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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
53/75

52.シロ

 相原シロナは北国の景色に心を奪われていた。


 2月下旬、白黒団の三姉妹はついに念願の計画を実行に移した。日本列島縦断の旅である。あえて酷寒の北海道から始めたのは、オホーツク海で流氷を見られる時期がちょうど今時分であるためだった。ついでに北国の冬の旬の味覚を、その最盛期に楽しめる。


 三姉妹は留守に気を遣った。出発前に可能な限りお仕事に精励し、情報収集と資金調達の目処をたてておいた。実はもう、情報収集は行政と警察機構と銀行、証券会社内の協力者から無尽蔵に集まり、資金調達は大手流通グループとゲームやネットTVを手掛けるIT企業数社の協賛があるので、シロとクロの共感覚能力に頼る必要がほぼ無くなっていた。白黒団の内部情報を外部に漏らす恐れのある人物にだけ、通りすがりの子供を装ってその記憶と思惟を探るのだった。


 これにはナオコもほっとしていた。シロとクロの夢を紡ぐ草の服用があまりにも常態化し過ぎていて、中毒症状を疑わせるような行動と言動にたいして神経過敏になっていた。足掛け2か月に及ぶ旅行中は、なるべく二人の能力に頼らないように過ごすつもりだった。また、醜い大人の悪意を読み続けているふたりの情操教育的にも、きっといい感じの旅になるだろう。


 天気予報で最適そうな日時を見計らって観光砕氷船を予約し、飛行機で女満別空港へ飛んで網走港で乗船。出航して30分ほどで流氷に遭遇できた。オオワシが流氷にとまって羽根を休めている姿も見れた。


 港に降り立つと、白黒団メンバーのケンタがレンタカーで迎えに来ていた。個人の予定と白黒団での活動の合間を縫って、春休みに突入した大学生メンバーが、護衛兼ドライバーを務めてくれることになっていた。


 実は北海道での付き添いにケンタを呼んだのには理由があった。中学校の元同級生たちには、今回の旅行を秘密にしていた。知れば高校受験を終えたばかりの彼ら彼女らは、卒業旅行を兼ねてついて来ようとするだろう。特に弟のコウタは確実だった。兄ケンタをローテーションのトップに据えることで、コウタが気付いた頃にはもう別の団員と違う土地を巡っているという寸法だ。


 次に摩周湖を見た。その日の午後はもう結氷は解けていたが、湖面が青すぎる程に蒼く、充分に見応えのある美しさだった。車への帰り道、疲れたシロとクロは交代でケンタにおんぶしてもらった。


 まっすぐ南下して釧路市街に入り、宿をとった。こうして三姉妹の大旅行の1日目は幕を閉じた。


 翌朝、釧路湿原西の給餌場でタンチョウを見た。その後、お昼に帯広で豚丼を、夕食に旭川ラーメンを食べた。2日目は旭川に泊まった。


 3日目、朝早く出発して一気に札幌市内を目指した。まず白い愛人パークに行ってチョコとソフトクリームを味わった。


 雄大な自然の景色の後では感動も薄いと判断して、人口建造物は羊ヶ丘展望台のクラーク像だけを見た。昼はうにいくら丼、夜はジンギスカンに舌鼓を打った。ラム肉は太らないとお店の人に聞いたので、ナオコは体重85kgのケンタと同じ量にチャレンジした。結果は辛うじて食べきったが肉の噛みすぎで顎が痛くなった。


 その日は札幌のホテルに泊まるので、運転しっぱなしの疲れを大いに癒してもらうべく、ケンタくんにはしこたまビールを飲ませた。こうしておけばススキノのお姉さんどころではなくなるだろう。ケンタはあんまりアルコールに強くないらしく、ホテルに着いてすぐ大いびきをかいて寝てしまった。


 4日目、大量の北海道土産を宅配便で送ってから札幌を立つ。新千歳空港でケンタと別れて、青森へ飛んだ。青森空港では佐伯ケンジが待っていた。お昼ご飯は、にぼしラーメンを食べた。


