三話
次の瞬間、外で大きな爆発音がした。建物が揺れるほどの爆風。急いで外に出ると、図書館の方で煙が上がっていた。ちなみにビリーの家も図書館の方向だ。町の住人達はなにごとかと表に出てきていた。
駆け足でそちらへと向かうと、ビリーが呆然と立ち尽くしていた。手には先程の箱。
「おいビリー」
「あ、ああアルか。どうしたんだい?」
「どうしたんだいじゃない。あれはどうしたんだ」
「え、いや、あー……知らないなあ……」
ビリーの手がプルプルと震えている。その震えが全身へと伝播して、アゴ肉や腹の肉が上下に揺れていた。
「もしかしてお前……」
「押してない! ボクはこのボタン押してないからね!」
「押したのかよ……」
それが原因で爆発が起きたとなれば、それはつまり生物兵器がばらまかれたということになる。
「おいビリー。今すぐこの町から出――」
ビリーは俺の話を聞く前に走り出していた。おそらく自宅の方だろう。
「あークソっ」
俺に対しては生半可な生物兵器はきかない。けれどこの町の住人はただの人間なのだ。このまま行かせたらビリーは確実に生物兵器にやられてしまう。
「待ちなさい若者よ」
と、そこでじじいが現れた。
「今はお前に構ってる暇はないんだ」
「大丈夫じゃ。心配することはない」
「心配するに決まってるだろ。生物兵器だぞ? 俺はともかく、町の人たちがどうなるかわかったもんじゃない」
「いやーわかるんじゃよそれが」
「は? もしかしてお前、あれがどういうものか知ってるのか?」
「知ってるもなにも、あの生物兵器はワシが与えたものじゃ」
「なに言ってんだコイツ」
「当時は人々が荒々しく争っていてのう」
「そういうオヤジギャクみたいなのはいらないんだけど」
「リリックと言わんか」
「ヒップホップ舐めんな。で、お前が与えたってんならあれがどういうもんか知ってるんだよな?」
「当然じゃ。先程も言ったが人々が荒々しく争っていたんじゃ。じゃからワシはそれを鎮めようとしてあの兵器を与えた。人の振りをして兵器を開発したということにしてな。その経緯じゃが――」
「この世界の男どもは喋りたがりだなあおい! そういう経緯とかどうでもいいからさっさとあれがどういう兵器かを言えよって!」
「もう、せっかちじゃのう」
「せっかちにもなるわ!」
「早漏の上にせっかちとはなんとも」
「最初のはいらねーから早く情報よこせよ疲れる……」
誰か配役変わって欲しい。
「こほん。アレは戦争を終わらせたい一心で作った渾身の生物兵器、ラブリーウエポンじゃ」
「ここでもラブリー」
「まあまあ落ち着け」
「お前の目には俺がどう映ってんだよ」
「あのウイルスに感染するとな、意識が混濁して無意識に人を襲うようになる。そして襲われた人間もまたウイルスに感染する」
「歩くの遅かったりする?」
「歩くのも遅いし「あー」とか「うー」とかしか言わなくなる」
「そうなった状態の人のことなんて呼んでるの?」
「ラブリーゾンビ」
「ゾンビじゃん」
「バイオなんちゃらじゃ」
「インスパイアとかオマージュって言っておけばなんでも済まされると思ってんじゃねーぞ」
「ラブリーゾンビに襲われた人は愛を求めてさまようようになる。ちなみに最初に巻かれたウイルスは小規模じゃから安心せい。基本的に二次災害で愛を振りまくというのがコンセプトじゃ」
「どうやって愛を確かめるんだよ」
「接吻じゃ」
「は?」
「じゃから、接吻、口づけ、キスじゃよ。人間を襲い、接吻をして愛を確かめ、それを感染させていくんじゃ」
「えーっと、どうやって元に戻すんだ?」
「完成前にボツ出されたからちゃんと製造されてないんじゃよ。発症してから半日もすれば元に戻るじゃろうて」
「なげーな……」
「ちなみに感染が拡大しないよう、12時間はこの町は封鎖することにした。しばらくこの町から出られず、この町に入ってくることもできん。そして一番厄介なのが魔法の弱体化と魔法力の減少じゃ。とにかく12時間はテキトーに過ごしておるとよい」
「聴き逃がせない部分があったぞ。魔法の弱体化ってなんだ?」
「あのウイルスは人々の戦意を奪うために作ったんじゃ。ウイルスとは別に魔法弱体化の霧を混ぜておいた」
「また余計なことを……」
「だから12時間は弱い魔法のまま逃げることになるじゃろうな」
「まあ魔法なんぞなくても逃げられるだろ」
「そういえばシアちゃんがまだ寝とったのではないかのう。早く行ってあげた方がいいと思うぞ」
「そういや珍しく遅かったな」
「それじゃあワシは行くぞ。ではのう」
今度はサラサラっと砂のように風に溶けて消えていった。出現と消滅のバリエーション増やしてきたな。
とにかく一度家に戻るか。
急いで自宅に戻ってシアを起こす。「なによ」と不機嫌そうに言う彼女を小脇に抱えて町の端の方に向かった。
確かに町はバリアによって覆われているようだ。魔法が弱体化した今となってはこれを破る手段はない。
「ねえ、下ろしてくれない?」
「ああすまんな」
下ろしてやると、シアがパジャマだったことに気がつく。着替えくらいはさせてやった方がよかったか。
「で、なにがあったの」
正直面倒臭かったが、ビリーが箱を持ってきたこと、ビリーが壺を取り出したこと。ビリーが壺を放り投げたこと――。
「本題に入れ」
仕方がないので割愛してウイルスのことを説明した。
「つまり半日は逃げ回ることになるのね」
「絶対に捕まるわけにはいかん。おっさんにキスなんかされたら生きていかれなくなってしまう」
「じゃあ花屋のユノさんだったらどう?」
「自分から向かっていくのも仕方がないと思う」
ユノさん、美人でおっぱい大きいからな。とか思っていたらスネを蹴られた。
「クソ野郎か」
「男の性だ。とにかくそのへんの民家にでも身を隠すとするか」
「まだ町民全員が感染したって決まったわけじゃないでしょ?」
「いやー、あの感じだともう無理なんじゃないか?」
ここから見る限りでもウイルスに感染した人たちが町を徘徊していた。




