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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
六章:逃げキレ!
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七話

 親父が魔族でないことは確かだ。魔族だったら俺が気付いてる。じゃあなんで親父がここに写っているのか。


「可能性としては研究者のこの男の子孫が親父ってことだな」

「可能性というかそれしかないような気がするけどね」

「ですよね」

「お父様が魔族だった場合、当然スピカにも魔族の血が流れているし、そうなると魔王である私が気づかないわけないし、逆にスピカだって私の存在に気付くはずだもの」

「その研究者の子孫が、研究所の上にある町に住んでいる、か。なんとも運命めいたものを感じるな」


 偶然か必然かは考えても仕方なさそうだ。親父に聞いても答えてくれるとは思えないし、他人の頭を覗き見るようなスキルもない。正直これはなくても良かったと思う。両親ともスピカとも上手くやれているのはそれもある。


 他の爆弾もなさそうなのでここの調査はもう十分だろう。


 上を見上げると薄っすらとだが暗くなりはじめていた。あと数時間逃げ切れば俺の勝ちだな。


「さっさと出るか。んでまた屋根の上ででも時間を潰そう」

「ここにいればゾンビたちも入って来ないだろうけど、私たちを発見して飛び降りなんかされても困るものね」

「そういうことだ」


 シアを抱きかかえると、何も言わずに俺の服をゆるく掴んだ。受け入れ方が従順すぎて逆に怖い。


 地上に戻って軽く穴を塞いだ。魔法、めちゃくちゃ便利。弱体化させられたといっても、元々の魔力が高いので時間さえかければ穴を塞ぐくらいはなんとかなる。


 ゾンビたちの動きが遅いのが非常にありがたく、屋根に登らなくても全然逃げられる。


 と、思っていた。


 図書館を出てすぐにゾンビたちが襲いかかってきた。しかもとんでもない速度で。


「あんの野郎ー!」


 たぶんゾンビたちの性能を上げたのだろう。後半になって性能を上げるんじゃない。ゲームじゃないんだぞ。


「どういうことよこれ! なんか魔法の効果もさらに落ちてるんだけど!」


 そうなのだ。いくら身体強化をしても重ねがけができない。普通の人間よりも少しだけ身体能力が高いくらいで制御されてしまっている。


『これが、神の力』

「こういう時に使うのはおかしくない? もっとあるでしょ? 使いみちないの? 暇なの?」

『暇ではないんじゃがの。こうした方が面白いかなあと』

「面白いのお前だけだよね?」

『ワシが楽しめればそれで満足じゃ』

「ただのクソ野郎じゃねーか……」


 こんなことしてる時間があるならさっさとシアの魔王特性を消して欲しいもんだ。


 走りながら空気の壁を作ってゾンビたちの進行を遅らせる。魔法の性能は抑えられているがそれでも多少の足止めにはなる。と言っても空気の壁に突っ込んだ衝撃で壁は壊されてしまうのだが。

「残りどれくらいだ?」

『残り五時間くらいじゃな』

「五時間ぶっ続けで走り続けるのはキツイな……」

『キツイ、ってことはできるってことじゃな?』

「俺はできてもシアはできない」

『お得意のお姫様だっこがあるじゃろ』

「必殺技みたいに言うけどそいう技じゃないからね?」

『これ以上ゾンビの性能を上げることはないから安心せい。それじゃあの』

「それじゃあの、じゃねーわ」


 勝手に話しかけてきて勝手に話を切り上げる。ホントに神様かコイツ。いや、神様ってそういうものなのかもしれないけれども。


 やはり屋根の上が安定かもしれない。バカは高いところが好きというが、俺はバカでないことを祈ろう。


 速度を少し落としてシアの後方に回った。なにをされるか想像できているのか、彼女はわずかに右腕を上げた。


「準備万端過ぎない?」


 お姫様だっこをした上で屋根の上へと跳躍。走る速度は早くても、なにもないところを登ってくることはないだろう。


「もうだいぶ慣れたわね。慣れれば案外恥ずかしくもないし割りと快適よ」

「人を乗り物みたいに言うな」

「勝手に判断して私を乗せてくれる乗り物」

「それだけ聞くとめちゃくちゃ便利な乗り物だな」


 確かに、その場の状況に応じて勝手に判断してくれるのだ。シアにとってはこの上なく便利だろう。


「俺にも約得があるからまあいいか」

「約得って?」

「お前、女の子に合法的にお触りするのは難しいんだぞ。特に可愛い女の子と密着するなんて全男の夢でもある」

「勝手に風呂にも入ってくるくせに今更なに言ってるんだか……」

「なにもかも全裸が正しいと思っているならそれは間違いだ。いいか、全裸よりもむしろ服を着ていた方がいい場合の方が多いんだ。わからんかなー、この差が」

「急に個人的な性癖をゴリ押しされても困るんだけど」

「性癖の話じゃない。男だったら誰しもそう思う。着衣にある、渺茫なる夢の可能性を」

「キモいキモいキモい」


 バッと腕で振り払われてしまった。こういうのも悪くないな。たまにはこんな感じで接してみよう。


 屋根の下を見下ろすが、目論見通りゾンビは屋根に上がってこられないようだった。爪で壁をガリガリやっているのが怖かったが、どうやら力いっぱい引っ掻いているわけではないらしい。ゾンビ化が解けて爪が剥がれているということもないだろう。


 しかし、ここで五時間過ごすというのは割りと苦痛な気がする。時間を潰す手段がなにもなく、けれど眠るわけにもいかないからだ。

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