 東北では主に温泉を巡った。酸ヶ湯温泉からはじめて、秋田では秘湯中の秘湯、乳頭温泉郷に泊まった。比内地鶏のきりたんぽ鍋と〆の稲庭うどんがものすごく美味しかった。ハタハタは微妙だったので、シロとクロはケンジくんに引き受けてもらった。


 5日目、午前中に岩手県盛岡に到着。タマエおばさんに頼まれていた南部鉄器を購入。お昼はわんこそば。あんまりたくさん食べられなかったけど、テンポにつられてシロは楽しくなった。


 昼食のあとで、すぐに来た道を引き返して秋田県に戻り、そこから南下して山形県へ向かった。次の宿は山形市に予約していた。途中、天童市によって、タカオおじさんと吉村教授が喜びそうな将棋駒を買った。職人の手彫りで、使い込むと飴色に変わって味が出てくるそうだ。


 夕食は山形市内で山形牛のすき焼きをいただいた。すごくおいしかった。羊肉、比内地鶏、牛肉と食べてきたので、函館の有名な豚加工肉工場に寄れなかったのは残念だった。通販でも買えるみたいなので、ナオコはセット品を山中家宛てに注文しておいた。日持ちするし、卒業式の前後にがっつり食べられるだろう。


 6日目、山形の大野目温泉を発って米沢へ。自分たちだけ御馳走をいただくのは申し訳ないので、白黒団の全孤児院に100人前ずつ米沢牛を発注しておいた。職員・教員のみなさんにも充分いきわたるだろう。漢気注文であった。


 お昼に喜多方ラーメンを食べた。1時間待ちの行列店は避けて、空いている店を2軒はしごした。行列店には地元のTV局が取材に訪れていて、人気ぶりをうかがわせていたが、出てきた男性客の一団は「スープがぬる過ぎる、麺も茹で過ぎだ」と怒っていた。結果オーライであった。


 食後、西へ向かい新潟県へ。脱獄犯兼誘拐犯としては、現場周辺に戻るのは避けるべきであろう。新潟せんべい王国でお土産を物色した。直径25cmのせんべい焼き体験では、シロとクロはそれぞれ自分とナオコとの相合傘を書いて、ナオコを赤面させた。


 晩御飯は新潟市でお寿司。地元でナンバンエビと呼ばれる甘エビが特に美味しかった。ケンジはナオコたちを先にホテルへ返してから、地元のキタナシュランな居酒屋で、あん肝を肴にしみじみと一杯やった。若いのに通好みであった。


 7日目、新潟駅から上越妙高駅へ移動。ケンジはここで降りて東京へ戻った。代わりにケンジの同期生で北陸富山県出身の高岡ユウジが旅の仲間に加わった。


 北陸新幹線で一路富山市へ。ユウジ曰く、「黒部ダムの雄大さを知らずして富山県を語るなかれ」とのことだったが、あいにく真冬なので、アルペンルートは閉鎖されていた。当然ながらスルーした。


 お昼ご飯は高岡チョイスの高級店で氷見サバの焼きものと紅ズワイガニのフルコースをいただいた。この辺りでクロがお腹を壊してしまった。贅沢な食事に慣れておらず、分解酵素的に弱いのかもしれない。夕飯の富山ブラックには白飯を付けず、胃薬のお世話になった。


 翌朝の漁港見物に備えて、その日は早めにホテルで休んだ。


 8日目、めっちゃ早起きして、魚介類が水揚げされセリにかけられる様子を見学。いつか孤児院のみんなも連れてきたい。漁師の皆さんがカッコよかった。セリは日本語に聞こえなかったし、喫煙者だらけなのはどうかと思ったけど。


 最寄りの営業所で車を借りて、氷見温泉郷へ。クロに続きシロも体調を崩していたので、予定を変えて、しばらく逗留することにした。ここでゆっくりさせて消化にいいものを「だいて」やれば、「きときと」な身体に戻れるだろう。覚えたての方言をさっそく強引にでも使いたいナオコであった。


 宿の仲居さんが親切で、念のためお医者様を呼んでくれた。軽い食あたりと風邪だろうと言われた。あとで気付いたが、往診料は取られなかった。宿が負担してくれたのだろうか? と思ったらチェックアウト時に加算されていた。ですよねー。


