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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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61.権変

 大日本令和帝国陸軍中将、鴨上かもうえたもつは勇躍していた。


 彼、鴨上保は、血の一週間を主導した人物として名高い。あの逆クーデター以前から体罰を全面的に肯定し、自衛隊内のパワハラと虐待問題の責任を全て被害者側に擦り付ける、そういう人物であった。


 反日勢力の陰謀が活発化してからおよそ十日、巷では華士族の口座預金と金融資産が根こそぎ失われるなどの奇怪な事件が頻発していた。さらに、自宅のセキュリティが甘い中級以下の士族は次々に消息を絶っていた。平民の暴徒が集団で襲撃し、彼らを家族ごと血祭りにあげていたのである。


 警備会社の派遣スタッフは逆に反撃に遭って逃げ帰り、警察は事後処理に追われた。憂国自警団は既に壊滅し、逃げ延びたわずかな構成員も懇意の反社半グレを頼って地下に潜っている。


 華族と有力士族たちのうち、目端の利く者は、東京千代田区にある陸軍憲兵隊司令部に駆け込んで難を逃れた。彼らは政府と軍に対し、相応の対処を望んだ。既得権益を守るための第二救国革命を要求したのであった。


 その日、鴨上中将は安藤太郎永世総理大臣から直々に、可及的速やかな秩序回復を要請された。鴨上にとっても望むところであった。彼は勇躍して駐屯地入りし、臨戦態勢を発令した。


 鴨上は高揚していた。「正義」の暴力は人を最も酔わせる。どんな銘酒にも勝るほどだ。小学3年生の時に教室で大便を漏らしてしまい、その日から続いた日常的なイジメを避けて転校した保は、目に映る全ての敵に当時のクラスメートを重ねていた。彼個人の認識では、彼が望むことの全てが不当な攻撃に対する正当な反撃なのであった。


 部下から連絡が入った。不逞な反政府組織の根拠地が特定された、というのである。それは東京都心からもほど近い、茨城県南部にある総合大学であった。反日分子どもはゲバルト棒を振り回して大いに気勢を上げているという。奴らはこのまま東京へ侵攻して、皇居を攻め落とすと豪語しているらしい。


「司令官殿、既に出撃の準備は整っております。この上は、ぜひ勇壮なる訓示を賜り、我らを鼓舞して欲しくあります!」


 鴨上は喜び勇んだ。自ら戦車に乗って隊列の先頭に立ち、「共産党員」どもを踏みつぶしてやるつもりであった。彼は政界入りを望んでいた。救国の英雄として堂々と松下村会議に加わるべく、後続の装甲車両にカメラ撮影を厳命していた。


 くだらないパフォーマンスである。鴨上は部下に、彼の雄姿を撮り損ねた者は非国民であると冗談交じりに伝えていた。


 少なくとも彼にとっては、それは面白い冗談なのであった。


 閲兵式場に案内された鴨上は訝しんだ。演台にはマイクの用意が無く、居並ぶ兵士の目は氷のように冷たかった。まるで不倶戴天の敵を見るかのような態度である。


 演台に上ろうとした鴨上を、部下が呼び止めた。


「そこで止まれ。お前は今から刑に服する。最後の望みは聞かん。代わりにコレを吸うといい」


 急に命令口調になった部下が、鴨上に夢を紡ぐ草100%の紙巻きを一本差し出した。任官直後から手近において目をかけてやった恩を忘れ、なんという無礼。なんという傲慢。こいつは狂ったのか!?


「儀仗兵、牛島少佐を逮捕せよ。国家に対する反逆の言辞があった。至急、営倉に放り込んでしまえ。後刻、直々に尋問する」


 しかし、鴨上の命令は実行されなかった。それどころか、儀仗兵たちの小銃は彼に向けられている。事ここに至ってようやく彼も事態に気付いた。


 鴨上は牛島に向き直って罵った。この反日、パヨク、ミンス、共産党、非国民、人非人、売国奴! 隣国にいくらもらった? 亡国を望む自虐史観者め、恥を知れっ!


 牛島少佐は鴨上の見当はずれな罵詈雑言を、耳が無い人みたいに聞いていた。鴨上のボキャブラリーが尽きたところで、もう一度タバコを差し出して言う。


「私はただ、あの時守れなかった国民を今度こそ救いたいと思っただけですよ。士族などという時代錯誤な身分も、もう要りません。我々は軍人の本分に立ち還ります。あなた方の私的な帝国ではなく、日本国を守る防人にね」

「馬鹿め、天皇陛下に逆らう反逆者だ貴様は。貴様が共産主義者だと見抜けなかったとは口惜しいぞ。この大逆の人非人め、恥を知れっ」

「それはさっき聞きましたよ。天皇陛下を利用して、その御名に傷をつけたのはあなた方ではありませんか。私は一度として陛下の口から、無実の平民を奴隷にせよとか、子供を反社に売り渡せというような、言語道断な勅命が下されるのを聞いたことがありません。大逆の重罪人はあなた方だ。間違えないでいただきたい」


 牛島は再度タバコを差し出した。しばらく牛島を睨んでいた鴨上も、ついに自らの命数を悟ったか、その紙巻きを受け取った。牛島がライターで火をつけてやった。


 奴隷どもが汗水たらして作った草はうまかった。強い酩酊はすぐに訪れて、鴨上から想像力と恐怖心を奪った・・・・・・。

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