4.夢を紡ぐ草
夢を紡ぐ草の需要は天井知らずだ。
大規模な原発事故が生じた福島において、大麻の新種が発見された。鳥が運んだ種子が放射能の影響を受けて変異したと推定されるそれは、僅かな水と養分によって爆発的に繁茂した。
乾燥葉及び樹脂を吸引または服用すると、従来のガンジャやハシシをはるかに上回る強い酩酊が得られた。健康への影響はアルコールよりはるかに低いとされ、厳密には違法であるものの、「え~、従来の大麻とは、まったく違うわけでありまして~。え~まさに~まさにですね、まったくの別物でありまして~」という太郎閣下のありがたい妄言によって、栽培製造流通販売における全ての規制は無力化した。
安藤永世総理大臣を終身総裁に祭り上げた自由愛国党の要員は、神話の時代から続く家系をでっちあげられて華族となった。党員サポーターと献金者並びに選挙協力者は士族となった。彼らには経済的恩恵も付与された。国営企業の株式である。
夢を紡ぐ草が新たな国営会社最大の資金源になった。そして、不平等な新憲法によって選挙被選挙権を奪われ、不公正な税制のために極低賃金長時間労働を課せられた平民たちに唯一の慰めをもたらした。草を買うことが搾取に通じているとわかっていながら、その強烈な薬効からは逃れられない。
華族士族は草によって潤いつつ、草を食む平民どもを軽蔑することで、己の卑小な自我を満足させるのだった。