 ふたりを付きっ切りで看るナオコの姿をみて、白黒団に加わった歓びを新たにするユウジであった。


 旅行11日目、シロとクロが元気になったので出発。車で能登半島へ進出して輪島塗体験を楽しんだ。


 12日目、輪島市から羽咋はくい市へ。お昼はナルトのようなカマボコに8って書いてある野菜ラーメン。塩と味噌と酸辣湯麵を頼んでスープをシェアした。


 千里浜なぎさドライブウェイを爆走した。楽しかった。天気も良かったので窓を開けていっぱい叫んだ。夕方には金沢市に入り、B級グルメのハントンライスを食べた。お高い料理よりも箸ならぬスプーンがすすむ三姉妹なのであった。


 13日目、福井県へ突入。あわら温泉に浸かり、福井市でソースカツ丼をいただいた。鯖江でめがねミュージアムを見物し、武生でボルガライスを食べた。三姉妹の味覚がまだまだおこちゃまなことを察して路線をかえたユウジであった。


 夜は宿に舞鶴からの客数名を迎えた。対象がすぐそばにいれば、シロとクロは草に頼る必要がなかった。


 14日目、滋賀県を通って岐阜市へ。いちおう天下人の居城にあやかるということで、ロープウェイに乗って岐阜城天守閣へ登った。眼下に見下ろす町並みは素晴らしかった。「ふっふっふ、この愚民どもめ」なのであった。


 お昼はつけ麺。麺が幅5cmくらいあるやつを頼んでみた。もちもちとした食感が実においしかった。まさに「小麦の悦び」であった。


 午後は雪道をゆっくり北上して、有名な日本三名泉のひとつ下呂温泉を訪れた。めちゃくちゃ滑らかな泉質でお肌にとても良さそうだった。これ以上、お姉ちゃんが美人になったらどうしよう、とクロは悩んだ。その思惟を読んだシロは、クロのお肌もスベスベでエッチくなって釣り合いがとれてるよ、と考え、その思考を呼んだクロがシロに抱きついてスリスリして、ナオコを笑わせた。


 15日目、温泉と風情のある景色がいたくお気に召した三姉妹は、もう一日のんびりと過ごすことにした。


 16日目、ようやく重い腰を上げた三姉妹とユウジは、飛騨高山に向かった。白川郷の合掌造りと高山陣屋跡を観光して、シンプルだけど奥深い醤油ラーメンを食べた。スープと醤油を一緒に煮込んでいるのが滋味たっぷりの秘訣らしい。


 17日目、車で木曽福島へ出て中山道に乗った。途中で名物の牛乳パンを2つ購入して、4人で分け合って食べた。次に松本市へ行った。そば集落を訪れて、素朴なお座敷でお蕎麦を味わった。国宝の松本城にも行ったが、戦国&お城マニアのユウジのテンションだけが高かった。


 さらに足を延ばして長野市の善光寺を訪れた。女人救済にも御利益があるとユウジがいうので、お参りしておいた。


 夕食に馬肉を刺身としゃぶしゃぶでいただいた。脂肪分が少なくヘルシーだそうなので、めっちゃ食った。次はカオリたちと来たい店だった。ユウジ君の今日までの頑張りを称えて、地酒を飲ませてあげることにした。3杯でグロッキーになったので、旅館まで手を引いていく羽目になった。


 18日目。予定では最終日のはずだったが、まだ長野市にいる。帰ろうと思えばすぐだが、支援者と協力者の手前、ルートは変更できない。


 高速道路を使って甲府へ。そのあと河口湖を見て、静岡へ入り、所定の場所で白黒団メンバーと落ち合った。ある組織の人物を見極めて、協力を仰ぐか否かを決めねばならなかった。


 予定は夜までに片付いた。箱根の温泉宿に泊まった。


 19日目、神奈川県と東京都の各所を回る。埼玉と千葉での仕込みは旅行前に完了していた。都心に近いところほど、華士族率も高く困難になったが、数的優位とカギを握る人物の確保に関しては問題なかった。


 疲労困憊のユウジに変わって、目黒で合流したケンジがハンドルを握った。ユウジは助手席ですぐに眠りに落ちる。あとは地元まで帰るだけだった。


 明日は卒業式だ。

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