一話
ようやくというかなんというか、とうとうこの時がきてしまった。
母さんに言われるがままに馬車を借り、馬を繋いで一息ついた。
「なんか、あんまり嬉しそうじゃないわね」
馬車に腰掛けているシアが言った。
「そういうお前は随分とつまらなそうだな」
「私はいつもと変わらないわよ。で、アンタはなんで嬉しくないの? 久しぶりなんでしょ?」
「そりゃ、そうなんだが……」
そう、今日は久しぶりに父さんの見舞いに行くのだ。俺は畑仕事だのなんだのと言って今まで一度も見舞いには行かなかった。まあそれ以外にもいろいろ理由はあるのだが、それを本人に伝えるのは気が引ける。
「なんで今までお見舞い行かなかったわけ? アンタの父親でしょうが」
そう言うシアは俺のことなどまったく見ていなかった。いつも見ているはずの森の方をずーっと見ている。
「いろいろあんだよこっちにも。今日行けばお前もわかる」
「なんで私まで行かなきゃいけないのよ。家族で仲良くやってればいいじゃない」
「もしかしたらお前も家族の一員になるかもしれないんだぞ。行くに決まってるじゃないか」
「は? ヤダけど?」
「そこは「ドキッ、私が、家族……?」ってなるところだろうがよ」
「今までのこと、私なに一つとして忘れてないからね」
「今までのことってなんだよ」
「勝手に風呂には入ってくるわ、ベッドに無理矢理連れ込まれるわ、クソみたいなイベントに駆り出されるわ変な格好はさせられるわで散々よ」
「変な格好はお前が勝手にやったことだろうがよ……」
おそらく、いやきっとたぶんレッドスカーレットのことだと思うけどあれを強制した覚えは微塵もない。
「とにかく、私は家族とかそういうのに興味ないから。私はこの世に生まれ落ちたその日から独りなのよ。これからずっとね」
魔王は生命から生まれることはない。突如として、この世の理のようにどこからともなく現れる。最初から魔王だと崇拝されるのと同時に畏怖の象徴として君臨し続け、ディアボリックシンドロームによって命の灯火が消えるのを待つ。自分と同等の存在を持つこともなければ伴侶を設けることも子を授かることもない。だからだろうか、家族という感覚がわからないのだ。
しかしそんなことはどうでもいい。
腕を伸ばしてシアの頭を掴んだ。
「なに、すんのよ……!」
「お前がどう思おうと関係ない。俺がお前を連れていくって言ってんだからお前は素直に従えばいいだけだ」
「そんなの、家族でも、なんでもないでしょう、が」
俺の腕を掴んで無理矢理剥がそうとしているらしいが、シアのように腕力もなく、魔力でも俺に勝てないような脆弱な存在がそんなことをしても意味がない。
「ふはは、お前が俺に勝とうなどと片腹痛いわ」
「痛い痛い痛い」
「当たり前だ、痛くしてるんだからな」
「手加減を覚えなさいよ」
「うるさい。とにかくお前も一緒に行くんだぞ、いいな」
「よくな痛い痛い痛いんだってば!」
ポコポコと胸に拳が当たるが俺にはノーダメージだ。まあ、魔力がこもっているせいで馬車が壊れそうなほどの暴風が起きているのだが。
それを俺の魔力で無理矢理押し込む。
「はい、わかったら用意すること」
手を離すとシアは「はあ」とため息を吐きながら家の方へと戻っていった。なんだかんだと言いながらちゃんと用意をするんだろう。そういうところは素直に可愛いと思う。本人には言わないけど。
全員の用意が終わり、俺は馬を走らせることにした。
ちなみに今回のパーティはこんな感じだ。
アルファルド
職業:農夫
武器:見舞いのお菓子
レベル:50(レベル詐称能力使用、本来のレベル100)
シア
職業:ニート
武器:素手
レベル:50(レベル詐称能力使用、本来のレベル200)
アルテナ=レグルス
職業:母
武器:お土産のフルーツバスケット
レベル:44
スピカ=レグルス
職業:妹
武器:お見舞の花束
レベル:15




