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かつてクラスメイトを強制異世界転移させた結果  作者: 小柳和也
一章 かつてクラスメイトを異世界漂流させた件について

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2019年 7月17日 札幌2

 東京で会田大輔が殺されていたようだ。出席番号は二番目だ。最初に動画公開されたクラスメイトの次が、会田大輔だった。例のごとく、一刀両断の惨殺死体だという。

 殺人者は東京へ移動することも可能なようだ。ルーラかテレポが使えるのだろう。別の誰かが行っている、複数犯という考えは自然と浮かばなかった。

 というか、たとえ複数犯であったとしても東京の方での殺人はどうにもならない。

 つまりあってもなくても同じだ。


 私にできることは、札幌市内のクラスメイトを観察することだけだった。

 クラスメイトを救うことではない。当時の犯人である私を狙う殺人者を、どうにかして無力化、可能ならば口をふさぐ意味合いでも、殺害することが理想だろう。

 それが目的なのだ。私の今の日常を守ることが大事なのだ。

 当時のクラスメイトがいくら殺害されたとしても、それはしょうがないことだ。北海道ではなく、東京なんて世界に行ってしまった奴らなどなおさらどうなっても気にならない。

 心が痛まないわけではない。

 ただ優先順位が低いだけだ。


 だから私はいま、平岸三丁目にある浮田絵美里の一軒家を張り込んでいる。

 実家暮らしのはずだ。

 幸いのなのか不幸なのか、ご両親はすでに他界されており、彼女が一人で悠々自適に暮らしている。彼女はさっきからカーテンの隙間から外の様子をうかがっている。例のごとく、狙われている旨と殺人動画を送ってあるのだ。

 私は知るべきことは、一つだ。

 この殺人者が、誰の意思により殺人をおこなっているのか、ということだ。

 遠目で観察しているだけだが、かつてのクラスメイト本人ということはないだろう。

 三十路を過ぎている体躯ではない。あくまで子供なそれだ。

 であるならば、かつて異世界漂流させた誰かの意思を継ぐ者、ということになる。

 誰かが分かれば、私の次の行動は迅速に決断される。

 犯人の家族友達関係者のところへ向かうということだ。わざわざ十数年経過してから異世界から日本まで復讐にきているのだ。少なからず情で行動している部分はあるだろう。そうであるなら血縁者を手中に置くことは意味があるはずだ。

 脅迫行為に及ぶことも容易だ。


 私は待った。

 浮田絵美里宅の向かいのマンション屋上に腹ばいになって待機している。2000年代以前に施工された、外壁の罅や汚れが目に付く、くたびれたマンションだ。監視カメラなどは設置されていない。現読のマンションだったので、オートロックの暗証番号を知っていた。早朝配達のため、オートロックの暗証番号を管理人や住人にこっそり教えてもらっているのだ。

 そしてときどきこうして悪用する者がいる、ということだ。

 殺人者がしばらく待ったあと、やってきた。

 身なりは、相も変わらずの紅ジャージ姿だ。どこからともなく現れた。やはり特定箇所へ瞬時に移動できる手段があるようだ。羨ましい。遅刻がなくなる。


 殺人者は、迷うことなく、ためらうこともなく、無造作に握っていた剣で、浮田絵美里の自宅一軒家の扉に一刀両断を喰らわせた。自宅の扉に鍵を差し込むぐらいの当たり前さがあった。ためらいのない一刀両断だった。

 扉は破壊され、殺人者は不法侵入していった。

 これで浮田絵美里が殺害されて、何か新しい発見があればいい、少しでも負傷があれば追撃することも考える等、私はそんな軽い思いで観察を続けていた。


 数分後の私は、おもわずつぶやいていた。

「やられちまいましたね」

 あと数人ぐらい殺されるまでは具体的な行動は起こさないつもりだった。

 あと数人の元クラスメイト達が、無残に殺されていく様子をただひたすらに追いかけていく予定だったのだ。

 殺人者の殺害方法を観察し、どこかに隙がないのか確認などをしたかったのだ。


 そんな悠長な考えをしている場合ではない、と思い知らされた。


 浮田絵美里らしき女性と、殺人者が一緒に、扉のなくなった一軒家から出てきたのだ。

 死体になってではない。

 身体のどこかに傷がある様子もない。浮田絵美里は無傷だ。殺人者も同様だ。

 浮田絵美里は明確な意思をもって自ら歩き、説教のようなセリフを吐いている。「早くしなさいよ、人来ちゃうでしょ??!!」後ろからついてくる殺人者は半笑いだ。「分かったから、怒らないで?」「怒るでしょ!! 殺されかけたんだから!!」「正論だね」「そうだよっ!?」

 うるさそうにわちゃわちゃしながら浮田絵美里と、どこか困ったように薄笑を浮かべた両刃の凶器を握っている少年殺人者。

 何か重みもある物語を経験し、意気投合し、何かしらの目的のために一時共闘しているかのような。

 そんな主役勢のような空気を醸しながら、二人は出てきたのだ。

 

 浮田恵美子はどこか出来の悪い子供を叱るような教師の雰囲気をだしながら、駐車場に止めてあったミニパジェロの運転席へ乗り込む。殺人者はそれを確認するように見つめたあとに、助手席のほうへ恐る恐る乗り込んでいった。

 車内でもしばしば押し問答があったようだが、ゆったりとミニパジェロは走り去っていった。


 どうやら。

 私は危機感を覚えないといけない状況へ落とし込まれたようだ。

 主役の座を奪われようとしているようだ。私がこの場をコントロールして、支配して、状況を動かす一手を打っていたはずだが、その舵を奪われた。


 スマホが震える。浮田絵美里からだった。

 内容を確認し、私は確信する。奪われたのだ、と。

 はっきりとした怒りを、私は覚えた。


【あなたには興味ないけど。この子はあたしが使わせてもらうね】

 と、あった。


 殺人者というどうにもならない存在を、浮田絵美里が支配下に置かれてしまった。

 少なくとも、自らが運転するミニパジェロの助手席に乗せて、どこかへ一緒に向う程度の仲にまで昇華してしまった。

 これでは私が場を支配していないことになる。状況に対して先手を打てない。

 スマホを握る手が熱くなる。私ははっきりと、物に対して八つ当たりを覚える程度にイラついている。

 私は出遅れてしまったのだ。

 取り返さないといけない。ただの一般人と侮っていた。いや生死を賭けた状況ゆえに、突発的に勇猛な行動をとれた? それを殺人者からの共感を得た?

 考えても仕方がない。私にすべてを観ることはできない。

 殺人者が次に殺害する予定のリストは、私が確保している。

 だから。なんとしても。私は急ぐ。

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