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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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47.マユカ

 脱獄女囚にして飲食店店員マユカは輝いていた。


 ガッコーーン、ガラララン!


 優勝賞金100万円争奪チキチキ♪ボウリング大会は、マユカの独壇場であった。彼女は矯正施設への収監前、プロボウラーの母に仕込まれていて、その腕前は元女囚たちの中では群を抜いていた。


 無料でボウリング・温泉・カラオケを利用できる権が、元女囚たちに唐突に回ってきた。彼女たちが行儀よく使えば、元娼婦の少女たちにも順番に使わせてくれるという。服とコスメに給料をつぎ込んでオケラな彼女たちに、もちろん否やは無かった。


 当日、孤児院前に集合したところ、6台の車が迎えに来た。その後30分ほどで到着したのは、ちょっと古ぼけた感じの総合レジャー施設だった。入り口にジャージ姿のナオコとクロとシロが待っていて、全員とハイタッチする儀式が行われた。これは脱獄祝勝会ということらしい。


 マユカは佐伯ケンジを諦めた。どうやらゲイでもバイでもなさそうだったが、学業の傍ら白黒団の活動で四方を飛び回っている様子はとても忙しそうで、女性との交際に振り向ける時間と気力と体力はなさそうに見える。白黒団からのお給料は学生の中ではトップクラスみたいだけど。使う暇がないって面談ではこぼしていた。


 それに、彼女が選択した職場には、調理師、ホールスタッフ、常連客に掃いて捨てる程の男性がいた。なんだ、選り取り見取りじゃない。その土浦の大きな大衆居酒屋さんは、いつも活気に満ちていて、概ね楽しかった。酔客のナンパには閉口したけど。


 店長さんは雇われだけど、オーナーと同じく白黒団の理解者なので安心だった。マユカが面倒ごとに巻き込まれないようにそれとなく気を遣ってくれていて、すごく頼もしい。聞けば30代の独身、賞罰無し、彼女彼氏婚約者いずれも無し。ちょっと歳の差が気になるけど、愛の前に性別も戸籍も年齢さえも無意味であることをナオコたちが身をもって教えてくれたので、マユカも気にしないことにした。


 一緒に賄いを食べているときなんかに、意味深に見つめてみた。ドギマギしてすぐ目をそらしちゃうのがかわいい。いずれメロメロにしてあげる。


 うん決めた。わたしはあなたを、


 に が さ な い ♪


 ボウリング大会においても、マユカの剛腕は賞金を逃がさなかった。チーム優勝は知性派のサトリのチームであったが。彼女が考案した「真ん中ややずらしまっすぐ投げ」と、丁寧にスペアを取る作戦で、総合点でマユカのチームを上回りやがった。ゆ る さ な い じゃなくて、そのうちに何か奢らせよう。


 そのサトリが、なんだかケンジさんといい感じの仲に進展しているようだ。ダークホースもいいとこ。今日も当然のようにケンジさんが運転する車に乗り込んでいた。乗った車でチームの振り分けをされてしまったので、ケンジさんとサトリにくっついていればチーム優勝の400万もいただきだったのに。後悔先に立たずね。


 それにしても、総額1000万の賞金の出所が気になる。株取引にも参加している店長から聞いた話では、白黒団は関東に本社がある企業からのインサイダー情報で荒稼ぎしているらしい。初めの三か月は売却益の50%を納めていたけど、いまでは人数と原資が増えに増えて20%でよくなったとか。


 お店の開店は17:00、仕込みも15:00ごろから始めているので、始業前に取引しているというが、仕事前に株で稼いでしまうと金銭感覚がおかしくなりがちだと言ってた。先日も店長が大量に仕入れたおさかなが売れ残ったので、スタッフ総出で刺身・焼き魚・煮魚にして片付けた。ごちそうさまでしたっと。


 店長が自分に届いた孤児院からの手紙を見せてくれた。それは年少組のリカちゃんからのシンプルな近況報告だった。物心つく前から客を取らされていたあの子が、覚えたてのひらがなで一生懸命書いたその手紙は、たしかに読み手の心に訴える何かがあった。あの子がカオリにお熱のクレイジーサイコなんとかであることを知らなければ、だけど。


 ボウリング大会のあとはみんなで温泉に浸かった。栄養状態が急激に改善したせいか、みんな選別棟にいた頃よりも発育がすばらしい。エミのおっぱいなんか、揉んだら手からこぼれそうだ。


 さっぱりして浴衣に着替えてから、カラオケルームに移る。最新の流行歌を誰も知らないので、みんな専ら食い気に走っていた。登場する歌手とバンドに馴染みがないと、歌番組はかくもつまらないものなのかと、院と店で見るテレビで悲しくなった。大皿に山のように盛られていた唐揚げとフレンチフライが5分で跡形もなく消滅した。


 ナオコとカオリとエミとサトリが鳩首して、何やら密談している。選別棟内では良くも悪くも平等で、全員一女工に過ぎなかったけれど、ひとたび人間社会に戻ると、こうしてそれぞれの能力適性に応じて各自の役割が生まれてくる。


 わたしも頑張らなきゃ。お店で料理を覚えよう。休みの日は孤児院の厨房を手伝える。できることが増えれば、きっと人生は前よりずっと良くなるはず。


 絶対幸せになってやる。いまはもういない家族のためにも。

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