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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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67.急変

 相原ナオコは狙われていた。


 東京都心でのクーデターを成功させたナオコは、シロナとともにアメリカ大使館から首相官邸へ移った。官僚、軍人、各国大使との折衝や、マスコミへのプレスリリースに、官邸以上に環境の整った場所は見つからなかった。セキュリティは信頼のおける警察隊と憲兵隊の面々が請け負ってくれている。


 それでも安全を考慮して、クロエとカオリ、サトリとケンジは、日本国内で最も安全なところにいる。狂信的な戦前カルトがいつどこで自爆上等のテロ攻撃を仕掛けてくるか、予断を許さない状況であった。そのため、相原シロナが夢を紡ぐ草を多めに服用して、悪意と殺意の接近をいち早く感知するべく備えていた。


 シロナは夢を紡ぐ草の選別棟に長年勤務していたクロエよりも、草の影響と習慣性は少ない。三姉妹で話し合って、役割分担を決めた。ナオコとシロナがフロント、そしてクロエとカオリたちはバックス。また、クロエたちも決して遊んでいるわけではなく、あるVIPと寝食を忘れて話をしていた。


 そんな中で、急報が入った。長野県の真ん中にある諏訪湖上で、総理大臣専用ヘリが炎上、墜落したというのである。墜落炎上ではない。目撃者の証言によると、諏訪湖上を北へ向かって飛行していたヘリの窓が突然、赤く明滅し、それから失速して高度を失い、湖面に墜落したということだった。


 安藤太郎は死んだのだろうか。状況から見て不自然な点が多すぎる。令和帝国の信奉者なら「天罰が下ったんじゃね? ざまあwww」と考えるところだが、現実と向き合っている者にとっては、とうてい楽観視しかねるケースであった。残骸の回収作業が済み次第、詳しいことが判明するだろう。


 官邸入りしたナオコは次々に布告を発した。


  ・大日本帝国憲法を本日付で撤廃。華士族制度の廃止。

  ・日本国憲法を即時再発布、再施行。

  ・政府公官庁と日本国軍は所定の業務に復すること。

  ・国籍戸籍等を喪失せる者に速やかな公民権回復を図る。

  ・華族士族財産の接収。強制労働従事者と被害者遺族への弁済。

  ・2か月後に国政総選挙、3か月後に統一地方選挙を実施。

  ・次の国会が召集されるまで、白黒団が政府機能を代行する。

  ・帝国下で国民を虐待した者は引き続き法の外に置く。


 問題は3と8が一部矛盾する点にあった。令和帝国下で政権にすり寄って甘美なエサを投げ与えられていた高級官僚と高級軍人が漏れなく処断された結果、運営に必要なポストがごっそりと空いてしまった。そのために、一時的に行政、外交、軍事が機能不全を起こしていた。


 同じことが革命当時のフランス軍にもあった。貴族しか士官になれなかったフランスでは、革命による処刑と亡命によって軍士官が消失した。その穴は退役、降格していた平民元士官と、新たに兵士から抜擢された者たちが埋めた。日本国においても、平民のキャリアとノンキャリアが前倒しに昇格して、その穴を埋めてくれるだろう。


 当面の政権運営は、白黒団司令、吉村樹が中心になって行った。彼は早くも新たに組織されるいくつかの政党から国政選挙出馬を打診されていたが、吉村は全て断った。あくまでも代行として務めた後、国会が新しい首班を指名したら大学に戻るつもりであった。その間、ナオコは暫定総理大臣として官邸の執務室で決済印を押しまくり、時々会議室で帝国政権下における被害者の救済プランに耳を傾けていた。


 安藤太郎の捜索は続いていた。空路西に飛び去ったことは判明しているため、西東京、山梨県、長野県南部を重点的に調べている。三軍の航空隊も慣熟飛行を兼ねて空からの捜索を行っていた。


 本当はあの傲慢で病的な嘘つきの顔など二度と見たくない。しかし、あの男が持っているはずの、ある物を是が非でも確保する必要があった。それは・・・・・・。


 官邸の執務室の電話が鳴った。暫定的に総務省から出向してきた平民キャリア官僚が電話を受けた。すぐにその顔色が変わる。


「相原暫定総理、安藤太郎からお電話です」

「緊急で全メディアに繋いで。テレビとラジオとネットの全局によ。役所と軍隊のみなさんも、非番の人と手の空いている者は全員聞くように連絡を。準備が出来たら話します」


 それまで精々待たせておきなさい。ナオコはそう結んでから、執務室のデスクの上で行儀悪くあぐらをかいた。妖しい陰りが丸見えだった。中学校制服のプリーツスカートをはいていることは、彼女の念頭には無いようだった。


 令和帝国の永世総理と日本国の暫定総理の通話は、日本のみならず、全世界に緊急生放送された。以下はその全文である。


「えー、あなたが反乱の首魁ですか。えー、あなたはですね、非常にいけない事をですね、まさに天皇陛下に対し、重大な反逆行為をなさっているわけでありましてー。えー、すみやかにですね、自首していただいてですね、これは未成年と言えども死刑は免れないところではありますけれども。えーせめてですねー、ご家族にはですね、累が及ばないようにですね、できるかもしれないわけでありまして。えーとにかくですねーそうそうに、そうそうに国権をですね、返していただきたいわけでありましてー。それがですね、ひいてはお国のためになるわけでありまして。もちろんですね、もちろん陛下もですね、こういう事態は望んでおられないはずでありますのでー。そうそうにですね、すみやかにですね、まず官邸から立ち退いてもらいたいわけであります」

「拒否します。ああそれと、私の家族は憂国自慰団に殺されてもうこの世にはいません。あなたこそ、いますぐ最寄りの警察に出頭なさい。悪いようにしかできませんけど」

「えー、そうそうにーそうそうにですね、東京を明け渡してほしいわけでありましてー。でないとですね、やむを得ずですね、核ミサイルを、まさに、まさにですね、東京に撃ち込まざるをえないのでありましてー。これはですね、ひいては天皇陛下に対しましても、まさに大逆の結果になりましてですね。はやく降伏していただかないとですね、あなたがたは大逆罪となるわけであります。すみやかにーすみやかにですね、降伏していただきたいわけであります」

「・・・・・・あなたと野球がしたくなってきました。検討してから、あとでこちらからかけ直します」


 通話は暫定総理の側から切られた。


 ナオコはデスクから降りて執務室の中をうろうろした。歩き回りながら必死に考えを巡らした。


「(やばい、やばい、あいつなら本当にやりかねない。あいつおかしいもん。まじやばい。どうしよう。まず陛下と住民に逃げてもらって・・・・・ダメ、無理。パニックになるだけだよぅ。だいたいどこに逃げれば安全だっていうの。まず陛下だけでも逃げてもらおう。急な外遊ということなら体裁は繕える。うん、まずそうしてから・・・・・・)」


 と、そこへ隣の部屋にいたシロナが駆け込んできた。


「お姉ちゃん、クロエから伝言。いまから大事な放送するから、すぐに来てって!」


 ナオコは秘書役の役人さんに向き直った。


「車を回して。行き先は赤坂御所!」

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