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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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21.シロ

 シロは「お姉ちゃん」な自分に気をよくしていた。


 ナオコたちが設立した秘密の孤児院において、シロは下から数えて3番目のクラスで学んでいた。学習内容は小学校3,4年生に相当する。具体的には掛け算割り算であり、車に分乗して行く遠くの公園での逆上がりでもあった。


 上級クラスには、下級生の面倒を見る時間が必ず組み込まれている。一緒に遊んだり、遅れている子の勉強をみたり、時には自身の復習も兼ねて授業を代行する。保護人数が200人を超えた現在、施設は4箇所に分かれていて、教師役を務める篤志家たちの手が回らないという切実な事情も、この制度を後押ししていた。


 シロは後輩の子たちがかわいくて仕方なかった。かつてのお店でも、お弁当のちくわの磯部揚げを分けてあげたり、簡単なメイクとヘアセット術を教えてあげたりと、小さい子の面倒を何くれとなくみてやっていた。特殊能力に頼らずとも、シロはちゃんと共感する想像力と人を思いやる善良な魂を備えていた。


「シロお姉ちゃん、算数ドリルできたよー。みてー」

「ちょっとぉ、シロお姉ちゃんはあたちと遊んでるの。じゃましないでー」


 年少組の生徒たちがシロを慕ってくれる。おじさんたちに奉仕をさせられていた頃のことをいまでも夢に見てしまうシロにとって、大切な時間である。きっとこの子たちにとっても、いまの一瞬一瞬がかけがえのない癒しになるだろう。ナオコお姉ちゃんの言う通り、世界は女の子の幸せのために存在するのだから。


「年長組の人~。お昼ご飯の用意するから、手伝ってちょうだい~」


 山中のおばさんが鍋蓋をお玉でガンガン叩きながら声をかける。シロも「あとでね」と子供たちに断ってから配膳室へ手伝いに赴いた。今日のお昼は和風スープカレーとソフト麺のようだ。近所の製麺屋さんが、小学校へ卸す分よりも余計に作ってこっそり横流ししてくれている。シロも大好きなメニューだった。


 でも、とシロは考えた。みんなのご飯代を捻出するだけでも、ナオコお姉ちゃんと大人たちが頭を悩ませていることをシロは知っていた。寄付とカンパに加えて、違法風俗店から巻き上げたお金を充当しているけど、どうしても出費が嵩んで財政は火の車だった。


 安定した収入源を得るべく、みんなが頑張っているのに、自分はたいして力になれない。クロが悩んだように、シロも自分の不足を嘆いていた。シロにも何かできることはないかな。


 孤児院では、お昼ご飯の間、TV視聴が許されている。大日本令和帝国の学校ではありえない待遇だ。一部の開明的な私立校を除いて、帝国の学校では、食事はまず教育勅語を唱和し、天皇陛下の御威光を称え、陛下のお恵みに感謝を捧げながら、米粒一つ残さずありがたく頂くのが慣例となっていた。私語も厳禁。ルールを破るか、たとえ体調不良でも食事を残すと、体罰を含む折檻が待っている。


 TVではオリンピックで活躍したボクサーのプロ転向を報じていた。たくましいお兄さんが、カメラに向かって力こぶを作り、白い歯をみせて笑っている。ボクシングかあ。痛そうで怖いな。お客さんの中にも、ボクシングのぷろもーたー?だという人がいたっけ。オレは地下とうぎじょうの賭けボクシングのどーもとなんだぜ、すごいだろう・・・・・・。


 シロは自分の携帯電話を取り出してナオコお姉ちゃんをコールした。


 翌日、ナオコとシロとクロは、東京都大田区の、とある巨大ジムを訪れていた。狙いは現金取っ払いで行われている賭けボクシングである。


 実はこの賭けボクシング、数試合に一回は確実に八百長が仕組まれていた。対戦オッズが不利になるボクサーが、始めは劣勢だが、徐々に盛り返し、奇跡の逆転勝利を収めるというパターンだ。胴元が寺銭だけではうま味が少ないため、負けてもらうボクサーにいくらか握らせて行う出来レースであった。


 シロとクロが、控室の選手と、特等席に居座る胴元の思惟を読んで、どちらが勝つかを調べ上げた。大柄でとても中学生には見えないナオコが、派手な服を着て成人の態でお金を賭ける。あとは一般客を装って黄色い声援を選手に送るだけ。セクシーでラッキーなお姉ちゃんの出来上がりだ。


 不自然に目立たないよう、八百長以外の試合にも適当に少額を賭けて、勝ったり負けたりした。ボクシングとたくましい男性が大好きな双子連れギャルは、東京、横浜、千葉に数か所存在する地下ボクシング界のちょっとした顔になった。


 一月後、ナオコがスマホのエクセルアプリを開いた。組織の主要メンバーの前で、賭けボクシングの収支を発表する。


「この一か月間で5か所の開催地を14回訪れて得た金額を発表しまーす。じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃーーーん。

 ななななーーんとぉ、150万とんで970円でした~」


 金額にピンとこないシロとクロを除いて、皆の口からため息が漏れる。期待したほどの金額ではなかったのだ。ナオコが詳しく解説した。


「JRAの勝ち馬投票券みたいに、賭ける人の人数と総額が大きければ、あまり不自然じゃなく大金を賭けられるけど、賭けボクシングじゃ多くて200人くらい。賭け総額が100万円程度。胴元の寺銭がリングの使用料その他を充当しているので、たぶん10%くらいね。こうなると、10万円以上買ってしまうとオッズが下がってうま味が無くなっちゃうから、八百長試合の賭け額は一回あたり5万円までとしました。

 それと一応、交通費と、このボディコン服とハイヒールの代金も収支から引いてあります。あたしの趣味じゃないし」


 定例の会議は終わった。賭けボクシングの臨時収入で、さしあたり今月の赤字は回避したものの、依然として新たな収入源は絶賛、募集中であった。シロはがっかりした。


「お姉ちゃん、ごめんね。シロのアイデアじゃうまくいかなかったよね。ごめんね」

「シロが一生懸命考えてくれたんでしょ。ありがと。ちゃんと儲かったから、大手柄だよ。しばらくはご飯にお肉を増やせるから、みんな喜ぶよーきっと」


 ナオ姉はやさしいな・・・・・・。シロ、もっともっと頑張って、いっぱいお金を稼いであげるね。


 ナオコはシロとクロの頭を撫でた。ふたりにお金の心配をさせるようではリーダー失格だ。抜本的な解決策をそろそろ示さなくては。

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