美味しかった。先を急ぐので失礼ながら、ただちに出発させてもらう」

 いつも通りリクトへ視線をやる。

 リクトも立ち上がった。

「おもてなし感謝いたします。彼のいう通り、急ぎの旅ですので、失礼いたします」

 リーダーの行動にその他大勢も素直に従い、席を立つ。

 タカハシを先頭にして出ていこうとした。


「気に食わないね、坊や」


 そんな楽しそうな声が、タカハシらの背中にかかった。

「そっちの坊やはまだいい。冷静さを保つことをわが物としている」リクトを指さしている。「ほかの子らも恐怖心から委縮したり、かみついているだけだ」

 視線がミキらから、タカハシへ向けられる。

「お前はなんだ。恐怖も冷静さもない。ただ正解な行動を繰り返す。人間的ではない。子供的ではない。わたしを目の前にしても、その行動の正確さはぬぐえない。気に食わないね」

「褒められているようだが、認められないのか」

「気に入ったといってんだよ」

「気に食わないといっていただろ」

 禁忌の魔女が立ち上がる。

 そしてまた、選択肢を突き付けられた。

「お前らを強制異世界転移させた犯人を見つけられたら、日本へ帰してやろうか」

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