表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつてクラスメイトを強制異世界転移させた結果  作者: 小柳和也
一章 かつてクラスメイトを異世界漂流させた件について

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/43

2019年 7月17日 札幌7 浮田絵美里

 殺人者に命を助けられたようだ。

 少年の小柄な、でも頼もしい背中を見つめながら、絵美里は動悸が激しい心臓を押さえながら、ゆっくり深呼吸をする。

 命を狙われるのは今日で二回目ではあるが、やはり緊張はぬぐえない。というかこんなことに慣れたくはない。でもキンキくんと一緒に行動するということは、こういうことをもっと経験するいうことだ。覚悟は必要なのだ。


 状況をゆっくり回想する。

 バイクに乗った犯人が金属バッドを振りかぶっていた。すれ違いざまに殴られそうになったのだ。

 ヘルメットをかぶっており人相はわからない。体格的に男のような気はする。

 どうあがいても避けられそうもないタイミングだった。トラックとタクシーの騒音に隠れて近づいてきて、避けようもないタイミングで突っ込んできて金属バッドが振られていた。


 それでも絵美里はこうして無事だ。

 刹那のタイミングでキンキくんが飛び出してきて、金属バッドを切断したか、逸らしてくれたのだろう。

 目の前のキンキくんが剣を抜いて仁王立ちしていることがその証拠だ。


 十数メートル向こうに、バイクにまたがった犯人がいる。こちらをうかがうようにとどまっている。絵美里の手汗がじんわりひどくなる。動悸がまた早まりそうになる。

「大丈夫。あなたは死なないよ」

 少年が背中越しに声をかけてくれる。とてもやさしく。落ち着かせてくれるように。

「言い、きれるんだ」

 絵美里の声は震えていた。意識していなかったが、実際に声を出してみると、情けないぐらい完全にブルった声音だった。

「僕は強いから。あなた一人なら守れる。だから大丈夫」

 少年の背中のジャージをつまむ。動悸が落ち着く。

 犯人が動き始めるまで数秒ぐらいだったかもしれない。とても長い数秒だった。


 先端が短くなった金属バッドを前かごへ投げると、犯人のバイクは、そのまま走り去っていった。


 キンキくんは微動だにしなかったが、犯人が完全に見えなくなると警戒を解くように、剣を下した。

 絵美里は気づいた。自分を守るために、キンキくんは追いかけることもなく、ここに立っていてくれることに。

 なでなでするにはちょうどいいところに頭のあるキンキくんではあるが、立派な守護者だ。殺人者ではあるが、とても頼りがいのある少年だ。


「助けてくれたんだ。どうして? ありがとう」


 いろいろごちゃ混ぜになりながら、絵美里は感謝の言葉を述べる。

 少年は犯人が去っていったほうを見つめたまま、

「あなたは依頼人ですから。かつていじめていた人たちを殺してくれっていう。だからですよ」

 絵美里はキョトンとする。「でも。報酬の話とかしてないよね」そんなに律儀に守ることではない。そもそもイジメていた連中を殺害してくれ、というのはキンキくんが全員殺すなら真っ先にいじめっ子たちから殺してほしいという要求を押し付けただけだ。理由としては薄すぎるのではないだろうか。

 この子はどうして危険を冒してまで自分を守るのだ。


「それに」


 少年は振り向かない。少し俯き加減。表情を見られたくないのだと気づいた。

「一緒にいてくれるみたいですから。だったら少しぐらい。命守りますよ」

 絵美里は途端にせつなくなった。

 キンキくんから、年相応の幼さをようやく感じられたからだ。

 剣の扱いに長け。人を殺害することにためらいのない精神性を持ち。

 異世界なんてところから独りで日本までやってきて。


 それでもやはりこの少年は、少年の年齢でしかないのだ。少年としての年齢しか人生を経過していない。どんな苛烈な環境に身を寄せていたとしても。


 親御さんはいるのだろうか。いないかもしれない。保護者ぐらいはいるだろうか。でもキンキくんに容疑者全員を殺害させることをうながすような保護者だから大した人物ではないかもしれない。

 絵美里は考える。

 この子になにをしてあげられるのか。

 命を救ってくれた、この殺人者の少年に、なにを返してあげられるのか。


 キンキくんがスマホを取り出す。耳にあて、一言二言会話する。

「情報提供者からです。まあ僕の保護者なんですけど。三ツ矢楓は、屋上にいるそうです。殺りますか」

 必要のあると判断された情報はキンキくんに連絡がくるそうだ。やはり鬼畜な保護者だ。

 少年は少年のような瞳のまま、絵美里の答えを待っていた。


 キンキくんが何を求めているのか。

 分かっていたことだ。

 

 少年自身がすでに答えを口にしている。少しばかり顔を染めながら、でも正直に純粋に。

 自らの欲求を吐露していた。


 それは。

 一緒にいてくれる人。


 それだけだ。

 寂しいだけだ。独りは寂しい。だから一時的にしろ、一瞬にしろ、仮初だったとしても、隣にいてくれる誰かを求めている。ただそれだけなのだ。

 そうであるなら。それぐらいのことなら。少年が異世界からやってきた転移者でも。

 元クラスメイトを殺害し続ける殺人者でも。


 一緒にいてあげるよ。


「殺ろう。お願い。殺ってくれるんでしょ」

 少年が求めている言葉を。少年の得意なことを肯定する表現を。

 キンキくんのために、絵美里は口にする。

 初めておもちゃを買ってもらった子供のように。

 キラキラと眼を輝かせて。

 キンキくんはうなづいた。「うん! 殺るよ!!」


 なにも出来やしない。でもそれなら。一緒に罪を背負うぐらいはしてあげたい。いつか罰を受けるその日まで。


 それから。

 三ツ矢楓を殺した。絵美里の目の前で。

 自然と、というべきかもしれない。

 絵美里は悲しくなかった。それでも涙を流してその死を見届けた。いつか自分に返ってくるかもしれない何かだと感じたからだと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