32.桃園の誓い
クロとシロは、自分の誕生日を知らなかった。
冬の木枯らしが肌を刺す12月、タマエおばさんがナオコに内緒でシロとクロを集めた。目的は、ナオコの誕生日をサプライズで祝うためである。
当日、ナオコたちは学校と孤児院の授業を午前中に切り上げて、渋谷の商業ビルに侵入。あるIT企業が衣料品通販サイトを子会社化する計画を掴んだ。ついでに違法風俗店を2軒偵察してから、おいしいハンバーグのお店で遅めの昼食をとった。シロとクロはともかく150gではナオコには物足りなかったが、なぜかふたりに追加を止められてしまった。美少女は太らないのに。
まだ時間があるので、ナオコは神保町の大手出版社の動向も探るつもりでいたが、シロとクロは珍しくむずかった。久しぶりに遊びたいとねだる二人に絆されて、ナオコはその日のお仕事を切り上げることにした。
メールで今日の潜入中止を連絡してから、そのまま渋谷の歓楽街に繰り出した。
結論から言うと、すごく楽しかった。さすが若者の街だった。ありとあらゆる面白いもので溢れている。贅沢はシロとクロへの教育上好ましくない気がして、ひとり1万円まで(税込み)の制限付きで買い物を許可したが、ふたりとも結局、どれを買うか決められなくなってしまった。選択肢が多すぎるのも考えものね。
それにしても、制服姿のナオコをナンパしてくる、いまどきのチャラ男たちには閉口した。都条例が怖くないのかしら。つーか、子連れと気付いた時点で遠慮しろっつーの。
18:00以降は遊べないところが出てくるし、そろそろ帰らなきゃ。反社風俗や国営企業にケンカを売るアウトローにも、守るべき仁義はやっぱりあるんである。
「ナオコちゃん、お誕生日、おめでとう~」x2
夜8時の夕飯に間に合うように山中家へ帰宅したナオコたちは、山中夫妻の打ち鳴らすクラッカーで盛大に迎えられてしまった。え、あたし、誕生日だったの!? てことは15歳!!
シロとクロがナオコの両腕を掴んでぐいぐい居間に引っ張っていく。ちゃぶ台の真ん中には大きなデコレーションケーキ様が鎮座ましましていた。ろうそくの太いの1本と細いの5本が刺さっている。
どうしよう、うれしい・・・・・・うれしいよぉ。お尋ね者で親戚とも接触できず、天涯孤独だと思っていた自分に、まさか誕生日を祝ってくれる人がいたなんて。
「あれーお姉ちゃん泣いてる~?(笑)」
「ナオ姉、照れてる~照れてる~。か~わいい~(笑)」
シロとクロに冷やかされた。あとで覚えてなさいよ。
宴もたけなわである。ケーキとごちそうとちょっとしたお祝いの品々に、すっかり満足したナオコは、シロとクロに聞いた。
「はーおいしかった。誕生日っていいねー。次はシロとクロ、どっちの誕生日が先?」
シロとクロは顔を見合わせた。それから顔を伏せてしまった。悲しそうに切なそうに。
物心ついた頃にはもう収容所にいたクロは、自分の誕生日を知らなかった。シロはうんと小さいころに母親に祝ってもらった記憶はあるものの、それがいつなのかは思い出せない。その後、小学校に上がる前にシロの家庭は困窮し、日常的にDVを受けるようになってしまった。心的外傷を伴う記憶は無理に掘り出さないほうがよさそうだった。
山中のおじさんが解決策を提案してくれた。今日からシロとクロの誕生日もナオコと一緒にしてしまえばいい。つまり、今日が二人の推定11歳の誕生日だ。
三国志マニアのおじさんは、劉備、関羽、張飛という三人の義兄弟の話をしてくれた。我等生まれた日は違えども、願わくば同年同月同日に死なん。浪曲好きでもあるおじさんの講話は、声の振り幅が大きすぎて正直、よくわからなかったけど。
よし、だったら・・・・・・。
「ねえ、クロ、シロ。わたしたち、家族になっちゃおうか?」
「え、それってプロポーズ!? お姉ちゃん大胆すぎるよぉ」
「あのね、シロね、まだ心の準備が・・・・・・。でも強引なのもいいかも~」
・・・・・・うん、まあ、それでもいいよ。
おばさんがクリスマス用に買っておいたシャンメリーロゼで乾杯した。
「わたしたち、相原ナオコと」
「相原クロエと」
「相原シロナは」
「生まれた日は違ったけど、これから誕生日はみんな同じとし~」
「同じとし~」x2
「願わくば、同年同月同日に死んで~」
「死んで~」x2
「来世は同じママのお腹から生まれることを願い~」
「願い~」x2
「なんかもう姉妹揃って未来永劫、幸せに仲睦まじく暮らすことを、ここにぃ~」
「誓 い ま す !」x3
これが世にいう「白黒団の三姉妹の誓い」の一部始終であった。
翌日、登校したナオコはクラスメートと親衛隊に取り囲まれた。みんな責めるような態度である。え、どういうこと? あたし、何かしたっけ?
野球で大活躍したサナエがプリプリ怒りながら、きれいに包装された何かを差し出していった。
「ナオちん、すぐ帰っちゃったから、これ渡せなかったじゃん・・・・・・もう昨日だけど、お誕生日おめでと」
「おめでとー」x∞
みんなが順番にプレゼントをくれて、男子とは握手を、女子とはハグをしまくった。もう授業開始の時間過ぎてるのに、先生まで気を遣って廊下で待っていてくれてる・・・・・・!
まったく、誕生日は最高だぜ。




