31.白黒団
学園の女王ナオコは、中学生生活を満喫していた。
ナオコは、一学年後輩と一緒に授業を受けていた。収容所生活による遅れを取り戻すためである。校長も教師たちも認めてくれている。それは、あの事件の時に、彼女を守れなかったことへの贖罪でもあった。
正直言って学校に通うことに抵抗はあった。何しろ、全校生徒が彼女のあられもない姿を知っているのである。思春期の男子たちは、ナオコの写真を大いに楽しんだことだろう。高橋は扇情的な撮影にかけては一廉の腕を持っていたと言える。
今日も後輩たちのクスクス笑いとひそひそ話が聞こえる。はやく遅れを取り戻して、同級生といっしょのクラスに戻りたかった。留年するとこんな感じなんだな、と思う。「さん」付けの腫れもの扱いは結構、精神的にこたえる。
背中をツンツン突かれて、後ろの席の生徒から折りたたまれたピンク色のメモ用紙が回ってきた。キャラ物のかわいい感じがいかにも女子からっぽい。
「(ナオコお姉さまと友達以上の関係になりたいです♪ あなたのユミより)」
どうやらナオコを注目しているのは男子だけではないようだった。
修身の時間になった。ナオコの学校では、なぜかいつも自習である。なので、実質的にはレクリエーションの時間になっていた。
「ナオコさまぁ~、いっしょにUNYOやりませんかー?」
「いや、だから、『さま』付けもやめてって言ったよね?」
「きゃーこわーい。お許しくださいませ、ナオコさまぁ~」
「ナオコさまー、この子の『許して』はフリだから。『イジメて』って意味なの。かわいがってあげてー、悦ぶから」
「ちょっと、人をドM扱いしないでくれる? あ、でもナオコさまとなら、目覚めてもいいかも・・・・・・♡」
ナオコの「さん」付けいらない宣言は、「さま」付けのトリガーになってしまった。なんだかなーである。
「いえーい、一抜け~!」
「あー、ナオコさま『うにょ』って言ってな~い。はい2枚とってー」
昼休みはかつての同級生とお弁当を広げた。クロの箸使いがだいぶ様になってきたので、一緒のごはんは朝食と夕食だけになった。ほんとは全食いっしょがいいんだけど。クロの咀嚼姿は小動物みたいでほんとうに愛らしい。
いちおう級友とは、学校とその周辺に怪しい奴がうろついていないかなど、実際的な会話をする。
級友たちは反体制組織への加入を望んだが、ナオコは断った。なんといっても、みんなまだ中学生だった。孤児院への慰問品とカンパは受け取ったが、招待はしなかった。たとえ善意でも所在地を吹聴して回られては困るからだ。
ナオコの学内親衛隊を自認する男子、コウタが素朴な疑問を呈した。
「今はダメでもさ、せめて高校に上がったら、何か少しでも手伝わせてくれよ。その~え~と、組織の名前なんだっけ?」
そういえば無い。みんな何となく「(反体制)組織」「(抵抗)団体」「ナオコちゃんズ」と、それぞれ勝手に呼びならわして、特に問題なくやってきた。個々人の行動が偶然一致して、華士族反社にちょっと都合の悪いことになっちゃったという態を装う意味では都合がいいが、そろそろ一つの名前に統一するべきかもしれない。求心力を高める意味でも。
自分の名前はさすがに気恥ずかしい。大仰なのもダメだ。体制側を笑えなくなってしまう。あたし、そもそも何のために、いまこうしてるんだっけ?
「『白黒団』! しろくろだんよ。今決めた。私たちは白黒団。これから日本を、ううん、世界に白黒つけてやる」




