56.ナオコ
相原ナオコは愛の坩堝の中で満たされていた。
もう思い残すことは無かった。
色んなものを見た。
たくさん遊んだ。
美味しいものも食べた。
愛しいふたりと、何度も何度も触れ合った。交情を繰り返すたびに、また新しい愛が芽生えた。夜を越え、朝を迎えるたびに、また好きになった。昨日よりもっと好きになった。来世がもし本当にあったなら、また最初から恋をしようね。
各孤児院に逃走用のマイクロバスとミニバンを各2台を常駐させて、政府に所在が発覚した時に備えた。新潟県の福島県境近くに予備の施設を建てさせて緊急避難先を用意させた。常磐道から磐越自動車道に乗ればすぐに隠れ家につく。念のため、孤児たちと白黒団員に遠足を兼ねた予行練習もさせておいた。
万が一に備えて、遺書も書いた。孤児院に山中ご夫妻と山川警部補、吉村教授、三人の大学生を集めて、カオリとサトリを改めて基幹メンバー全員に紹介した。もし自分が何らかの理由で指示命令を出せない状態に陥った場合、カオリを団長、サトリを副団長に据えて、その指揮に従うように頼んだ。
カオリが驚いてナオコを凝視する。正気か、と言わんばかりに。
「おいおいナオコ、最近ジョークの質が落ちてねえか。なんで、あたしが団長なんだよ。幹部団員集めたところで渾身のボケをかましたつもりかもしれないけどさ。甘く採点しても、やや受けってとこだぜ」
「残念、本気でしたぁ~。だってさ、カオリしかいないじゃない。その身で現実を知っていて、そのことを行動で訴えることができるのは。
別にいますぐにってことじゃないし、あくまでも念のための話だから、深刻に受け止めなくていいよ。難しいことはサトリが考えてくれるしね」
「うーん、そうなのかな。ま、あたしが尻を叩いてやらないとダメそうな子もいるし、いちおう引き受けとく。けどよ、そんなにやばいのか?」
「計画の途中でどうしても私が顔出しする必要があるから、当然あっちの人たちから問答無用で狙われるようになると思う。それも刃物か銃で。ひょっとしたらミサイルかも。だから、その時期になったら、シロとクロは別行動させるつもり。私ともなるべく一緒にいさせない。危ないから」
「わかった。かたっぽはこっちで引き受けるよ。
あー、それじゃ、おっほん。どちら様もお控えなすって~。
えー、ご紹介に預かりましたカオリでございます。二代目ナオコを襲名するかもしれません。よろしくお願いしまっす」
「族の跡継ぎじゃないんだから・・・・・・」
サトリが仁義を切るカオリにあきれた。
いずれにせよ、セカンドプランは大切だった。多額の現金も隠匿し、後事に備えさせた。日本全国にセーブハウスも用意してある。体制側の反撃でどんな事態に陥ろうとも、決して私たちは諦めない。ナオコたちの決意は固かった。
「襲名式」のあとで、ささやかなパーティーが催された。孤児院有志と年少組による出し物も披露された。この子たちに素敵な明日を、極上の未来をもたらそう。
天に夢を、地に希望を取り戻そう。
そして全ての不義に鉄槌を。




