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普通の関西人、魔法使いになる  作者: かわむら咲
3/3

~魔法の日々の始まり2~

 テストなどをはさみ、二話と三話の間が大きく開いてしまったのがくやしいです。

到着した教室。そこは、眼前に広がる本棚、本棚、本棚。二つ並んだ長机にイスが二つずつ置かれている。エレナシアに背中を押され、教室の一番前へ。そこにいたイノセントさんが気を遣うように横にずれ俺を真ん中に配置したのを確認すると、話を始める。

 「みんな、おはよう。今日は、新しい仲間が増えるよ。みんな昨日とか今日の朝とかにもう会ったかな?でも改めて、挨拶だけでもしてもらおうか。」

 そういって優しく微笑んでみせると、イノセントさんは「どうぞ」と小さく呟いた。

 「えーと、改めて五代広臣です。五代でも広臣でも眼鏡でも好きに呼んでください」

 「はい!改めてよろしくお願いします、広臣さん!」

 「うんうん、よろしくヒロオミくん」

 「せいぜいがんばりなさいよメガネ」

 

 なんだかんだで自己紹介を終えて、席に着く。エレナシアの隣だ。後ろにはユヅキさんと、斜め後ろにはツンツンした態度のツインテの人が座っている。ちょっと斜めに振り返り、質問してみる。

 「朝会ったツインテの人、名前聞いてなかったんやけど」

 「あたし?あたしはタカノ。タカノ・シャルロアンリ。よろしくね、メガネ」

 「あだ名で眼鏡は冗談のつもりやったんやけどな」

 苦笑しながらそう言うと、タカノとやらは機嫌を損ねたのかぷいっと顔を背け、「わかってるわよ!」とぼそっと文句を言っていた。なんだか、反抗期だった時の妹を見ている気分でほっこりする。


 今日は、授業はしないらしい。そんな、急に二年の内容、しかも魔法のを教えられたって頭に入るはずがないのも確かだ。そのかわり、みんなで親睦会的なアレをすることになった。それにともなって、校長とイノセントさん以外の教師の紹介が行われることになった。

 「僕のほかにも先生はいるからね、五代くん。安心して頼りにしていい人ばかりだよ」

 「そうなんですよ広臣さん!」

 「ほー、そーなんですね」

 「校長にはもう会ったんだよね?」

 「はい、でもそれ以外は」

 「ん、ワタシの出番かな?」

 突如後ろからにゅっとでてきた影は、スタイルのよさすぎる女性だった。真っ黒のロングヘアに、おそらく銀製のハート形の耳飾がよく映える。

 「ワタシはべリアル・インペキュアス。この学校の保険医さ」

 「実は僕の幼馴染でね、学生時代一緒だったんだ。ね、べリアル。」

 「イノは昔っからなよなよしてるよね」

 「もう、あんまり余計なことは言わなくていいのに。恥ずかしいでしょ」

 「まあまあ、落ち着きなよイノ。マリエさん連れてきたから」

 なんだか、二人があまりに仲良さげにしゃべるので、こちらが邪魔している気分になった。

 「で、マリエさんはどこに?」

 「ここです」

 イノセントさんの背後に、透き通るような麗人。編み込みで流された前髪から、白く滑らかな額が印象的だ。

 「マリエ。マリエです。ほんとの名前はもっと長いけれどマリエです。総務ですが授業もする機会もあると思いますよ。」

 この人さては、ちょっと変わった人だな。


 生徒も変わってれば先生も変わってる。普通に、今まで通り生活していれば絶対に遭遇しなかったタイプ。そういうのが、ここに来てたくさんいる。違和感なんて、覚えている暇もない。多分、当分の間は帰れないのかもしれないというのも諦め半分自覚する。というかほんまにここどこなん。そんなことを考えながら、少しばかり賑やかな教室の中心でなんか馴染みの無いものを飲んでいる。

