40.リカ
おおたリカは恋をしていた。
4か月前、千葉栄町の違法風俗店「ぷりてぃ~ぷるるん」の看板商品「み~な」であった彼女は、その場にいない女の子の不思議な声を聞いた。最初は隣のプレイルームの声が漏れているのかと思ったが、違った。暗い部屋とすぐ叩く店長と強引なお客さまだけがこの世の全てではないことを、世界は女の子のためにあるんだということを教えてくれる声だった。もうすぐ迎えが来るから待っていて。
お迎えは本当に来た。覆面をした若い男性数名がリカたちがいる奥の寮まで入ってきて、お外へ連れ出してくれた。いつもは怖い店員のひとたちは、廊下と入り口でぐったりと横たわっていた。すたんがんとさいみんすぷれーとしめわざで落としたって、車の中でお兄さんたちが自慢してた。覆面を取ると、みんなお店のお客たちよりイケメンで、なにより優しかった。とりあえずアメちゃんをくれた。すごく甘くて、ちょっぴりすっぱかった。
孤児院はごはんがとってもおいしかった。いつもあたたかくて、いろんな味がした。お店には1500円のレトルトカレー、1500円のレトルトごはん、2000円のカップめんしかなかった。一か月後には、レトルトカレーは買えなくなった。お店がカレーくさくなっちゃうから不評だって言ってた。かわりに牛丼の具と中華丼の具が入ったけど3000円だったから、お客さんをたくさん相手にしないとなかなか買えなかった。
リカはいま、手紙を書いている。孤児院を財政的に支える支援者の方々に、ありがとうの気持ちを伝えるためだ。
(おにいさんおねえさん、いつもありがとうございます。
リカはきのうはちきんかつどんととんじるをたべました。
きょうはあいうえおのかきとりをしました。
100てんをとれました。
あしたからさんすうをならいます。がんばります)
書いた手紙は授業で作った焼き菓子と一緒に送られる。今回のお菓子は、ジンジャーを練り込みゴマをまぶした日持ちのするタイプだ。送り先が最初のころと比べると数倍に増えたので、手元に届くまでに数日かかっても平気なように調理法が変わった。甘さも控えめな方が、おとなには喜ばれるようだ。
手で文字を書いた手紙が、いちばん気持ちが伝わるって先生たちが言っていた。じゃあ、リカが書いた手紙を読めば、カオリお姉ちゃんもリカともっと仲良くなってくれるのかな。
リカは便せんをもう一枚取り出した。
無資格の駆け出し保育士カオリは困っていた。
原因は、自室の机の上に置かれていた手紙である。文中にはこうある。
(カオリおねえちゃんへ
リカのきもちをつたえたくておてがみをかきました。
リカはカオリおねえちゃんがだいすきです。
えほんにでてくるおうじさまみたいで、かっこいいからです。
リカはまいにちカオリおねえちゃんのことをかんがえています。
おねえちゃんとけっこんできたら、
きっとまいにちしあわせだとおもいます。
いつかリカとけっこんしてほしいです。
リカより)
翌日、カオリはさらに困っていた。
勤務と授業を終えて部屋に帰ってくると、また手紙が机に置かれていた。今度は人参も置かれている。
(カオリおねえちゃんへ
リカはおねえちゃんがだいすきです。
エミおねえちゃんよりもたくさんだいすきです。
だからエミおねえちゃんよりリカとあそんでください。
やさいきらいなリカにてでたべさせてくれたおねえちゃんに、
おかえしににんじんをあげます。
おいもほりのとき、なぜかリカだけにんじんがほれました。
だいじなにんじんだけどおねえちゃんにあげます。
リカだとおもってたべてください。
リカより)




