最終話
電気を消してから外に出た。
「いるんだろ」
俺がそう言うとじじいが姿を現した。
「俺に言わなきゃいけないことあるんじゃないのか?」
「うむ、とりあえず座るか」
ベンチに腰掛けた。が、じじいはすぐに喋ろうとはしなかった。
仕方がないので数分待つと、ようやく口を開き始めた。
「イズルはのう、最初にバグに取り込まれた人間じゃった」
「俺の先輩か」
「そういうことじゃな。ただ問題があった」
「あの性格だし問題しかないと思うけどな」
「正直なところ、ワシでも転生先を選ぶことはできん。完全にランダムじゃからな」
「んでスライム十一連とかした俺は相当な強運なんだろうな」
クソみたいなところで運を使ってしまった感はある。
「ただし、多少はそのランダム要素を傾けることはできるんじゃ。イズルの異常性は理解しておったからのう、強力な力を持たない生物に転生させようと努力はした」
「でも無理だった」
「あれこそ強運じゃ。強いモンスターにばっかり転生しよった。王族貴族なんかの転生もあったな」
「俺とは天と地の差だな」
「そんなわけじゃから、お前とイズルは能力にかなり差がある。転生一回分以上のな」
「じゃあイズルが暴れたら俺じゃ止められない」
ここでふと妙な考えが浮かんでしまった。
「お前、もしかしてイズルをなんとかしたくて俺をバグに巻き込んだんじゃねえだろうな」
「そんな器用なことはできん。じゃがまあ、イズルをなんとかして欲しいとは思っておったよ」
「そりゃ俺もなんとかしたいが、俺とイズルに差があるんじゃかなり難しいだろ。なんでもっと優遇しなかったんだよ」
「優遇したら今度はヌシが調子に乗るじゃろ」
「それは間違いない」
我ながら情けないが、たぶん俺は調子に乗ってしまうだろう。
「ワシもヌシにはいい転生先に上振れるようにしたんじゃよ? でもヌシが強運じゃった」
「神様が聞いて呆れる」
神様のくせにあまりにも無力すぎるだろ。
「そんなわけでおヌシとイズルとには差がついてしまったわけじゃ。と言ってもレベルの上限は決まっておるからレベルそのものは互角じゃよ」
「全然勝てる気がしないんだが」
「やり方が悪いんじゃと思うぞ。おヌシにはおヌシのやり方がある。それをまず見つけないと、次に対峙した時もあしらわれて終わるじゃろうな」
「俺のやり方か……」
「まあゆっくりと考えるがよい」
「ゆっくりしてる時間なんてあるのか?」
「イズルは何事においても楽しんでおる。次に接触するのはもうちょっとあとだと思うぞ」
「神様の勘ってやつか?」
「そういうことじゃ。その間に考えるといい」
「コイン集めにライバルに、急に忙しい転生生活になったな」
「ハハッ、ライバル」
「笑うとこじゃねーんだよ」
ハゲ頭を思いっきりひっぱたいた。ちょっとだけシリアスな感じだったのに一気にぶっ壊された。
「これだけの差があってライバル。ハハッ」
「おめーのせいだよ!」
もう一発お見舞いしてやった。
「今日はゆっくりと寝るのがよろしい。明日もなにがあるかわからんからのう」
「明日もなんかさせる気なんかい」
「おヌシはコイン集めに精を出さなきゃならんじゃろ?」
「イズルのこともあるし数日お休みしたいが」
「そんなことじゃ立派なオトナにはなれんぞ? 身体に鞭打ってでもキリキリ働かねばな」
「それは立派な大人じゃなくてただの社畜だ」
思わずため息をついてしまった。コイツは俺をどうしたいんだ。
「とりあえずもう寝るわ」
「それがよろしい。ではの」
スーッと、足元から徐々に消えていったじじい。きっとこれからも消えるバリエーションが増えていくに違いない。
一度風呂に入ってから床についた。正直イズルに勝てるイメージが湧かないのだが、このままやられっぱなしというのも癪だ。
目を閉じてどうやったらイズルに勝てるのかを考える。
しかし、結局なにも思いつかないまま暗闇に飲まれていく。俺の平穏な毎日がどんどんと良くない方向に向かっている。だからこそ今は寝てしまおう。眠っている間は、そのすべてを忘れられるのだから。




