6.クロ
奴隷少女クロに初めての家族ができた。
クロは今夜もナオコのお股を舐めた。実はクロが一番好きな時間だった。いつも寂しそうに俯いているナオコが、この時だけは頬を染めて悦んでくれるからだ。
クロはナオコが大好きだった。入所者たちが自分を物欲しげに見る目の意味を、クロは前の施設での経験からよく知っていた。ナオコが自分を守ってくれていることも。クロがナオコの肩や腰を揉むのは、ナオコへのせめてもの感謝のしるしだった。
これは母姉妹を求める代償行為か。
それとも小さくあえかなる愛の芽生えなのか。
ナオコといると胸が高鳴る。
クロがはじめて感じた「うれしい」だった。
翌日の21時過ぎ、クロに異変が起きた。
畑の真ん中で深呼吸しただけでも酔っぱらうほど強力な夢を紡ぐ草である。マスクもなく一日中作業していれば大人でもかなりの影響が出る。もっとも、長くつらい単純作業に耐えられるのも、草の匂いがもたらす幸福感の賜物かも知れなかった。
クロは激しく痙攣した。それから突然、他人と入れ替わったみたいに隣の女にしなだれかかって、なにかいやらしい事でもするかのように体をまさぐり、マッサージを始めた。
ナオコが驚きを押し殺して動いた。このまま放っておくと監督官が駆けつけて懲罰を受ける恐れがある。
「なんだぁクロ。ママが恋しくなったのかにゃ~?」
ナオコは、仕方ないな、という態でクロを小脇に抱えて自分の隣に連れてきた。
「ほーら、お姉ちゃんが側にいてあげまちゅからね~。いっしょにおしごとしましょうね~」
そうして監視の目を乗り切ったナオコとクロであったが、また翌日、ほぼ同じ時間にクロの発作は起きた。
数十分後、クロの奇行は治まった。クロは小さくつぶやいた。
「あたし、シロなの。シロになってたの。あたし、シロだったの・・・・・・」
「シロ? ぷっ、おまえ何言ってんだ。おまえはクロだろ?」
「・・・・・・ううん、そうじゃないの。あたしはクロだけど、さっきはクロじゃなかったの。シロだったの。ほんとだよ?」
ナオコは苦笑いした。このかまってちゃんめ。クロの頭を撫でてくしゃくしゃにした。いつもは撫でられることを喜ぶクロも、この時ばかりは伝わらないもどかしさに顔をしかめた。