27.エミ
エミは家族と友達と「彼氏」に会いたくて、たまらなかった。
温泉旅館で一泊した脱獄女囚の御一行様は、チャーターしたバスに乗って茨城県へ向かっていた。
温泉は素晴らしかった。あんまり気持ち良すぎて、露天風呂に浸かりながら、我知らずエッチな想像をして萌え萌えクネクネしてしまった。一般客の前で。長い収容生活ですっかり人目を気にしない癖がついてしまったようだ。余談だが、エミの痴女っぽい行為は、「○○温泉には変態猿が出没する」という都市伝説になって、およそ50万人の知るところとなった。
道中、ナオコと話し合った。誰かが家族や友達と接触すると、そこから辿られて捜査の手が及ぶ危険があると言い聞かされた。それとなく安否を確かめることと、こちらの所在を特定されない方法での電話 (北海道の基地局を経由)、または手紙 (遠隔地のポストに投函)で連絡を取ること以外は遠慮してほしい、とのことだった。
誰が密告するかわからない。本来なら連絡を取ること自体が、組織全体を危険にさらす行為だ。どのみち学校には通えないし、家にいれば家族を逃亡ほう助の罪で連座させてしまうかもしれない。
ナオコは中学校に通っているが、親衛隊とともに敵対教師を殲滅した上で、全教師全生徒の黙認あってのことだ。正式な単位と卒業証書はもらえない。それでも学ぶことと級友との交流に意義を見出してはいるが、一抹の寂しさは否めなかった。
自分たちの事を片時も忘れず、こうして救出してくれたナオコたちには感謝している。それでも言わずにはいられないエミであった。
「じゃあさ、家にも帰れない、誰とも会えない話せないで、矯正施設を出てきた意味ってあるのかな? ただお尋ね者になっただけじゃない?」
「選択肢はいくつか用意してあげられるよ。まず、孤児院で働いて下の子たちの面倒を見ること。ちゃんとお給料も払えるし、行動に気をつけてさえくれれば、外に出て遊んだり買い物することだってできる。
あとは支援者さんが経営する町工場と飲食店。それと畑ね。子供の相手が苦手なら、大人と働くほうがいいでしょ。ただ、雇用保険、健康保険、厚生年金には加入できないから、対外的には物件費から現金支給のアルバイト従業員ということになる。税金と社会保障費は取られないけど、公的なサービスは諦めて。
いずれにせよ、健康には気を使った方がいいわ。通院入院で足がつくから、大きなケガや病気をしたら命の保証はできないよ。こっそり診てくれるお医者さんはいるけど、大掛かりな設備や高価な薬が必要になったら手の施しようが無くなっちゃうと思う」
ナオコの声は大きい。車内の全員に聞かせるためだ。エミが食い下がる。
「だったら、施設で勤め上げて釈放されたほうがよかったじゃん。ナオコはいいよ、地元じゃ女王様みたいだしね。でもうちらは一生、家族とダチのいるところに帰れなくなった。これってひどくない、ねえ?」
場に不穏な空気が流れた。カオリが沈黙を破った。
「エミの言いたいことはわかる。でも、施設を釈放されたやつなんて一人もいなかったじゃない。選別棟でも、隣の検品棟でも。エミだって1年で出てこられるって聞いてたけど、実際には3年以上ほったらかしだったよね?」
「そ、それは、きっと何かの手違いで・・・・・・ううん、あたしの態度が悪かったから延びてただけで・・・・・・」
「違うよ。だって、ふたりでクソ寒い冬を肌寄せ合って3回も越したじゃない! あたしだって、ほんとは女と寝るなんて嫌だった。でもやらなきゃ生きていけなかったから。発狂して壁に頭ぶつけて死んだ先輩いたよね。エミが入ってくる前の日、あたしあいつに犯されたんだよ!
エミは気づいてなかったけど、あいつエミも狙ってたんだ。だからあたしがあいつに草をたっぷりやらせて、へべれけにしてから壁に何度もぶつけてやったの! あたしが殺したの! でなきゃエミが犯られてたから!
矯正施設はあたしたちを人間と見做してない。取り換えの利く部品扱いで、壊れたら補充すればいいと思ってるの。だからあたしは許されたの! 労働力としてまだ使えるから。どうせ無期懲役だから。施設で働く以上の罰がこの世にないからだよ。わかった?」
それから目的地に到着するまで、誰も口をきかなかった・・・・・・きけなかった。




