22.ナオコ
ナオコは資金集めに苦慮していた。
シロのアイデアはいい線いってた。お金を扱う人物の考えさえ読めれば、そのバイアスに乗じて儲けることは、さして困難ではない。まずは種銭を作ろう。
山中のおじさんをはじめとする、信用取引可能な大人の協力者をリストアップした。人数は300人。それぞれ証券会社に口座を開いてもらった。株取引でバリバリ稼ごう。さいわい令和帝国は株主にやさしい。売却益と配当にかかる税金は世界一の低水準を実現している。何も華士族様だけに美味しい思いをさせておく手はない。
ナオコはクロとシロを伴って、東京都心の各地を巡った。協力者が警備員・清掃員・配達員として潜り込んだ商業ビルに潜入し、可能な限り上層部の思惟を探った。意外なところでは、行列のできる冷たい肉そば屋さんのお客さんから、かなりおいしい情報が得られた。もちろん一緒に並んで、三人でラー油の利いたつけ汁と肉ネギのりが載ったお蕎麦に舌鼓を打った。こちらもおいしかった。
シロとクロの知識を増やす良い勉強場にもなった。得た情報はなるべく紙に文字で書かせた。特にクロは、習いたての字を実際に使う機会を得て、遅れがちだった読み書きのいい練習になった。いよいよ足し算引き算に挑戦するときがきたようね。シロにも採点と解説を手伝ってもらおう。
調べ上げた情報はすぐにフィードバックした。新商品ネタはスタグフレーションの日本ではほぼ外れたが、企業の合併・買収ネタでかなり儲かった。交渉の決裂等で話が立ち消えてしまい、当てが外れることもあったが、10件中8件は当たり、そのうち4件は大当たりを記録した。一人平均100万の元手が、3か月あまりで1000万に達した。
売却益から月極めの情報料として50%を納めてもらうことで(支払い完了まで新情報は流さない)、組織は格段に強化された。孤児院の規模も3県にまたがる6軒に拡大できた。株式運用部隊の原資もすでに5倍。今後はさらに利幅が増えるだろう。
また、協議の結果、リスクを分散するため、ファンド化は見送ることにした。個人個人で運用してもらった方が、性的搾取に苦しんだ女児たちを自分の稼ぎで救っているという実感が湧きやすい。善意の寄付金のお礼として、定期的に孤児たちの直筆の手紙と手作りのクッキーを贈るようにした。孤児院で子供たちの食事や勉強の世話をしてくれている篤志のみなさんにも、大手塾講師に匹敵する額のお給料が出せるようになった。
短期間であまりにも儲け過ぎたので、どうやら証券取引委員会が疑いを抱いたようである。しかし、証券会社に登録されている部隊員の職業や係累からは、インサイダー取引に繋がるような事前情報の入手経路は見えてこない。極端に儲けている個人投資家同士の、横の繋がりも特にない。やがて委員会の関心は、某IT企業の粉飾決算疑惑に移っていった。
予算が増え、人員も武器も車も増えた。いよいよ大規模な作戦に打って出る時かもしれない。ナオコ、クロ、シロの脳裏から片時も離れたことがないあの場所。シロがいた始まりの店に。




