最終話
俺がめちゃくちゃ頑張ったおかげか、ドラッゴンが余ったということで家に持ち帰ることになった。ドラッゴンを大きなカゴ目一杯に詰め込んで家に持ち帰った。
母さんもスピカも喜んでくれたのでよしとしよう。
ちなみにドラッゴン、俺が別の生き物だと思って今まで食べていたものがドラッゴンだったことが発覚。俺は基本的に料理をしないので食材がどうとかわからないし仕方ない。
夕食は当然ドラッゴン料理だった。退治後の食事会、でなくてよかった。
煮付けも味噌汁も最高だった。
「味噌汁」
こういう世界観でははやりなんとかスープというのが正しいはずなのに。
食事が終わって逃げようとするシアを捕まえる。
「さて風呂にでも入るか」
嫌がるシアを抱きかかえてそのまま風呂に直行した。ピルとスピカは食事前に入ったらしいので残っているのは俺とシアだけだからこれも仕方がない。
一気に服を脱がせて風呂場に足を踏み入れた。
髪を洗い合って身体を洗って湯船に入った。俺が縁に背中をつけ、俺の脚の間にシアが入るという形だ。一日中冷たい沼に浸かっていたせいかとてつもなく気持ちがいい。
「たまには一人で入りたいのに……」
「なんだ、俺と入るのは嫌なのか」
「アンタと一緒がどうとかじゃなくて、たまには一人で落ち着いたお風呂がいいっていうだけだから」
「なんだなんだ、やっぱり俺のこと好きなんだな。そうかそうか」
「いや、それも違うけど」
「即答はやめてもらっていい?」
まあこのやりとりがないとつまらないと言えばつまらないが。
「で、どうだったの?」
「どうだったもクソもあるか。上手くはいったが最後は俺一人だった。水は冷たいし沼には俺一人だし何十人といる冒険者は皆観客だし散々だ」
「そう、それは申し訳ないことをしたわね」
「申し訳ない? なんでだ」
「だって、私を人間にするためにやってるんでしょう?」
シアは俺を見ることなくそう言った。俺はシアに特殊クエストのことも神様コインのことも話していないはずなんだが。
「それは違う」
「なにが違うの?」
「お前はなにか勘違いをしているようだな」
「勘違いなんてしてないわ。これは私を人間に戻すためにやってること。前誰かと話しているのを聞いた」
「盗み聞きか、たちが悪いな」
「ぐ、偶然聞こえただけよ。コインがどうとか、私の魔王資質を消すだとか」
「偶然、ねえ。でもまあお前のためではない」
「じゃあどうして私を人間にしようとするの?」
「そりゃ決まってるだろ、俺のためだ。俺がやりたいからそうするだけだ。他に理由なんていらないだろ」
「私を人間にすることがアンタのためだって?」
「そういうこと。まあ細かいことは気にするなって。変な気を使わずに楽しく生きたらいいじゃねーか。せっかく魔王城から出たんだからな」
立ち上がり、シアの頭をガシガシ撫で回した。浴槽から出てシアを見やると、納得行かないと言うように眉根を寄せ、口まで湯船に浸かっていた。
風呂から出て部屋に戻るとじじいが待っていた。
「だからベッドに座る鳴って。ほら、さっさとコイン寄越して帰ってくれ」
手を出すとじじいは少し寂しそうな顔をした。
「少しくらいおしゃべりしてくれてもよかろうに……」
「仕事辞めて何年にもなり、昼間テキトーに散歩して仲間とおしゃべりで一日を消化するじじいか」
「形容が長い。似たようなもんじゃが」
「似たようなもんなのかよ」
上空からコインが降ってきた。
「唐突だな、しかも一枚」
「ダブルアップチャンスなんてそう簡単にあるもんじゃないわい。これからは一枚ずつ地道に集めることだのう」
「ケチくさいじじいだな」
「まあまあ楽しくやったらええ。何年かかったっていいんじゃから」
「え、やだよ。人間じゃなきゃあんなことやこんなことできないじゃん」
「ほんっとに自分に正直な男じゃのう……」
「もうストレス社会はこりごりなんだ」
「ストレスというほどのストレス、今までもなかったはずなんじゃがな」
「それを言われるとなにも言い返せないな」
「そこはちゃんとわかってるのね。それでもシアちゃんのことは人間にしてやりたいか」
「俺の野望のためだからな」
じじいは右手で白ひげをモフりつつ左の眉を下げた
「お主、必要なことはちゃんと口に出した方がよいぞ?」
「それどういうことだよ」
「聞いたままじゃ。それじゃあワシはこれで失礼するぞよ」
じじいは諦めたような表情を見せたあとで両手を叩いた。
次の瞬間、じじいの姿は消えていた。
「そういう能力あったら最初から使うべきでは……?」
今日もまたじじいの謎が増えた。
しかし、じじいの言葉が妙に引っかかる。
「クソ、なんなんだよ」
今日はシアを抱き枕にして寝るしかないな。
アイツを抱きしめていると嫌なことを忘れられるような気がする。それを思い知らされた、そんな夜だった。




