53.コウタ
自称白黒団親衛隊の中学生、コウタは涙を流した。
コウタは卒業式の今日、期するところがあった。彼は彼女に、どうしても伝えたい気持ちがあったのだ。「卒業式の雰囲気の中でならワンチャンあるんじゃね?」というのが、彼の考えであった。
ところが、式が終わってクラスメイトたちが愁嘆場を繰り広げる中で、目指す彼女には先客が山ほどいた。主に女子の友達が次々と言葉とエールを交わしている。とても男子が割り込んでよいムードではなかった。わりとKYなコウタだが、その程度の空気はさすがに読める。男子たちは壁のハエよろしく、周囲でその光景を見守っていた。
最後に、女子陣の後ろでモジモジしていた級友のサナエが、友達に押し出されて彼女の前に立った。彼女とは野球仲間でもある。サナエが意を決して、彼女に告げた。
「ナオちん、わ、わたしね、その、なんていうか・・・・・・好き、なの。ナオちんのことが、ずっとずっと好きだったの。友達じゃなくて」
コウタは驚愕した。先を越された~じゃなくって、まじかよっ。女同士で告白なんて初めて見た。サナエってそっちだったんかっ。し、しかもこんな大勢の前で、どんだけ勇者やねん。
コウタは驚き慌てる時、漫才師の言葉で考えるのだった。
「・・・・・・友達じゃなくって、うん、わかるよ。・・・・・・そっか、サナエがそんな風に想ってくれてたなんて知らなかったナ。いままで気付かなくてごめんね。ほら、あたしって鈍感だから」
「ううん、ナオちんが謝る事なんかないよ。わたしが悪いの。勝手に好きになって、ごめんね。こんなの気持ち悪いよね」
「気持ち悪くなんかないよ。あたしだって、女の子と付き合ってる変態さんだもん。サナエは全然悪くない。でもね、あたしが一生かけて愛する人はもう決まっちゃってるんだ。だからごめん。サナエの気持ちには応えられない」
「知ってる。クロちゃんとシロちゃんだよね。うん、三人が特別な関係だって、わたしも知ってた・・・・・・けど、この気持ちに嘘はつけなくて、どうしても伝えたかった、ただそれだけだから。ごめんね、こんな気持ち、勝手に押し付けちゃってごめんね。迷惑だよね?」
「どうしてサナエが謝るの。悪いのはあたしだよ。気付かなくてごめん、ずっと苦しかったよね。あたしを叩いて、気のすむようにしていいから。だからごめん。本当にごめんね」
サナエがとうとう両手で顔を覆って泣き出した。ナオコがサナエを抱きしめる。ナオコの目からも、キラキラ輝くものが溢れ、滴り落ちた。
「ごめんねナオちん。ほんとにごめんね」
「サナエは悪くないよ。あたしこそ、ごめんね。サナエを選べなくて、ごめんね」
お互いを気遣い、労わり合い、ひたすら責任を感じて謝り続けるふたりに背を向けて、コウタは走り出した。校庭を疾走し、卒業式の会場から最も遠い校舎の、誰もいないトイレの個室に駆け込んだ。カギをかけ、便座の蓋をおろしてその上に座り、あふれる涙を手でぬぐい続けた。
俺はバカだった。俺は恋に恋してただけの童貞野郎だ。相手の気持ちなんて何ひとつ考えてなかった。ひとりで勝手な妄想に浸ってばかりで、俺は一度も本物のナオコを知ろうとしていない。だから兄貴にも女子にも馬鹿にされてたんだ。俺はどうしようもないガキだ。皮っかむりの赤ちゃん野郎だ。
・・・・・・後にコウタは、趣味で描いた百合同人漫画が零細出版社の編集の目に留まり、商業デビューを果たす。連載は単行本10冊分を数え、累計出荷数50万部を記録するのだが、それはまた別の物語となる。




