表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
44/75

43.クロ

 相原クロエは勉強熱心だった。


 今日も山中家の一日が始まる。山中家で一番の早起きはタカオおじさんだ。毎朝6:30に日課の散歩に出かける。ドアの開閉音を合図にタマエおばさんも起床し、朝食の支度に取り掛かる。


 山中家の朝食はAM7:30。必ず白米と卵と魚と味噌汁が食卓に上る。県の名産品である納豆好きは、山中家においてはナオコのみであった。ので、自分のお金で購入して、食卓の隅で申し訳なさそうにまぜまぜしている姿が見ようによっては切ない。匂いと粘り気がきついため、食器洗いとゴミ処理は、自然と「茨城の女帝」が担当するようになっていた。


 8時過ぎには全員が出発する。タカオおじさんは会社へ、ナオコは中学校へ、タマエおばさんとシロとクロは軽自動車で孤児院へ。


 孤児院では現在、クロが小3~4クラス、シロが小5~6クラスに在籍している。中でもクロの勉強の進捗は特に速かった。実はシロの意識と記憶をところどころ拝借しているので、新しい課題への理解が速いのも当然であった。


 シロはシロで、先生の思考を読んで容易に答えにたどり着けるために、成績は群を抜いてよかった。実質、教科書を開いてテストを受けているようなものだ。孤児院の方針では点数よりも理解を深めることを重視しているので、教科書はしまわせるが、ノートの閲覧は認めていた。ノートに書いた情報は暗記していなくてもその子のものだという考えに基づいている。


 以前はふたりとも、テスト用紙には便宜上、山中クロ、山中シロと記載していたが、ナオコと義姉妹になってからは堂々と相原姓を名乗るようになった。無国籍無戸籍で、たとえ国から存在を認められていなくても、クロは相原クロエであり、シロは相原シロナなのであった。


 孤児院にはカオリたち元女囚がいた。外に働きに出ている者も休日には戻ってきた。中学高校クラスの勉強を見るために、近くの大学から交代でボランティアが来てくれるようになっていた。


 シロとクロは午前の授業を終えると院を後にした。近頃では、大学の学食で佐伯ケンジらと昼食をいただくのが日課になっていた。一見、近所の子供たちが遊びに来ているようだが、その実、学生と学者ひとりひとりの心底を見極めているのだった。


 華族家・士族家の子女でも現状に疑問を抱く者がいる一方で、平民学生の中にも政権のプロパガンダを真に受けて令和帝国の諸制度を称賛している者が稀に存在していた。彼らに共通して言えることは、男性で、友人が少なく、兵器と戦記物に異常な執着を示し、民主主義者を蔑視することで己を模範的な愛国者だと勘違いしていた。ファシズム政権とともに権力を握った気分に浸れるのだろう。


 抵抗運動の参加者の中にも、そうした自称愛国者が若干名潜伏していて、「帝権に逆らうアカども」を密告しようと手ぐすねを引いていた。シロとクロの能力は、そうした者を特定する上で欠かせなかった。彼らは子供にして女性でもあるシロとクロを見て、必ず暴力的性的な衝動を胸に抱いていた。差別と暴力こそが、彼らのアイデンティティを形成する上で欠かせない二大支柱なのであった。


 もちろん、そうした連中は学内地域内から速やかに消去されるのだが、数名だけは処置を講じずに、あえて泳がせていた。重要なタイミングで虚偽の情報をリークして、体制側をミスリードさせるためである。いずれそうなることを見越して、彼らには「狼少年」というコードネームが付与されていた。


 午後はナオコが迎えに来て、都心へお仕事に向かう。電車では何かと不都合が多かったので、数日前から白黒団のメンバーに交代で車を出してもらっていた。常磐道から首都高へ。仮眠した方が共感覚の精度が高まる経験則に基づいて、行きは3人で寄り添って昼寝した。


 今日は池袋の会社を2か所回り、他業種他社との業務提携ネタを掴んだあとで水族館へいった。アシカのパフォーマンスには間に合わなかったが、ペンギンたちのダイビングは観賞できた。近頃、表情が厳しく、眉間にしわが寄りがちなお姉ちゃんも、ひさしぶりに柔らかい笑顔を見せてくれた。かわいいペンギンを見れたことよりも、クロはナオコの笑顔が嬉しかった。


 帰りは得た情報を紙に書いて話し合う。シロと得た情報に差異が生じることも多い。同じ人物でも途中で気が変わることもあり、また、その人の思惟のどの部分を追うかによっても微妙な違いが出ることがあり得るのである。


 その現象をクロはこう例えた。


「ナオコお姉ちゃんは前から見ても後ろから見てもエッチだけど、前と後ろで印象が変わっちゃう人のほうが世の中には多いんだよぉ」


 夕食のあとは本来、午後に学ぶはずだった科目の自習をする。クロもシロも、ナオコお姉ちゃんの側で勉強するこの時間が大好きだった。ふたりで連携しつつ、ナオコの勉強をあまり邪魔しない範囲でたくさん甘えるのだった。


 そして夜である。共感覚能力のトレーニングを兼ねて、シロとクロは毎晩イチャイチャしていた。互いの意識を共有しながら行うそれは、特別な感覚を解放せずに行う時の何倍も楽しかった。


 ナオコはその様子を眺めながらひとりで楽しんでいる。ナオコの思惟に浮かぶNTRは何の略称なのかよくわからないけど、満更でもなさそうなのでシロとクロもうれしい気持ちになる。


 きっとお姉ちゃんは変態さんなんだな、ってクロは思う。そんなお姉ちゃんが大好きなクロは、大変態なのかも。もう大変だよぉ。


 クロ、もっともっといっぱい勉強してお姉ちゃんを楽しませてあげるね。


 お姉ちゃん、だーいすき♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