表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
40/75

39.大学

 大学教授、吉村(いつき)は驚いていた。


 吉村は、学園都市の中心部に位置する大学の学食で、あるふたりの少女たちと出会った。自分の講座を受講している生徒である佐伯ケンジ君と一緒に、卓を囲んでラーメンを食べていたのである。


 自分の生徒に一声かけていこうとしたところ、少女の片割れと目があった。なぜかこっちを見てニコニコ笑っている。笑いながら、麺をすする隣の佐伯君の袖をクイクイ引っ張って注意を引いた。吉村から目を離さずに言う。


「ケンジくん、この人だいじょうぶだよ。間違いないよ」

「うん、そうだろうね。知ってたよ、講義を受けてるから。話し方、生徒との接し方、授業の進め方で大体はね」


 佐伯君は食事を中断して立ち上がった。


「いつき先生、先生もお昼ですよね。よければ相席しませんか?」

「うん、そうさせてもらおうか。しかし残念だな、もう少し早ければおごってあげられたのにな」

「いまからでも遅くないですよ。皿うどんと迷っていたので、三人でシェアすればなんとか。ゴチになります!」

「ゴチになりまーす!」x2

「こりゃ藪蛇だったな。君はもう一人前いけるだろ。食べながら待ってなさい」


 吉村は自分の分を含めて皿うどんを3つ注文した。


 吉村は、目の前で旺盛な食欲を示す男子大学生と少女二人を等分に眺めてから、聞いた。


「で、どっちが佐伯君の彼女かね? それとも両方か? いずれにせよ犯罪だな。通報するとしよう」


 ケンジは気管に入ってしまったうどんの断片を吐き出すべく、激しくせき込んだ。女の子はふたりとも、いと楽し気に笑っている。この子たちは物おじせず、胆力があるようだ。一考察の余地があるな。


「ち、違いますよ。親戚の子たち・・・・・・そう、姪です。上の兄の娘たちです」

「ケンジくんの~、しんせき? のシロナでーす」

「ケンジくんの~、めい? のクロエでーす」

「何で二人とも疑問符かな」

「わかったわかった。そういうことにしておくから心配するな」

「先生、ちょっとしつこいです」


 それからしばらくの間、ケンジが手伝っているという孤児院でのボランティア活動についての話を聞いた。吉村が教えている教育臨床学上においても興味深い。なぜか地元の学校に通わず、院内で授業を行っているという点が引っかかるが、ケンジもふたりの少女もその点に頓着する様子が全くない。


 吉村は少女ふたりから片時も目を離さずにいた。そのまま観察しながら言う。


「で、明らかに常人とは違う君たちは、いったい何者かね?」


 一瞬、うろたえたケンジとは対照的に、少女たちはまったく動じる風が無い。やはりそうだ。この子たちは、吉村が喋る前に、その発言を先に知って、理解している!


「そうだよ、吉村先生。わたしたち、わかるんです。みんなが考えていることが」


 シロナがあっさり認めた。


「いままでの会話の中で、私の苗字は出ていなかったはずだが?」

「ごめんなさい、勝手に読んで知っちゃいました。ほんとはいけないことですよね」


 クロエが謝った。ケンジが気を取り直して、訊ねた。


「先生はどうしてわかったんですか、その、ふたりが他人の思考を読めることを」

「そりゃ簡単だ。私が話す前に、表情と目の色に反応が現れたからだよ。受け答えも、事前に用意していたかのように速く的確だ。じっさい用意していたんだな」


 吉村は水を一口飲んで喉を潤した。


「私は自分の発言に責任を持てるように心掛けて喋っている。実際に喋る前に、その発言の正否と、誤解曲解の余地が無いかどうかを、判定してから話すようにしているんだ。そのタイムラグの間に出る、ふたりの速過ぎる反応に違和感をもったんだよ」


 ふたりの少女がなぜか拍手して、ほめてくれる。吉村は苦笑した。


「ここ半年ほど、この辺りで奇妙な事件が頻発していることと、きっと無関係ではないだろうな。いまや日本中で猛威を振るっている憂国自警団が、ここらでは鳴りを潜めてしまったり、小中学校から修身の教諭が病気療養中または行方不明になっている件だよ。隣組制度を悪用していた地主一家が不幸な事故にあったケースも、ひょっとすると君たちの摩訶不思議な才能とかかわりがあるかもしれない」


 吉村はふたりにウインクした。クロエが挙手した。


「はいはーい。クロね、プリンがいい」

「えー、シロはアイスが食べたいなー」

「はっはっは、じゃあ両方買ってあげよう。迷ったら両方だ」

「わーい。先生ありがとう~!」x2


 吉村の思考を読んで行われる会話に、ケンジは完全に置いてけぼりであった。プリン? アイス? つまり、ごほうびってことか!?


「ケンジくん、あったり~♪」x2


 その後、女子中学生がふたりを迎えに来た。どうやら茨城の女帝のお出ましのようだ。都市伝説の類かと疑っていたが、彼女の瞳を見て確信に変わった。ふたりの少女の誇らしげな態度も全てを物語っている。


「佐伯君は付いていかないのか?」

「今日は午後も講義があるんですよ。それに、いつも非番の警官か体育会系の学生がそれとなく護衛してますから安心ですよ。非力な僕より頼りになります」

「私には隠さないのかね、その・・・・・・君たちの組織のことを?」

「シロちゃんとクロちゃん風に言えば、もうおともだちですよ。ひょっとしてご迷惑でしたか?」

「いや全然。そうか、速すぎる組織化にはああいう理由があったのか。納得だ。いや実に興味深い。だが、あの子たちを詳しく調べるのは無粋だろうな。特異な環境下で生じた脳の変異か。はてまた神の見えざる手によるものか」

「僕は後者を推しますね。理由は、そのほうがカッコイイからです。さてと、そろそろ5限ですね。皿うどん、ごちそうさまでした」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