10歳 ー 2
今日は母さんと父さんが隣町に行ってしまった。ごくたまにだが、モンスターとか動物の肉を捌いて隣町に売りに行くのだ。あとは採れた野菜とかも持っていったか。今までは俺たちも同行していたが、俺が大きくなったということで二人で行ったのだ。子供がいない方がそりゃ楽だろうな。
昼食を食べ終えた俺は、自分とスピカの食器をキッチンに運ぶ。
「おにーちゃん、おにーちゃん」
スピカはとてとてと歩いてきて、俺を見上げてきた。
髪の毛をツインテールにしていて、歩く度に左右に揺れる。
くりくりした大きな瞳。大きくなるのが楽しみだ。
「どうしたスピカ。ご飯、もう少し食べたかったか?」
ふるふると、首を横に振った。
「おんも、いきたいの」
「外で遊びたいのか? しかしなぁ……」
両親には外に出るなって言われている。
が、まあ大丈夫だろ。
「よし、これ片付けたら公園行くか」
「わーい! おんも! おんも!」
両手を上げて喜ぶスピカ。その姿を見ながら、さっと食器を洗った。
手を拭き終わると、スピカが手を握ってきた。
「おにーちゃん! おにーちゃん!」
「そうだよ、お兄ちゃんだよ」
手を握り返すと、スピカに引っ張られた。外に出るのがそんなに嬉しいのか。
ちゃんと鍵を閉めてっと。さあ、妹と遊んじゃうぞー。
公園までの道のりも、スピカの話に相槌を打っているとそれだけで和んでしまう。こんな可愛い妹がいる生活。最高だな。
「ぶらんこー!」
「あんまりはしゃぐんじゃないぞー。あとブランコは危ないから砂遊びにしなさい」
公園につくのと同時に、俺の手を離して走り出してしまった。やっぱりお兄ちゃんより遊具か。こればっかりはどうしようもないな。
「アルくん?」
と、声をかけられた。
後ろを振り返ると、ソニアが立っていた。ソニアの横には可愛らしい女の子。
「その子は?」
「従姉妹の子。公園に来たいって言うから」
「お互いに子守か」
「そうだね。休日だし、仕方ないね」
ソニアの従姉妹もまた、彼女の手を離して走り出した。どうやらスピカとすぐに打ち解けたらしい。その間数秒。子供のコミュ力は恐ろしいな。
あっちはあっちで上手くやってるみたいだし、俺はソニアとおしゃべりでもしてるか。
「スピカちゃん、大きくなったね」
「子供の成長は早いもんだ」
「私たちもまだ子供だけどね」
「それもそうだ」
クスクスと、ソニアが笑っていた。
「そう言えばアルくん、中等部はどうするの?」
「どうするってどういう意味で?」
中等部まではあと二年ある。それまでにどんな勉強するのかってことだろうか。
「近くの中等部に行くのかなって」
「そりゃ地元だろ。地元つっても結局歩いて一時間だけど。なんでそんなこと訊くんだ?」
「アルくん、王都の中等部に行くのかなって思って」
「行かないよ、面倒くさい。それに王都なんかに行ったら父さんと母さんと離れ離れになっちゃうし」
「そ、そっか。それならいいんだ」
おかしなやつだな。
そんなことを思った次の瞬間、子供の鳴き声が聞こえてきた。風船が破裂したような強烈な鳴き声。ソニアの従姉妹の鳴き声だった。
急いで駆け寄ると、そこにはスピカが横たわっていた。
「嘘だろ……」
滑り台から落ちたみたいだ。
ちゃんと言いつけを守ってブランコには乗らなかった。それにいつも、俺がいないところではシーソーも滑り台もやめておけと言ってある。スピカはいい子だし、ちゃんと言いつけを守る子だ。
いやダメだ。こんな感情のまま、ソニアの従姉妹を見てはいけない。彼女のせいじゃない。これは、俺の落ち度だ。
「お、大人の人呼ばないと……!」
焦った様子のソニアが俺に背を向ける。
「待て」
「待てって、待てないよこんなの!」
「大丈夫だ。大丈夫だから。ちょっと眠ってるだけだ」
深呼吸を一つ、二つ。しゃがみこんで、脈を計る。どんどん脈が弱くなっている。顔は青ざめていて、このままではたぶん死ぬ。首の骨でもやったんだろう。
目が薄く開かれた。
「お、にい、ちゃん……」
こんな時でも笑おうとしやがる。こんなの、見過ごせるわけがない。
本当は封印しておこうと思ったが、こうなったら仕方ない、か。
「お兄ちゃんが痛いの痛いの飛んでけしてやるからな」
右手で頭を撫で、左手を胸の上に置いた。
「痛いの痛いの、どこかの悪い人のところに飛んでけ」
この身体になってから、初めて魔法を使う。スピカが死んでいたらダメだったが、まだ生きているなら十分やりようはある。
ソニアに見えないように、自分の身体で隠しながら魔力を込めていった。
少し経って、スピカの目が大きく開かれた。全快した証拠だ。
素早く立ち上がると、不思議そうに周囲を見渡して、再度俺の方を見た。
「おにーちゃん?」
「ああ、お兄ちゃんだよ。今日はもう帰ろうか。お兄ちゃん疲れちゃったから」
「んー、うん!」
そう言いながら俺の手を取った。
スピカの手は温かく、小さかった。
「大丈夫なの?」
不安そうなソニア。
「寝てるだけだって言ったろ? びっくりしてただけだ。それじゃあ、俺はもう帰るから」
「う、うん。またね」
最後まで心配そうに眉根を寄せていた。
なんとかバレずに済んだが、これからはもっと気をつけて行動しなきゃいけないな。




