2.シロ
娼妓少女シロの夜は遅い。
メガロポリス東京の一大歓楽街である新宿には、無数の娼館が軒を連ねている。顧客の需要に応じて様々な年齢・性別・人種の「商品」が提供されており、若年層は特に需要が高い。そのまま買い取って持ち帰る富裕層が多く、供給不足が大日本令和帝国の「社会問題」として松下村会議の議題にのぼるほどである。
シロはまだ排卵が無いことから、10歳前後と推定されている。人気の高い層ではあるものの、供給量が上回るため、容姿と技術において優れていないと回転率の高い商品にはなりえない。シロは平民の両親から売られてきたばかりであり、容姿に目立った特徴もないため、大口株を保有しない貧乏士族向けの安店舗に放り込まれた。
シロは今夜も舞台に立つ。水着を着て、音楽に合わせて身体を揺らす。華族や上級士族向けの店では、派手な踊りや嫋やかな歌などが披露されるが、シロの店では精々、客の求めに応じて目の前でくるくる回ってみせるか、気のないセクシーポーズを披露する程度である。ショータイム自体も短い。「貧乏人ほど楽しみを急ぐ」という、偉大な名宰相にして帝国の元勲たる安藤太郎閣下の「金言」の通りであった。
ショーが終わると、オークションが始まる。セリで最も高値を付けた客がプレイルームでの「指導権」を得る。御立派な年長者様が幼少を教え導くという儒教的な建前に基づいて、そう呼ばれている。
入札の無い商品はワゴンセールに回される。今夜のシロには入札が無かった。セリに負けた客と、もともと持ち合わせが乏しい客が、ここで日ごろの鬱憤を晴らす相手を見繕う。
シロを買った客は乱暴だった。頭を掴んだり、お尻を平手で打擲して、折檻ごっこを楽しんだ。
客は太郎閣下の熱心な信奉者だった。だからでもないだろうが、わずか5分間ほどの指圧で満足してしまったようだ。客は元気があり余っているのか、シロのぎこちない手つきと反応の鈍さを叱りつけ、長い説教に及んだのであった。
景気の悪化に伴い、ワゴンセールに群がる客は多かった。乱暴な客が帰ると、すぐに横柄な客がシロのサービスを楽しみ始めた。