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神の子英雄物語  作者: 白米
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ティウ・デ・ソルド


 この世界は神や天使が住まう天界、人間や動植物が住まう地上、悪魔や魔族が住まう地獄の三つに区分されており、各界不可侵条約が結ばれていた。“結ばれていた”と過去形なのは、三十年前にその条約が破られたからである。

 もともと地上に住まう人間たちは神を崇め信仰し、地獄の存在も認めていた。生前に善い行いをすれば死後は天国に召され、悪しき行いをすれば地獄へ導かれると。しかし地獄の者がその均衡を破った結果、地獄は人間にとって死後の世界ではなくなってしまった。

 三十年前、地獄にいた悪魔が地上に侵攻したのを皮切りに、下級魔族が地上へと放たれた。これに対抗すべく人間たちは軍を上げ、そして地上と地獄の戦争が始まったのだ。天界は俯瞰すると決め込んだらしい。

 ちなみに地獄を支配しているのは閻魔やらヤマやらイマやら色んな名前で呼ばれる魔王様。それに続いて知能が高い悪魔、その他を総称して魔族と呼ばれる種族が地獄で生活している。地上に湧き出た下級魔族や悪魔の駆除は軍だけでは数が足りないため、魔王軍以外の個体や少数で活動している魔族たちを専門に駆除する退魔師という職業も確立された。


 地上への侵略が魔王の指示なのか悪魔の独断なのかはわからないが、それで勃発した地上と地獄の戦争は今なお続いている。十年前に一度とある退魔チームが地獄まで行き、自らの命と引き換えに魔王を封印したらしいが、その封印も完全ではなくてその後三年で再び魔王は復活した。

 その時の退魔チームがまあ個性的で、魔王が復活するまでの三年間はそのチームの話が国の端にある私の村まで言い伝えられた。どこかで伝聞が違っていったかもしれない。なぜならそのチームメンバーというのが、異世界から来たと言い張る剣士(自称勇者)を筆頭に、魔術師(自称魔女)と戦闘狂(自称天使)と医者(自称ヒーラー)だけだというのだから。


 余談であった。そもそも異世界など地獄や天界以外のどこだという話であるし、魔女など聞いたこともない種族。それに仮に人間界に天使がいたとして、人間の一退魔チームに所属するとは思えない。と言われ、なるほど確かに話が誇張されているとは思った。

 そうして魔王が復活して七年が経って、未だに戦況は地上が守りに徹している状況である。


 以前、自称勇者の男が率いた奇怪なチームに属していたといわれる天使。あれの存在が今一番叩かれている。大炎上だ。

 人々は神を崇め、信仰していた。なのに、どれだけ祈っても神も天使も救いの手を差し伸べてはくれない。神も天使も天界も存在しない。今、人々の間では熱心な信者を除いてその認識が一般常識となってしまった。

 私にとっては、非常に生きづらい世の中になった。 私は神を母に持つ、神の子だから。


 十二歳で故郷の村を出た。小さな村だった。

 私の母は神で、人間の父と恋に落ち、そして生まれたのがこの私。ティウ・デ・ソルドである。父と母の出会いは詳しくは聞いていないが、母が誤って下界に落ちてきた際、父が解放したことがきっかけだったらしい。母はどじっこなのだろうか。私は母を見たことがないのでわからない。

 幼い私は自分が神の子であるということに誇りを持っていた。いや、今でも誇りを持ってはいるのだが。当時はそれを言いふらして、自分は優れた存在だ、崇められる対象だ、と威張り腐っていた。

 そんな幼い私への目は冷たいものだった。魔王が復活する前、まだ神の存在が認められていた頃は「頭のおかしい子」程度の扱いだったが、魔王が復活してしばらくすると天界の存在自体を否定され、私は民の攻撃対象となった。


 神や天使は認められない存在となり、協会が無くなって、そして私は自分の存在を疑った。父には何度も確認した。「私の母は本当に神なのか?」と。父は首を縦に振る。しかし、村人たちの攻撃は日々酷くなる。

 幼い頃は鵜呑みにしていた父の言葉にも、大きくなるにつれて疑念が湧いてきてしまった。それでも母を否定したくはなかった。自分の存在も否定されて悔しかった。絶対こいつら全員見返してやるとはらわたが煮えくり返っていた。私は、割と過激派なのかもしれない。

 そして「そんなに神の子だってんなら、魔王を倒して見せろよ」という挑発を真に受けた私は本当に幼かったと思う。後悔はしていないが。これを契機に旅に出ることにしたのだ。もう五年も前の話。

 残念ながら、そんな幼少期を過ごした私にまともなコミュニケーション能力など備わってなどいないわけである。小さな田舎の村を出て五年が経った今でも共に旅ができる仲間一人見つけられず仕舞いだ。一応陸軍には三年ほど在籍し剣技を鍛えたり仲間集めに励んだりしてみたが、幼い少女の戯言だとあしらわれておしまいだった。

 軍を出て再び旅を始めたのは十五歳の時。色んな経験をした。培ったものといえば、剣技とコミュニケーション能力くらいだろうか。




 そんなこんなで今年十七歳を迎える私は、「サクラノ村」という桜で有名な村を目指している。この季節には村の中心に聳える大きな桜が満開になってとても綺麗だとか。三日前に出立した街のパン屋のおばさんが教えてくれた。

 今越えようとしているこの程度の丘ならば、馬を使わずとも自力で越えられるくらいには鍛えてある。しかし魔術も得意というわけではなく、剣技も下級魔族はいなせるがだからといって誇れるほど優れているわけでもない。情けない話だが、神の子ティウ・デ・ソルド、仲間がいないと魔王どころかその幹部にさえ太刀打ちなどできないだろう。

 本当に神の子なのだろうか……疑うほどに私に特別な力などない。


 今日中にはこの丘を越えてサクラノ村に着けるだろう。日が傾き始めたが、丘にも桜の木がちらほら植えられており、その数が多くなってきた。丘にも花見に来る人も多いと聞く。

 天気もいいし気持ちいいな、と私自身は気に入っている銀色の髪をサイドで結んでそれを上機嫌に揺らした。左肩を毛先が何度も撫でる。花見客が多いと聞いたが、ここに来るまでにすれ違った人の数はせいぜい三人程度だ。今日は絶好の花見日和と思ったのだが。

 左腰に携えたエクスカリバー(三代目)を無意識に触りながら、なんでこんなに人が少ないのかとなんとなく疑問に思っていたその時だった。


「うえええええええん!」


 前方から、幼い子どもの泣き声がした。








初投稿です。よろしくお願いします。

長編の連載作品になる予定です。

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