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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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17.明日への扉

 ナオコは家族の冥福を祈った。


 シャワーと仮眠を済ませて階下に降りると、山中のおじさんも帰宅していた。夕食は、山中さんご夫妻と一緒に不思議な鍋をつついた。牛、豚、鶏肉と白身魚、ホタテ貝柱、エビが雑多に入っていて、スープも何味かよくわからないけれど、不思議と後を引く美味しさだった。


 まずい棒で育ったクロとは対照的に、のり弁当のシロは箸を器用に使えた。クロは自分だけ先割れスプーンなことを恥じたのか、あまり食が進まないようだった。クロに箸を教えること、ナオコは心のメモ帳に書き記す。


 食後、おばさんが押し入れの奥から衣装ケースを引っ張り出した。中から娘さんが子供のころ着ていた、よそ行きの服が出てきた。おじさんが全身鏡を持ってくる。つまりはシロとクロのファッションショーである。


「まあまあ、なんてかわいいんでしょう。くやしいけど、うちの娘よりも似合ってるわぁ」


 ナオコも全く同感だった。母から受け継いだばかりのスマホでさっそく写真を撮りまくる。その様子を見て、おじさんが「全裸監督みたいだぞ」といって笑った。水球部の監督さんのことかな?


 シロとクロを先に寝かしつけてから、ナオコは山中夫妻にふたりの出自を話した。人権の世界標準に背を向けてガラパゴス化を続ける令和帝国の現状を改めて知らされた夫妻は、驚きを通り越してあきれ果てたようだ。


「つまり政府は、子供を働かせてはいけません、虐待してはいけませんと平民には唱えながら、華族士族には黙認していると、そういうことか。政権のダブルスタンダードは今に始まったことじゃないが、それにしてもひどい」

「シロとクロに限りません。今この瞬間にも、華士族が出資して経営する工場や風俗店で16歳未満の子女が無償同然で働かされています。情報統制はあれど、みんなそのことを知りながら、自分が損をしない限り見て見ぬふりです」

「社会は必ず上から腐るものよ。永世総理や大官房長官がひとたび認めてしまえば、法律も倫理も無視されてしまうわ。あのクーデター以前ですらそうだったでしょう。でもまあ、そんなことよりも、

 今後のことだけど、ナオコちゃんさえよければ、この家でずっと暮らしていいのよ。もちろんシロちゃんとクロちゃんもね。戸籍と住民票が無いから就学と就職はかなり制限されてしまうでしょうけど」


 そのことはナオコも思案に暮れていた。本当は自分たちを苦しめたやつらに復讐したい。罰を与え、財産を取り上げて、悪質な連中には血で贖わせてやりたい。その結果として、カオリたちもシロの同輩たちも救われるのなら、願ったり叶ったりだ。


 シロとクロの共感覚能力は、そのために大いに役立つだろう。でもそれでは、幼子まで利用して骨までしゃぶりつくす安藤政権と、道義的に同列になってしまう。このまま山中家に預けた方が、まだしも幸福な生活を送れるのかもしれない。


「いますぐ決めなくていいわ。ナオコちゃんも疲れているでしょう。細かいことは明日、お話ししましょう」


 おばさんはそう結んだ。


 ナオコはあくびをしながら、布団に潜り込んだ。布団は三つ敷かれていたが、シロとクロは仲良く同じ布団で眠っている。


 自分で思っている以上に心身頭脳を酷使してきたらしい。眠りはすぐに訪れた・・・・・・。


 ・・・・・・あまりの快感に目が覚めてしまった。驚いて跳ね起きると、布団の中に何かこんもりしたものがある。ど、どういうこと? なに、なに?


 布団をはがすと、シロがナオコの寝間着をめくっておへそを舐めていた。これが世にいう夜這いというやつでしょうか?


「(ちょっとシロ、何してるのよぅ。お姉ちゃんだって疲れてるんだからね。いやいや、それ以前に、これってあんまりよくないことだよ。子供がしちゃいけない事なんだよ、ほんとは)」

「(えー、クロちゃんとはしてるのに? せっとくりょくがないよ、お姉ちゃん。それに、シロはもう子供じゃないよ。もうたくさん働いて年長者様方に御奉仕した帝国臣民なんだから)」


 ナオコはシロにこんなことを言わせるもの全てを憎んだ。


「それにね、シロはナオコお姉ちゃんの恋人になりたいの。クロちゃんになって遊んだからじゃないよ? お姉ちゃんが、シロを救い出してくれた白馬の王子様だから。クロちゃんがお姉ちゃんイチャイチャしたいのも、おんなじ気持ちからなんだよ。

 シロとクロは、ずっとだれかのどれいだったの。どれいは自分のご主人さまをえらべないでしょ。でもシロとクロはもうどれいじゃないの。自分であいするひとをえらべるから。だれのことかわかる?」


 シロはナオコの弱点を精確にリズミカルに刺激してくすぐり続けた。


「も ち ろ ん お ね え ちゃ ん の こ と だ よ ♪」


 ナオコは笑い過ぎて酸欠になってしまった。気が付くと、いつの間にかクロも起きていて、ナオコの足の裏をこちょこちょしている。シロの感覚が伝わったのだろうか。


「シロばっかりずるーい。クロもお姉ちゃんを笑わせてあげるー」

「それじゃあシロはおっぱいフニフニするね」

「こらー。お姉ちゃんを寝かせなさーい」


 結局、全員、汗だくになるまで遊んでしまった。


「シロたちはね、お姉ちゃんのためなら何でもできるよ。人だって平気で殺せるよ。だから、ずーっと、ずーーーっと、いっしょにいようね」

「クロもね、おんなじ気持ちだよぉ。だから、クロたちを置いていかないで。いっしょにたたかおうよ」


 シロとクロが起きたのは、他でもないナオコの心の葛藤が伝わってしまったせいだった。


「うん、そうだったよね。こんな頼りないお姉ちゃんの味方でいてくれて、ありがとう。うれしいよ、すっごくうれしい」

「うれしいのにどうして泣くの~? へんなおねえちゃん」


 翌日から、布団は一組だけ敷かれるようになった。

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