7.シロ
娼妓少女シロの仕事は過酷だった。
平日でも朝から仕事があった。デイタイムの客の多くは株式の配当と不動産からの家賃による不労所得で暮らしている。月経の無いシロには休日も無く、真夜中に起こされて、ふりの酔客の相手をすることも一再ならずあった。
初潮前の女子を専門に扱う店である。シロより美しく「若い」商品はごまんといた。刑法及び民法は前時代を踏襲しているものの、その執行は現場の恣意に拠っていた。風営法も人身売買も児童虐待も、月額いくらのみかじめ料で見逃された。
自分の趣味に合った風俗店を自ら経営している警察官僚や検察官もかなりの人数にのぼった。華族士族の裏ビジネスとしても人気だ。商品は貧窮した平民から無尽蔵に補充できる。
だが、愛想が無く技術も上達しないシロにも、将来性はあった。初潮さえ迎えれば、晴れて系列の人気店「ハーレム専科ラン卵」へ「栄転」できるのだ。
そんなシロにも、珍しく指名客がついた。趣味のよい身なりをした初老の男で、いつも柔和な笑顔を浮かべていた。金払いもよく、いつもロングコースの優良客だった。ただ一点を除いて。
男はシロに夢を紡ぐ草を服用させた。何のことはない、純朴な少女を薬の効果で弄びたいだけなのだった。ちょっとくすぐるだけでシロは嬌声をあげて身もだえした。放置するとシロの視界はグルグル回るっておかしなことになった。しばらくしても酔いはいっこうに治まらず、男に酔い止め薬を懇願するのだった。
男はシロに自分をくすぐらせた。シロもケタケタ笑って楽しげに見えた。ところが唐突にシロの反応が変わった。べろべろに酔っぱらっていた少女が急に正気に戻って泣きだし、サービスを拒絶したのだ。
男は反射的に激怒してシロを叩き、くすぐりを続けるよう命令したが、反応が彼の嗜好にそぐわないせいで急速に冷めてしまった。足を掴んでいた手を離すと、シロはベッドの隅に逃げて膝を抱えた。怯えた目で男を見ている。
薬の量が足りなかったわけではない。子供の身体では廃人にしかねない分量である。不思議ではあるが、現にシロは娼妓ではなく平凡な子供のようにふるまっている。
男は首をかしげながらも、気を取り直してシロに近づいてみた。シロは涙ながらに訴えた。
「・・・・・・クロになにするの? クロにひどいことしないで・・・・・・」