58.吉村の劫火
白黒団司令、吉村樹は、計画の第一段階完了を妻と古酒で祝った。
少女たちの告発動画が世間に流布してから3日後、動画の告発内容を補強する証拠の数々を全世界に向けて公開した。
大日本令和帝国の国営企業が、大麻の新種である夢を紡ぐ草を最大のドル箱として稼働していることは周知の事実であったが、その現場の実態は松下村会議大官房府の指示によって秘匿されてきた。隣組で、あるいは一般犯罪で収監された者の家族たちが望んでやまなかった情報が、いま吉村の指示で白日の下にさらされたのである。
世間に公表されている最先端テクノロジーを駆使したイノベーションをリードする企業という虚像を、その豊富な内部資料に基づく論述が打ち砕いた。賃金も休日もない強制労働に従事させられている、約3万人の囚人たちの身元も公開された。ほぼ全員が無実か微罪であり、未成年者と児童までが含まれていることも、その長いリストには記されていた。日本全国にいる被害家族たちが目を皿のようにして、自らの家族係累親類縁者を探し求めて、その名前にたどり着く。
翌日、違法風俗店の経営者、出資者の法人名、個人名が公表される。反社会的勢力を介してはいるが、その金の流れは全て「我陛下に仕える国士でござい」とうそぶく華族、士族、憲兵、警察、検察に還流していた。国権の最高機関たる松下村会議メンバーの名も含まれていた。彼らが自ら店に入り、1時間から3時間後に出てくる姿を映した動画もアップロードされた。何をしていたかは推して知るべきである。
さらに翌日、第3弾として、憂国自警団の構成メンバーと活動資金源を公開した。現役の軍人と警察官を含むそのリストには、華士族の子弟が列挙されており、血の一週間を主導した政治家及び高級軍人たちとの関係と、資金面での繋がりが詳細に示されていた。
大官房長官の面子は丸つぶれになった。記者クラブが連日の暴露情報の件についていっさい質問しないことが、会見の不自然さを際立たせた。令和帝国をカモにしているアメリカのプラント政権とロシアのポーチン政権が、何らの根拠も示さず一連の配信動画をフェイクと断定する姿も、かえって理不尽な強権発動に対する反感を醸成させた。
吉村の差配は絶妙だった。政府と御用文化人が否定した直後に繰り出される情報は、正面から反駁する余地のないものだった。彼らの詭弁は幼児の悪口に等しいレベルに低下し、国中に不快の種をまき散らした。
最後に、第4弾として、華族士族全員の個人情報がもれなく流出した。住所氏名年齢顔写真電話番号SNSアドレスから、預金口座、不動産と有価証券、仮想通貨資産に至るまでの、文字通り全てが。彼らの住居に関しても、本宅、セカンドハウス、別荘、愛人の部屋が、住所のみならず鍵のタイプ、防犯体制、警備会社との契約状況も含めて暴露されていた。
安藤太郎永世総理大臣以下、自由愛国党、カルト教団、反社自警団に属するほぼ全員が、世界に対して、その裸の姿をさらしたのである。




