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シロとクロ(全年齢版)  作者: はもはも
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11.エスケープ

 脱走犯ナオコ&クロは、つかの間の平和の中にまどろんでいた。


 ナオコは夜明けに目が覚めた。クロはナオコの豊かな乳房を枕に、健やかな寝息をたてている。ママになるのも悪くないな・・・・・・いやいや、お姉ちゃんだ、あくまでもお姉ちゃん。産んでないのにまっまはまずい。老けそうだし。


 トラックの速度が緩い。高速道路を降りたようだ。それから数回の停車を挟んで、どこかに到着したらしい。ついに公道ではまずやらないはずのバックをしはじめた。出たとこ勝負のはじまりはじまり。


「クロ、起きて」

「・・・・・・うん・・・ナオコお姉ちゃん、おはよ」

「今日もかわいいなぁ~じゃなくって、これから荷物がどんどん降ろされるよ。最後のひとつになったところで、さっと飛び降りて素早く逃げる。覚えた?」

「うん、わかった。でも怖いから、ちゃんと受け止めてね?」


 もちろんですとも。


 外はまるで夕暮れ時のように薄赤い。おあつらえ向きに朝もやが立ち込めている。荷降ろしのフォークリフトは有人だったが、コンテナをどこかへ運んでいる間に抜け出せそうだ。


 隠れているコンテナが最後になったとき、ナオコが先に荷台から飛び降りた。幸い、こちらに注目している作業員はいない。


「おいで、クロ」

「うん!」


 目をつむって飛び降りたクロを真正面から抱きとめた。これって「だいしゅきホールド」じゃない? ナオコはコアラみたいに抱きついて離れないクロの子供体温を心ゆくまで堪能したかったが、すぐ我に返って辺りを見回す。荷降ろし従事者以外に人はいない。ゴーゴーゴー!


 どこに出口があるかわからないけど、とりあえずクロの手を引いて歩く。少女と幼女がふたりきり、どう考えても異質で場違いだ。走り出したい衝動を懸命に堪えながら、血眼になって出口を探す。


 まるで地平線の彼方かと錯覚するほど、霞むほど遠くに正門ゲートらしきものが見えた。横に警備員詰め所がある。壁の高さは3mくらい。クロには越えられない。クロを背負った自分にも無理そう。


 しかたない。何食わぬ顔で、さも当たり前のように出口を通過するしかなさそうだ。クロと繋いでいる手が汗ばむのを感じる。喉が渇く。がんばれあたし、静まれあたし。なぜかこんな時に「入鉄砲に出女」という言葉が頭に浮かぶ。いやいや江戸じゃねーし。


 その時、天祐が起きた。正門前にバスが到着し、早番の作業員を吐き出し始めた。いまだ!


 カードキーで開く改札口と詰所の間を全力疾走で駆け抜ける。「ん!? なんだお前ら! ちょっと待ちなさい。こら!」と警備員が叫び、脇のドアから一人が飛び出して来た。声からして若い。ぐんぐん迫ってくる。怖くて振り向けない!


 ナオコとクロは作業員の群れに突入した。セキュリティ上の理由で全員の顔が見えるように、入場ゲートが狭いところなのが幸いした。忙しない朝に殺気立った出勤者たちの密集陣を、流れるようにすり抜けて進む。追いかけてくるお兄さんには無理だ。


 自動車通りに出ると、早朝なのにけっこう渋滞していた。道路の反対側に電車の駅があって、そこからの歩行者が、信号が点滅していても赤になってもしつこく渡り続けるせいで、車がぜんぜん動けていない。ナオコは息のあがったクロを小脇に抱えて突き進んだ。信号を無視し、動き出した車の前を鬼瓦みたいな表情で運転手にガン飛ばしながら通過した。


 駅に着いた。券売機に震える手でなけなしのコインを投入し、最安切符を2枚買う。警備員は諦めたようだが、後ろが怖くてたまらない。クロに一枚手渡して改札口を通過する。正直もらしそうだけどトイレはがまん。すぐにホームに上がって、出発直前の電車に滑り込んだ。


 ドアが閉まり、電車が動き出してようやく緊張が解けた。涙がこみあげてくる。やった。やったよ。待っててシロ。お姉ちゃん、もうすぐそっちに行くからね。


 クロがナオコの注意を引いた。ナオコがクロを見る。クロは言った。


「ね、お姉ちゃん。クロの分の切符、こども料金でよかったんだよ?」


 アハハハハハハハハハハハハハハハハ。ナオコは爆笑した。

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