 「ねぇねぇ、ヒロオミくん。」

 「なんや、ユヅキさんか。」

 「君は、日本から来たっていうので合ってる?」

 「おう、日本の兵庫。まぁここ来たときは大阪におったんやけど」

 「ここがどこかわからないで不安にならない?」

 「ん、まぁならなくはないけどな」

 「実は僕たちもここがどこか正確にはわかんないんだ」

 「はぁ…はぁ!!?」

 「そこでだよ」

 「うん」

 「ちょっと耳貸して」

 「ほぉ」

 「…僕たち四人で突き止めちゃわない?」

 急に、周りが静かになったように感じる。どう反応するべきかわからなかった。そりゃ、帰りたい。知らないことは知りたい、それは当たり前の人情だ。だが、諦めかけたのに、こんなこと言われたら、乗らない他はない。

 「できる手だてはあんの」

 「お、乗ってくれるんだ。あるに決まってるじゃないか。ないなら言ってない。」

 「他の二人にはもう言ってあるんか?」

 「うん」


 窓に、橙色の西日が差し込み始める。暮れて、部屋に帰る頃。四階分ある寮の、一番上の階、四階に部屋がある。そこまでの階段は、レトロな造りになっている。細かい装飾のふちには微かに汚れがある。長い間、使われてないんかな。部屋に入って、水道から汲んだ水を備え付けの鍋に入れ、火にかける。よっこらしょ、とイスに腰掛けて、お湯が沸くのを待ってみる。紅茶の葉は、備え付けを食堂っぽいところでもらえるが、緑茶とかが飲みたい。

 「…うーん、はぁ」

 意味もなく、ため息をついて、先ほどの提案を反芻する。にしても、俺がここどういう場所かようわからんのは百歩譲ってわかるとして。なんであいつらがわからないのか。先生らは知ってんのかな。言わない意味、とかがあったりするんかな。大人は知っていて、子供は知らない、とか。そういうのが、あるのかな。そうこうしてれば、ゴポゴポ音が聞こえる。なんにせよ、温かいもんでも飲んで落ち着かなければ。茶葉を入れたティーポットにお湯を入れて、立ち昇る湯気に安らぎの香りを感じる。家に帰りたいなんて思っても、帰る家は流されたし。どうしようもなく、悲しい気分になった。あんまり周りの出来事に対して関心を抱かないが、自分の家族や自分のことになれば話は別だ。自然に目から零れる涙は、温かい。明日、目が腫れてしまったらどうしようか。温かい涙と反比例するように、窓の隙間からは冷たい風が吹き込むようになった。夜も更けたんだな。良い温度に冷めた紅茶を啜りながら、目元を拭った。ひりひりする。やっぱり目元が腫れる気がする。

 「もしもーし、いる?ヒロオミくん、いる?」

 「いたらへんじしなさいよね」

 「いますかー?広臣さん!」

 出ていくのがめっちゃ嫌。恥ずかしいし、めんどくさいし、しんどいし。

 「…なんですのん?」

 声がかすれている、目も赤い。頬もきっと紅潮している。なので、ドア越しに返事をする。

 「なんか、声かすれてない?大丈夫?風邪?ここ、夜は冷えるよね」

 「無理はしないでください」

 「いや、大丈夫なんやけどな」

 決意を決めて、ドアを開ける。痛々しいレベルの涙やけと、未だに頬を伝う涙に目の前の三人が唖然とするのがわかる。

 「何ないてんのよ…。」

 「え…。何かありましたか!?大丈夫ですか!?」

 「ヒロオミくん、どうしたの」

 「いやだから、大丈夫や言うてるやろ」

 困惑の表情が突き刺すように見つめてくるので、顔をうつむけたくなる。

 「私たちお邪魔でしたかね…?」

 「とにかく落ち着いてからでいいよ。また、話そうよ」

 「しっかりしなさいよ…。」

それから後は、流れ作業のように風呂に入り、毛布を巻き込んで丸まった。


 目の覚めた翌朝は、遠くの見づらさにありありと気づかされる。鏡を見れば、いつも以上に目が腫れぼったいのが鮮明に確認できる。服を着替え、部屋の外に出て、自然に足が左方向に動く。ステンドグラスの張られた、聖堂のような場所。

 閲覧ありがとうございました。

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