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かつてクラスメイトを強制異世界転移させた結果  作者: 小柳和也
二章 2人目と、殺人者と、かつていじめられっ子だった三十路

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2003年 7月4日 異世界10

 タカハシはクラスメイトの名前を一度思い出してみることにした。

 そしてすぐに頭を抱えるような情感に襲われた。一緒に異世界転移したチサや性悪なミキなどはさすがに顔と名前が一致している。存在感が皆無のヨシダやマツイなども、ぎりぎり認識できている。

 そしてそれ以外のクラスメイトの名前と顔は全く一致しなかった。名前も薄ら覚え。一緒に異世界転移して十時間ぐらい冒険したとしても説明されないと気付かないレベルだ。

 あいつはいじめっ子、あの子はいじめられっこ、あいつはグループの主格などの力関係は察することができるが、それだけだった。

 タカハシは焦った。このままでは犯人が分からない。自分ひとりではだめなのだ。協力が必要だ。


「聞いてくれ。犯人はだいぶ絞れる。ただおれはクラスメイトの名前がわからない。興味がなかったからだ。だから協力してくれ」


 タカハシは必死に呼びかけた。本当に必死だったから普通に必死のような声音になった。

 反応は、うなだれ、しゃがみこみ、舌打ち、すすり泣き。絶望に支配されている反応だけだった。

 真正面から話しかけてもやはりこういう無視などのイジメに現在進行形で遭っている以上、どうしょうもない。

 活をいれてやらないといけないようだ。今はそんな無視などのイジメをしている場合ではない、一緒に協力して団結しないといけない、と。


 全員ここでのたれ死ぬのか。犠牲を経て残った全員が生き残るのか。

 選択する必要もないだろう。相談する必要もないだろう。タカハシは、そう決断した。


 タカハシは、ミキの目の前にたつ。ミキは一瞬タカハシを見上げたあと興味なさそうにうつむく。

「なに、狂人としゃべる趣味ないから。近寄らないで」

 うつむき加減になったので、頭頂部から後頭部まで、見下ろせた。

 タカハシは右手に握っていた、手のひら大の石を振りあげる。いい感じに削れている、鋭利な鈍器だ。


 誰かの声がした。やめてっ、と。おそらくチサだろう。


 停止の声がかかるが、タカハシはためらいなく、尖った石でミキの頭部を叩きつけた。厳密には石の尖った部分を、ミキの頭頂部へ突き刺すように、振り下ろした。

 ベコっ、と音がする。頭がくぼんだ。うっすら出血が髪の毛ににじんでいる。石の鋭利になっている部分も赤黒くにじんでいる。


「あぁ」


 ミキがうめく。タカハシを見上げる。頭頂部から垂れていた鮮血がミキの顔面に垂れる。

 もう一度石で殴りつける。今度は側頭部。ゴキっ、と音がした。石に血液と髪の毛がからみつく。

 ミキは顔面を血まみれにしながらうめく。唇が動いている。何かを訴えるように。


 なんで? といわれた気がした。

 タカハシは石を両手で保持して、振りあげる。より一層の力を、石へ加える。


「誰であるかは意味がない。ミキが犠牲になることで全員が助かるかもしれない。それだけだよ」


 両手の勢いで加速された石が、ミキの頭頂部に突き刺さった。ゴス。

 鈍い音がして、ミキが顔面から倒れていった。

 頭のあたりが血だまりになっていった。少しだけぴくぴく痙攣したあと、ミキはピクりともしなくなった。ミキは頭部を割られて、死んだ。


 これでいい。

 これでほかのみんなを鼓舞することになるから、それでいい。必要な犠牲だった。

 タカハシは膝をついた。なぜか立ち上がれない。体中から力が抜けていく。わき腹に激しい痛みがあることに気づいた。あまりに痛くて叫び声をあげる前に喉がキュっと締まる。それから絞り出すように「あぁ」と息が漏れる。

 わき腹を触れてみると、真っ赤だ。ぬめってする。血だ。刺された。


 渾身の力を込めて見上げると、チサだった。先端から真ん中あたりまで血で濡れた両刃のナイフを握っている。

「狂人すぎるよ。誰かがいなくなって団結できるなら、あなたというモンスターがいなくなった方が団結できる」

 タカハシはなるほど、と思った。その考え方には至らなかった。

「そうであるなら、これでいい」

 チサの手を掴むように、チサが握っているナイフの柄をつかむ。

 チサの表情が変わる。何が起こるか即座に察したようだ。

「やめて」

 振り払おうとされるが、中学生とはいえ男女間の握力差はままあるようで、まったく問題にならない。

「こうしたほうが団結できるのだろう? ではそうしよう」

「本当に狂っているね」

「おれたちの生きている世界よりは、そうでもないさ」

 チサが握ったままになっているナイフの柄を、力任せに引き寄せる。

 ナイフの刃は、そのまま引き寄せられるように、タカハシのわき腹へ刺さった。深く。とても深く。刃の真ん中を過ぎ去り、喉元までぐっさり刺さっていった。

 鋭く刺すような痛み。そして文字通り深く刺さっていることにすぐに気づく。

 ナイフを力任せに引き抜く。大量の出血音。一気にめまいが襲ってくる。

 タカハシは地べたに顔をくっつけていた。意識がうつろだ。起き上がろうとするが、体が全く動かない。動かそうとする感覚が起きない。


 でもいいのだ。


 これでほかの皆が生き残るための行動を起こせるなら、それでいい。ミキには悪いことをした。殺してしまった。いつか地獄で会えたら謝ろう。

 タカハシはそうして。

 出血多量で死亡した。 

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