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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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25.カオリ

 奴隷女カオリはマンネリに苦しんでいた。


 変化のない日常の中で、彼女の精神は緩やかに、しかし確実に崩壊していった。どことも知らぬ場所で、毎日、同じ人間と同じ仕事、同じ食事、同じ遊び。彼女の誕生日は彼女が気付かない間に過ぎて、彼女は17歳になっていた。


 カオリは努力した。夢を紡ぐ草の選別棟で働く24人をまとめて、僅かな自由時間の中で、彼女たちが自由にできる物と空間を最大限利用して、思いつく限りのレクリエーションを実行した。水とボロ切れだけを使って、食堂と寝床の大掃除さえした。


 それらの効果は一時的だった。日を置かずして、集団は団結を解いて烏合の衆と化す。原因は、何をしても何を続けても手ごたえが無く、報酬もなく、形として残る物が無かったことによる。単純操作の繰り返しに過ぎないスマートフォン向けソーシャルゲームも、手駒の成長と累積記録が残るからこそ、多くのユーザーが飽きもせず遊び続けるのだ。彼女たちにはそれがなかった。


 カオリたちは、夢を紡ぐ草の端切れを盗み、乾燥させたものを噛んで憂さを晴らした。葉を噛めば苦痛も疲労も消え、楽しい気分に浸れた。製品にならないB級品以下の草である限り、監督官も見て見ぬふりをしていた。むしろ仕事の能率が上がり、反抗心も消えて扱いやすくなるからだ。


「カオたん、ちょっと量が多すぎな~い? 明日に響くよ」


 服用量が増える一方のカオリを見かねたエミが、やんわり言い聞かせる。健康被害はともかく、脳が慢性的に強い快楽にさらされてしまうと、確実に中毒患者に堕ちてしまう。カオリは踏みとどまるべきだと、エミは思った。


 カオリはエミの手を握った。


「教えてよエミ。あたしたち、いつかここから出られるかな」


 もう何度目かわからない質問であった。


「さあねえ。たぶん、死ねば出られるよ。あとは・・・・・・そうねえ、重篤な感染症なら隔離されるんじゃない? ジカ熱とか、エボラとか」


 病名だけを入れ替えて同じ返事を返すエミ。


「(明日はデング熱とマラリアにしよう)」


 翌日もカオリはエミに同じ質問をし、エミも同じ答えを返した。


 ナオコとクロの脱獄は、朝の始業時に発覚した。


 カオリたちは、厳しい詮議と罰を覚悟していたものの、意外なほど処分は軽く済んだ。裏口の扉の鍵はカードキータイプに替えられたが。


 欠員を埋め合わせるように新入りがふたり入所した。うちひとりがおしゃべりな監督官から聞いた話では、「選別棟に死人が出たからそこに入れてやる。楽な仕事でお前はラッキーだ」とのことだった。どうやら監督官どもは、前例のない不祥事を無かったことにしたようだ。子供ふたりが外に出たところで、何もできずに野垂れ死ぬだろうと高をくくったらしい。


 新入りはどちらもノンケの処女だった。おしりを触ったり、耳に息を吹きかけると、反応が新鮮で面白かった。そのうち吊り橋効果も手伝って、ふたりであれこれし始めるだろう。どうせ他にやることが無いし。そうなる過程を楽しむために、手出し無用の淑女協定が結ばれていた。


 だが、新入りの初々しい百合百合ショーは、とうぶんお預けになった。


 真夜中の0時過ぎ、夢を紡ぐ草の納品に訪れたはずの大型トラックが、別のものも吐き出した。全身黒ずくめの、覆面をした男女である。彼らは外側からは誰でも開けられる選別棟のドアから侵入した。覆面の女が迷わず女囚たちの寝床を探り当て、大声を張り上げる。


「みんなー起きろー起きろー起きろ~。さあ遠足に出発よー。寝よだれ拭いてパンツをはきな」


 寝耳に水の奇襲に驚くカオリたち。しかし、その懐かしい声に、即座に跳ね起きて出口へ向かう。何が何だかわからずに逡巡する新入りふたりの尻を、カオリとエミが蹴とばした。


「ほら、早く起きて。いいから駆け足!」


 扉を抑えている男性が女囚たちに声をかける。


「表のトラックの荷台に乗り込んで。時間が無いから急いで!」


 荷台には、草の匂いの残滓とともに、ふたりの幼女が待っていた。一番奥にあるコンテナBOXから何かを掴みだして、振り回している。


「お姉ちゃんたち~こっち来て~。牛乳とあんぱんがあるよー」

「ひとり一つづつだよー。2回もらおうとしてもダメだからねー」


 水以外の飲料と甘味だ。我先にと殺到する女囚たちに、幼女たちはちょっと怯えたようだった。カオリ、新入り、エミ、覆面女性の順に荷台に乗り込んだところでドアが閉められた。男性は助手席のようだ。トラックはすぐに動き出した。


 女囚たちを叩き起こした女が覆面を取った。ナオコだ。カオリが飛びついて抱きしめた。


「やっぱりあんただったんだね。てことはクロたんの隣のそっくりさんはシロちゃんだよね。ほんとに救い出したんだ。やるじゃん」

「やるでしょ。その辺の話は到着先でゆっくりするとして、まずパン食っちゃいなよ。甘いよーちょー甘いよー」


 最後のパンと牛乳をクロから受け取ったエミが聞く。


「ねーナオっち。助けてくれたのはすっごくありがとうだけどさ。なんであんぱんなん?」

「あたしとクロの思い出の味でゲン担ぎだから。これ食べてシロを助けたの。先に今後のことを話しておくね。このトラックを農場へ返す前に、近くの温泉地に寄りまーす。それまでに、用意した服に着替えてねー。そんで、温泉に浸かって、ごちそうを食べて一泊してから、東関東にある秘密の孤児院へ移動します。いろいろやってもらいたいこともあるしね」


 と説明している間に、クロは他の女囚たちにもみくちゃにされていた。


 クロの意識で彼女たちと楽しんだシロもニコニコしている。

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