最終話
が、そんなことはお構いなしとトレントの枝、もとい腕が何十本も攻撃を仕掛けてきた。
トレントの腕は非常に脆く、魔力を込めた手で触っただけで弾け飛んだ。まあ攻撃魔法みたいなところがあるので、この手で触れれば人間も余裕で吹き飛んでしまうが。モザイクかけないといけないくらいに弾け飛ぶことだろう。
つまるところ、このトレント自体はそこまで強くはないのだ。
シアにはいろいろ問い詰めたいことはあるが、今はとにかく助けることだけ考えて動くか。
「はー、面倒ばっかり起こすんだから」
つい本音が出てしまった。
とりあえず腕、もとい枝を破壊していく。攻撃される度に枝を破壊していくもんだから枝がどんどんと短くなっていく。
気がつけばトレントは一本の木になってしまった。いや言い方がおかしいな。枝がごっそりなくなって一本の幹だけになったのだ。そこそこ時間がかかってしまったが、非常に面白いオブジェが出来上がった。
トレント、黒々としていた目が真っ白になって口が開きっぱなしである。こういうモンスターも放心するんだな。
空中に浮かび上がり、木に埋まっているシアに近づいた。
少し離れた位置に手を当て、そのまま木の中に腕を差し込んだ。
「ダアアアアアアアアアアアアア」
トレントが叫んだ。
「ダーって叫び方ある?」
こう、もっとモンスターっぽい叫び方あるだろ。痛いのはわかるけども
バキっと木を割りながらシアの体を取り出そうとする。
「ダッ」
バキバキバキっ。
「ダダダッ」
メキメキメキメキメキ。
「ダアアアアアアアアアアアアア」
「怖い怖い怖い」
霊的な怖さもなければモンスターとして脅威でもない。でもなんだろう、こう、理解に苦しむタイプの怖さというか、知識外の唐突な出来事に対する恐怖というかなんというか。ちょっと口にするには難しい怖さだ。
まあ反面なんだか面白くもあるんだけど。ダアアアってなんだよ、お前さっきまでしゃべんなかったろ。
「よいしょっと」
バキッと、なんとかシアの体を幹から引き離した。シアの体についていた木の破片をポイッとそのへんに投げた。
突如、トレントがしぼみ始めた。やはりシアが魔力元だったんだな。シアから魔力を搾り取って大きくなったと。
でもトレントがシアを自分から取り込むことはまず無理だ。あんだけ弱かったんだ。シアが俺より弱いと言っても、このトレントに負けるような醜態は晒さない。
「まあ考えても仕方ないか」
起きてから聞けばいい。急ぐようなこともないしな。
そこでラッパがなってクエストが終了した。
『ミッショ――』
「ミュートで」
聞こえなくなった。便利なんだかなんなんだか。
空から降ってきたコインを受け取ってポケットに入れた。やっぱりこのクエストはシアを守るためのものだったらしい。もしくは父さんとシアの両方。とにかく終了したのでよかった。
シアを抱きかかえて行こうとしたとき、脚に何かが絡みついてきた。
「ダアァ……」
「ウソでしょ……」
膝辺りまでしかないちっちゃなトレントが脚に枝を伸ばしてきていた。黒くて大きな瞳が俺を見上げていた。が、その瞳ってただの空洞だよな。ずっと見てると吸い込まれそうで怖いんだけど
「お前おもしろモンスター枠じゃねーのかよ」
モンスター仲間にするゲームと違うんだぞ。
「ダメ?」
「そこしゃべるの? やっぱこえぇわ」
「ダッダッダダッダッダメ?」
「リズム刻むな。わかった、わかったから、空飛ぶから脚に捕まってろよ。離したら落ちるから気をつけてな」
「ダァ!」
おいおい、ちょっと可愛く見えてきちゃったぞ。ピルもペットって感じじゃないし、コイツの方がペット枠としては合ってるかもしれない。
こうして俺は新しい仲間を連れて家に戻った。
その日はじじいのハッシュドビーフを食べて風呂に入って寝た。トレントは俺の部屋の隅っこで丸くなっていた。犬かな。
詳細は明日起きてから訊けばいい。今はシアが回復するのを待つべきだと思う。
ちなみにシアは今俺の横で寝ている。少し遅い時間になったからな、スピカの部屋に戻すわけにもいかなかった。
熱もないし息も正常。このまま普通に眠り、普通に起き、普通に食事してくれればそれでいい。
普通の生活をしてくれれそれでいいんだ。
神様コイン現在九枚。ようやくやってきたリーチだ。シアにはちゃんとした生活を送らせてやりたい。そんな気持ちも胸に眠りにつくのだった。




