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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
七章:お見舞いは突然に
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二話

 左手で手綱を握りながら、ヒザに乗せたタブレットを右手で操作する。


「素手て」


 手ぶらで見舞いに行くやつがいるかい。まあ今の所シアは他人なので仕方がないといえば仕方がないのだが。


「おいシア、ちょっと来い」

「なによ」


 そう言いながらもちゃんと横に座るのが偉い。


「お前が菓子持ってけ」

「なんで私が? アンタが持ってくべきでしょ」

「いいから。可愛い女の子に手渡しされる方が親父も喜ぶ」

「でも――」

「いいから。俺は手ぶらでも問題ない」


 シアはやはりため息を吐いていた。


「そんなに父親のことが嫌い?」

「嫌いじゃないさ。むしろ好きだ。いい父親だと思ってる」


 身体が大きくて、優しくて、情に厚い。正しいこととはなにかを俺たちにちゃんと教えてくれる人だ。常に俺たちのことを考えてくれるから俺もスピカも好きだ。ある一点を除いては、だが。


「ホント、アンタのことまったくわからないわ」

「だから会えばわかるって。すぐわかる。ホント、秒で」

「アルテナさんはい人だからリゲルさんもきっといい人だと思うけど、アンタがこれだからちょっと怖いわね」

「俺たち家族を俺基準で考えるんじゃない」

「アンタ基準で考えてるわけじゃないわよ。基準をアンタにしたらスピカだってとんでもない人間になってておかしくないし」

「お前が俺に抱いてるイメージはなんなの……?」

「クソ、野郎……?」

「イメージとは」


 もっと具体的に言えんのか。いや、世の中にいるクソ野郎全般を指してるのか。それはそれで腹が立つな。


「まあ、アンタにもいいところは多少あるし、そこだけは両親に似たのかもしれないけど」

「その言い方だと俺の九割否定されてる気がしないでもないが」

「九割否定してるのよ」

「ホント、お前といると飽きないよ」

「私はアンタと一緒にいたくないんだけどね」

「本音が聞けて嬉しい限りだよ」


 正直、こういうやり取りは嫌いじゃないんだ。なんだかんだ言ってノアは良いやつだ。それにいい女でもある。きっと俺が本気で力で抑え込もうとしていないことだってわかってる。わかっていて付き合ってくれてるんだ。


「でも、たまにここに居てよかったなって思うこともあるわ」

「お、急にデレたな。どうした。そろそろ俺の魅力にメロメロか」

「んなわけないでしょ。調子に乗らないでよ」


 そんなことを言いつつ、馬車の方に戻るような素振りはなかった。


「あんまり言いたくはないけど、アンタには少なからず感謝してるのよ。あんな城から助け出してくれて、病気の方も治してくれて、こうやって人の温かみみたいなのも知ることができた。アンタがいなきゃ、人間と関わることなんてなかったでしょうね」

「じゃあ良かったじゃん。魔族に囲まれて肩身が狭い思いをしなくて済んだ」

「でもムカつくこともあるわよ」

「それは俺の行動に対してだろ?」

「そうよ。アンタが私をレグルス家になんて連れて来なければ、私は家族なんて知らなくて済んだんだから」


 右足を上げてヒザを抱えた。今もそうだ。俺のことを見ようともしない。


「イヤなのか、今の生活が」


 確かに、俺が連れてこなきゃ知らなくていいことなんてたくさんあっただろう。特にシアは魔王城で虐げられてきたんだ。こんな世界があるってのは衝撃だったと思う。


 それでも、俺はシアを連れてきたことが間違いだとは思えないのだ。


「イヤじゃない。でもこんな温かい場所があるなんて知ったら、今まで私が生活してきた場所はなんだったんだって、今まで過ごしてきた時間はなんだったんで思っちゃうじゃない」


 顔が険しくなった。


 シアの気持ちがわからないわけでもない。俺だって101回の転生を経てここにいるのだ。虐げられたこともあるし、心が壊れそうになったことだってある。幸せに暮らしているやつを見て憎いと思ったことなんて何回もあった。


 まあ大体は虫の時とかなんだけど。そもそもそういう時ってのは「人間っていいな」みたいな感情の方が大きかったりする。


「じゃあいいじゃん。今幸せなら」

「そんな簡単なことじゃないでしょうが」

「忘れることも難しいだろうけど、今は今で楽しめよ。嫌な記憶なんだろ? じゃあそこからの落差があるって考えれば、今ここにいて幸せだなーって感じてればいいだろ」

「だからそんなに簡単には切り替えられないんだって……」

「すぐに切り替えろだなんて言ってないさ。ただ、今は今、昔は昔って思っておけばよくないって話」

「みんながみんなアンタみたいな鋼のメンタルしてるわけじゃないけど」


 そう言いながらもシアは薄く笑っていた。


「そうなれるように努めたいものだわ」

「ま、そのために俺も手伝ってやるから安心しろ。人間になれば今よりずっといい暮らしができるぞ。もちろん精神的にな」


 今はまだ魔王という立場が邪魔をする。魔族が攻めてくるかもしれないし、それによって他人に迷惑をかけるかもしれない。たぶん、そうやってシアは怯え続けている。


「そしたら結婚もできるしちゃんと子供もできるしな」

「言っておくけどアンタとの子供だけは勘弁だわ」

「直球」


 嫌われてはいないだろうが別段好かれているわけでもないだろう。今はそれでもいいさ。こいつが今よりも幸せになれれば、俺がアルファルドになったことにも多少の意味があるってもんだ。


 しかしなんだかんだ言ってもシアが笑ってるならいいか。


 俺は馬車を走らせて病院へと向かった。この辺では一番大きい町で医療技術も発達している。医療器具が多く存在し、魔法の技術も一番高い。にも関わらず親父は退院してこない。


 親父の腰痛、実はただの腰痛ではない。なにかしらの魔法を施されている。しかも元魔王の俺でさえ解除できない魔法であるから非常に厄介だ。俺が補助系の魔法が苦手だ、というのもある。

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