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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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69.地異

 ナオコとシロナは官邸に戻った。


 クロエの懇願とカオリの熱弁が功を奏した。舌足らずなところはサトリとケンジの語彙が補ってくれた。御所の警備体制は引き続き最高レベルに設定してある。もう憂いも迷いも必要ない。あとは前へ進むだけだった。前へ、ただ前へ。


 官邸では吉村教授が緊急対策チームを招集して待っていた。すでに多少の情報といくつかのプランがある。安藤の居場所も大まかながら特定された。南アルプス山中にある核ミサイル発射基地兼地下シェルターだ。


 ミサイルのおおまかな発射ポイントに向けて、西東京に迎撃ミサイルを用意はさせた。距離と飛行時間の短さと、高高度から垂直に近い角度で落下してくる弾道予測から、迎撃の成功率は絶望的に低かった。よしんば命中してもそこで熱核反応を引き起こせば日本は終わる。


 問題はミサイル基地の正確な位置が分からない事だった。道もない山奥に強固な地下施設を建設するには莫大な予算と複雑な工法技術と夥しい人手が必要だったはずだ。だが、建設を請け負った業者と、ミサイルを製造したメーカー、搬入を行った帝国軍人の特定作業が難航していた。建設業界と軍需産業は自由愛国党支持者でかためられており、士族経営者を排除してもなお日本国に非協力的だった。


 場所さえ分かればいい。捨て鉢の発射が先か、ミサイル基地の制圧が先か。日本国側は一か八かのギャンブルにようやくベット出来る。しかし、中部地方に降り続く雨のせいで視界が悪く、各軍から選抜した航空隊による捜索は難航していた。


 とはいえ、無から有を生じさせることは何人にもかなわない。地下ミサイル基地建設に関わった者は必ずいるはずだ。いくら厳重に秘匿しても、知っている者はどこかに必ずいる。どうせ帝国派だし、拷問してでも吐かせてやる。でも、どこに?


 ナオコはスマホを取り出して山下大輔に連絡を取った。


「・・・・・・もしもし警部? いまちょっと困ってることがあって・・・・・・え、放送を見て、すぐ調べてたの? ・・・・・・そう。うん、うん、わかった。あんがと。それじゃ」


 ナオコは会議メンバーを見回した。


「いま右翼カルトに詳しい人が、施設の建設に関わった奴を見つけて、精確な座標を聞き出してくれてた。ミサイル発射口とふたつの入り口の位置、わかったよ!」


 出席者の表情に精彩が戻る。それなら手の打ちようがある。陸軍と空軍のオフィサーが、短く専門用語でやり取りして、すぐに作戦を立てた。手っ取り早くホワイトボードに概要を簡潔に書き記す。なんだかハードボイルドでカッコ良かった。


 まず空軍のF35をありったけ飛ばしてミサイル発射口のある座標を爆撃する。陸軍と海軍の航空隊にも増援を依頼する。そうして核ミサイルの発射が困難な状況を作りながら、2つの出入り口から特殊部隊が潜入。内部を制圧する。


 ナオコが挙手して質問した。


「どんな爆弾を使うかわからないけど、それって発射口のフタを壊せるの?」

「おそらく可動式の開閉部分は充分に破壊可能です。ピンポイント攻撃が成功すれば、対艦用のASM-3改なら確実に貫けます」

「その場合、中身の核ミサイルを壊してしまったら、そこですごい爆発が起きちゃわない?」

「理論上は起爆しないはずですが、第一段階の核分裂反応が起こる可能性を完全には否定できません。その場合の爆発範囲と放射能汚染の規模は広島、長崎をはるかに超えるおそれがあります。最低でもチェルノブイリ、スリーマイル、福島級の被害が出るでしょう」

「まったく、厄介な物を作ってくれたわね。それと陸軍さん、入り口の位置は特定できたけど、どうやって侵入するつもりですか。政府要人用の核シェルターって、だいたい分厚い扉で外からは開けられないと思うんだけど」

「暗証コードを解析できれば、外側から開くことも可能です。ただ、内部側からコードに改変が加えられていると、その作業は非常に難しくなります。時間がかかる上に、その間に内部側からの妨害も予想されるので、確実にいつ開けられるかは断言できません。外部入力パネルの接続を切られている可能性もあります」


 つまり永久に開かない可能性が高い。開けられたとしても、そのとたんに核を使われたら、奴らごと日本列島が吹き飛んでしまう。


 ナオコは椅子の背もたれにもたれかかった。見上げた天井に答えは書かれていない。


「つまり迎撃は無理。こっちから攻撃しても甚大な被害が出るし、奴らは世界一安全なモグラさんってわけね。最高に最低じゃない」


 山下から地下シェルターについての続報がメールで届いていた。会議室の大型モニターにも転送する。地下シェルター内には水の採取、食糧の備蓄、高度な換気能力と酸素供給など、100人が50年暮らせるだけの備えがあり、電力は地熱と地下水脈を利用した水力で賄っている。大量の蓄電池によるバックアップもあるという。


 施設の設計開発と施工には国内の財閥系企業だけではなく、フランス、ドイツ、中国、韓国、台湾の企業が名を連ねていた。隣国隣国と散々悪役に仕立てておきながら、機密に関してはこのザルっぷりである。いくつかの外国企業には水面下で協力を依頼できそうだが、時間的な余裕がなさすぎて情報提供が間に合いそうにない。


 いまこの瞬間にもミサイルが飛んで来るかもしれない。安藤からの通話は防衛省の役人が受けて、官邸の明け渡しと永世総理の受け入れ態勢について協議中ということにしてある。相原暫定総理の拘束と白黒団の排除の可能性もチラつかせている。もちろん擬態だが、情勢の推移によっては嘘が誠に、瓢箪から駒が出かねない。いま現在、シロナのセンサーに引っかかる者はいないが、核という脅迫に屈して寝返る者が、唐突に致命的なテロかサボタージュに訴えてくる恐れもある。


 ナオコは腕組みして考え込んだ。


「(特殊部隊にシロナとクロエを同行させて、夢を紡ぐ草で感度を限界まで高めれば、地下の連中の記憶と思惟を読めるかもしれない。扉のパスコードも探れるかも。でも入り口から居住区までの距離が遠すぎるし、脳波はしょせん電気信号だから、間の岩盤と金属の壁に吸収されて伝わらないか)」


 ナオコは安藤への憎しみが極限まで高まるのを自覚した。あー胸糞悪い。あのスカンク野郎、2005年から今日まで、いったい何発くさいのひり出せば気が済むのよ。大迷惑、大厄介、逆ギレ粘着の常習犯め。


「あー野球したい野球したい野球がした~い! バットで腹割って話してやる。ついでに膝も割ってやる。頭を割る前に、骨という骨、臓器という臓器をかち割ってやる!」


 吉村教授がナオコの憤懣を制した。


「ナオコ君、目的を見失ってはいけない。安藤太郎への報復は二の次だよ。最悪の破局を防ぐことを第一に考えるべきだ」


 ナオコは反省した。確かにそうだ。愛する妹たちと陛下と大多数の善良な日本国民の命に比べれば、あんな奴は虫けら以下の価値しかない。ほんとうにどうでもいい奴だ。いっそ地下深くに埋めてとびっきり重い蓋をしてやりたい。


 そうだ、埋めちゃえばいいじゃん!

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