1.クロ
奴隷少女クロの朝は早い。
少女は未明に起床し、冷たい水で手と顔を洗い口をゆすいでから、作業着に着替える。洗濯されたことのない服は饐えた汗のにおいがする。肘と膝、尻には擦り切れによる破れ目がある。数か月前、より合わせた糸で監督官の首を絞めた奴隷がいたため、繕うことは許されていない。
工場に移動し、籠を背負って所定の持ち場につく。ベルトコンベアーは午前5時に自動的に稼働する。夜のうちに収穫されて届いた「夢を紡ぐ草」がダクトから吐き出されてくる。
奴隷たちは流れてくる草を手にとって選別する。先の枯れているもの、変色しているもの、折り目のあるものをみつけてはじく。折れてしまった草は、その箇所から酸化がすすんでしまい強い苦みを生じるので、品質を保つうえで極めて重要な工程となっている。
午前10時、ようやくラインが停止する。15分間の休憩である。水500mlのボトルと18gのたんぱく質を含む約600kcalの棒型糧食が配られる。作業着にポケットは無く、ボトルもその都度回収されてしまうため、残しておくことはできない。
けたたましくベルが鳴り、再びラインが動き出す。次の休憩は15時。再び同じものが配られる。稼働終了は20時30分。ここでも水と栄養棒の配給がある。
奴隷たちは寝床に戻る。私語は禁止されている。ただし、ボディランゲージはその限りではないため、大きな女が少女をかわいがり、あるいはマッサージさせる時間となる。完全消灯22時まで続く。クロは選別棟の主であるナオコの肩と手足を時間いっぱいまで揉み続けてから、ようやく自分の寝床に入った。
夢すら見ない熟睡。現実が不幸な者ほど幸福な夢を見るというが、クロには幸福という概念そのものが無かった。