10歳 ー 1
「アルくんは、好きな人っているの?」
と、ソニアが聞いてきた。ちょっとだけ顔が赤い。
「特にはいない。しいて言うなら父さんと母さん」
「そ、そうなんだ……」
完璧な返しだ。我ながら素晴らしい。
「お前はいるのか?」
今度は俺が訊く番だろう。セオリーって大切だ。
「お父さんと、お母さんかな……」
こいつパクリやがった。もうちょっと捻れや。
「いいことなんじゃないか。自分の両親が好きっていうのは」
公園のベンチから立ち上がった。
さすがに十歳ともなると、テキトーにかけずり回ってたらそれだけで面白い、なんて時代は通り過ぎている。それに小さい村だから、これくらいの年から狩りとか農業を手伝うヤツも増えてくる。必然的に遊ぶ時間も、遊び自体も変わってくる。
学校にはちゃんと行っている。学校まで歩いて一時間っていうのを除けば、教育を受けられる環境っていうのはありがたいもんだ。普通に教育受けるのも面白くないから、とりあえずテストはいつも満点を取ることにしている。体育も満点だし、学校では有名な神童だ。
ちょっとやり過ぎた感はあるし、普通の生活が欲しいとか言ってるヤツのやることじゃないかもしれない。
でもほら、やっぱり優越感って大事だから。
欲望、大事にしていこう。
「んじゃ、俺帰って勉強するわ」
「そ、それじゃあ私も一緒に勉強する!」
「まあいいけど、俺中等部の勉強だぞ?」
「大丈夫だよ! 私もついていかれるように頑張る! アルくんに追いつきたいんだ」
「お、おう。頑張れ」
これだって割と日常みたいなもんだ。
俺が勉強してればソニアも勉強すると言い出して、必然的に二人で教科書や参考書を広げる。
俺は中等部の勉強でも高等部の勉強でも問題ないが、ソニアは難しい顔で頭を抱えていた。
根性がある女だなとは思う。しかしなぜここまで必死なのか、俺にはまったくわからなかった。